SaaS経営のキモ!経営レベルで見るべきオススメのSaaS KPI 9選

Masayuki Minato
Oct 22, 2018 · 9 min read

SaaSのKPIとSaaS経営の重要な切り口

SaaSビジネスは、他に類を見ない程、洗練されたKPI体系があるビジネスモデルだ。経営レベルからマーケティング・営業のファネルレベルまで、これまで数多くのSaaS企業が様々なKPIを試し、進化を遂げてきた。ある意味、KPIの体系の深さがSaaSビジネスの強さの1つだと、私は思う。

では、そもそもなぜKPIを設定するのか?

KPI設定の目的は、当たり前だが、私のような投資家のためにあるのではない。KPIは、本質的には顧客の声にならない声を結果指標から観察し、ビジネスの健全性を明らかにし、課題抽出→打ち手構築の意思決定につなげるためにある。そのため、「どのKPIを、どの粒度で見るか?」は、目標設定→課題抽出→打ち手構築→検証のPDCA、つまりSaaSの成長の確度とスピードに大きく影響する。

それでは、経営レベルでSaaSビジネスの状態を理解する際に、何の切り口で見るべきか?「SaaSのデータ・オタク」として有名な、Bessemer VPのKristina Shen氏によると以下の3つだ。

1. Growth -成長性はどれ位高いのか?

2. Efficiency -事業の効率性はどれ位高いのか?

3. Retention -顧客のロイヤリティはどれ位高いのか?

以下では、この3つの切り口でSaaSビジネスを見るために、オススメの以下の9つのKPIを解説する。


■SaaSの「Growth KPI」

#1 MRR(ARR)+成長率

SaaSの様なサブスクリプションビジネスにおいて、最も基本的かつ重要なKPIは、MRRとその成長性だ。MRRは全てのSaaS企業の生死を決める最重要KPI。ARRはMRRをベースに計算され、企業価値評価のベースとなるため、資金調達観点から経営レベルでは常に意識すべきKPIである。

#2 CMRR+成長率

日本では恐らくあまり馴染みが無いが、SaaS先進国のUSでは一般的に認識されているKPIがCommitted MRR=CMRRだ。CMRRとは「1年契約等の長期契約で将来確約されている、見かけ上のMRR」のKPIだ。

日本ではMRRの内数的に扱われるが、将来のMRRプロジェクションが確定されているMRRなのか、ただのチームの将来予測なのか、を明確に分けるためにも使われる。また、CMRRが重要な理由は、SaaSの優位性である将来の売上達成の精度や、将来の目標達成に追加でどの位MRRを「穴埋め」する必要があるか、を明らかにしてくれるからだ。

#3 Quick ratio

これもあまり日本のSaaSでは馴染みが無いKPIだが、MRRやCMRRが成長性の”量”を判断するためのKPIだとすると、Quick Ratioは成長性の”質”、効率性を判断するためのKPIだ。Quick Ratioは簡単に言うと、「一定期間内に失ったMRRと獲得したMRRの比率」だ。その意味では、上記2KPIより一段深い経営的なインサイトを与えてくれる。一般的に言われる成長SaaS企業のQuick Ratioは平均4前後であり、それをベンチマークとして活用するケースが多い。


■ SaaSの「Efficiency KPI」

#4 ユニット・エコノミクス(LTV/CAC)

ユニットエコノミクスとは、簡単に言うと「事業がデフォルトで死んでいるか?生きているか?」を測るKPIである。SaaSの場合、LTV/CAC 3xが判断のベンチマークとして使われている。

但し、日本で言うシード/アーリー期ではせいぜいチェックする程度で、あまり意思決定には役に立たない。なぜなら、Churn Rateや営業&マーケ費用等のカギとなるパラメーターの再現性が低いため、ぶれやすいからだ。従って、グロース期以降で見る方が適切と言える。

#5 CAC Payback Periods

これも一般的に使われているSaaSの効率性を表すKPIだが、CAC Payback Periodsだ。簡単に言うと「顧客1社/アカウント獲得に必要なコストを、何か月で回収できるのか?」を表すKPIだ。つまり何か月以上継続させれば、それ以降チャリンチャリン言うようになるかが判る。そういう意味では、これも経営レベルでは重要なKPIと考える。ただLTV/CAC同様、シード/アーリー期ではぶれやすく、精度は出にくい。

#6 Burn Rate/ZCD(Zero Cash Date)

最後の効率性KPIはBurn RateとZCD(Zero Cash Date=キャッシュゼロになるタイミング)だ。これはよりファイナンス観点で重要なKPIだ。

投資家的なの感覚で言うと、ZCDが「前回の資金調達から12–24ヵ月」になるようにBurn Rateを設定するのが妥当だと考える。何故ならば、これより短いと資金調達の材料となる検証(前回ラウンドとの差分)が不十分になるケースが多く、投資家を納得させにくい。一方、これ以上長いと、経営のスピード感/テンポが刻みにくい。


■SaaSの「Retention KPI」

#7 Churn Rate

顧客の継続性=リテンションを測る上で最も重要なKPIは、月次のChurn Rateだ。Churn Rateが重要な理由は、積上げ式を前提とするSaaSモデルに欠陥が無いか、つまり「バケツに穴」が無いかを測れるからだ。

Churn Rateには大きく2つある。

顧客数ベースのカスタマーChurn Rateと売上ベースのリベニューChurn Rateだ。カスタマーChurn Rateはより一般的に見られるが、ユニットエコノミクスのパラメーターにも使われており、月間1–3%が優良とされる。月間1–3%とは、つまり毎年約10–30%の顧客が離脱することを意味する。例えば5%になると、約60%の顧客が毎年離脱することを意味するため、SaaSとしては全く健全では無い。

ちなみに当然だが、リベニューChurn Rateは、カスタマーChurn Rateより低いことが望まれる。例えば、SMB~EnterpriseまでカバーするSaaSの場合、SMBの離脱が大きく、カスタマーChurn Rateが高いが、収益の中心であるEnterpriseが離脱しないため、カスタマーChurn RateよりリベニューChurn Rateが低いという現象が起こる。これはある意味健全とも言える。

#8 Net Retention Rate(NRR)

次にRetentionを測るのに重要なKPIが、Net Retention Rateだ。Net Doller RetentionとかNet Revenue Retentionとも呼ばれるが、意味は同じだ。このKPIは簡単に言うと、「平均的な既存顧客がSaaSのどれだけファンになって、一定期間にどれ位追加でお金を払ってくれたのか?」を測るKPIだ。

先程のChurn Rateとは異なる視点で、顧客の継続性/バケツの穴を特定する方法である。USの上場SaaS企業の中央値は117%と言われており、100–115%がベンチマークとしては良いと考える。以下、参考までにUS上場SaaS企業のNet Retention Rate比較を載せる。

より

#9 Negative Churn

Negative Churnは、Net Retention Rateとほぼ同じく、「既存顧客が、全体として、自社のプロダクトへの支払を増やしているのか?減らしているのか?」を測るKPIだ。Negative Churnはシンプルに0%未満であれば優良とされているが、Net Retention Rateの方が感覚的に理解しやすい&ベンチマークが明確に存在するので、個人的にはオススメだ。


顧客戦略立案に重要な「コホート分析」

これまで経営レベルで見るべき主要な9つのKPIについて見てきた。これに加えて、経営としてもう一段深く理解すべきだと思うのが、9つの指標についてのセグメント別での「コホート分析」だ。何故ならば、SaaSにおいては大企業、中小企業、スタートアップ等、セグメントによってプロダクトのフィットが異なるケースが少なからず存在するため、セグメント別での動向は経営として把握すべきマストKPIだ。(以下CMRR+成長率の例)

これまで見てきた9つのKPI+コホート分析は、USのSaaS企業では一般的に見られているものなので、是非経営レベルで見るKPIを考える際に参考になれば個人的にとても嬉しいです。

Masayuki Minato

Written by

Venture capitalist@Salesforce Ventures. Focus on investing and empowering B2B startups. Worked for GREE Ventures, BCG and BASF. Carnegie Mellon MBA

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