人間の欲求を知る

matsuri
5 min readApr 30, 2020

人間の行動は欲求こそが原動力だ。新しいサービスを考える上では、それがどんな欲求を満たすものであるか考えることが重要だろう。

人間の欲求を段階化したのがアブラハム・マズローである。下から順に、生理的欲求>安全欲求>社会的欲求>承認欲求>自己実現欲求とピラミッド状になり、下段の欲求が満たされるとその上の欲求が生まれるという、人間の本質的な欲求を段階化して定義した。

そして、人間の欲求をさらに細かくリスト化していたのがヘンリー・マレーだ。今回はそのマレーの欲求リストをまとめてみようと思う。

Resource: Harvard Magazine

マレーの欲求リスト【39種類】

— Murray’s Psychogenic Needs

生理的欲求リスト(臓器発生的欲求)

《欠乏から求める4つの摂取欲求》
吸気欲求:酸素を求めたい
飲水欲求:水を求めたい
食物欲求:食べ物を求めたい
感性欲求:身体的な感覚を求め、楽しみたい

《膨張から求める4つの排泄欲求》
排尿・排便欲求: 尿や便を排泄したい
性的欲求:性的関係・快楽を得たい
呼気欲求:息を吐きたい
授乳欲求:授乳したい

《危機から求める4つの回避欲求》
暑熱回避欲求:適正体温を維持したい
寒冷回避欲求:適正体温を維持したい
毒性回避欲求:有毒物を回避し逃れたい
障害回避欲求:病気・怪我・死を避けたい

社会的欲求リスト(心理発生的欲求)

《物質(モノ・金)に関する心理欲求》
獲得欲求:所有物と財産を得たい・増やしたい
保持欲求:お金・モノを手放したくない
保存欲求:モノを収集したい・綺麗な状態で保存したい
整然秩序欲求:物事を整理整頓したい・秩序立てたい
構築欲求:組織化したい・作り上げたい・築き上げたい

《向上心・野心に関する心理欲求》
承認欲求:認められたい・尊敬されたい・自慢したい
達成欲求:困難を乗り越えたい・成功したい
顕示欲求:楽しませたり注意を惹きたい・目立ちたい
優越欲求:社会的地位を上げたい・他者より優れていたい

《保身・自己防衛に関する心理欲求》
不可侵欲求:批判から逃れたい・自尊心を傷つけないようにしたい
防衛欲求:自分を正当化したい・避難や軽視から身を守りたい
屈辱回避欲求:屈辱や辱めを避けたい・失敗して笑われたくない
反動欲求:失敗をリベンジしたい・克服して名誉を守りたい

《支配・権力に関する心理欲求》
支配欲求:他者をコントロールしたい・影響を与えたい・統率したい
服従欲求:優秀な人に服従したい・協力したい・仕えたい
模倣欲求:他人を真似たい・同意したい・同化したい
自律欲求:他人の影響や支配に抵抗したい・独立したい
攻撃欲求:他人を軽視して意地悪したい・攻撃して奪いたい
屈従欲求:他人を認め降伏したい・謝罪したい・罰を受け入れたい
対立欲求:独自的存在でいたい、他人と違った行動をしたい

《禁止に関する心理欲求》
非難回避欲求:ルールや法律に従い、処罰や罪を避けたい

《愛情に関する心理欲求》
親和欲求:他人と交流したい・仲間に加わりたい・仲良くしたい
養育欲求:困っている人(弱者)を助けたい・同情したい・保護したい
援助欲求:保護されたい、同情されたい、愛されたい
拒絶欲求:他人を無視したい、差別したり他人を排除したい

《情報・知識に関する心理欲求》
認知欲求:知識を学びたい・理解したい・好奇心を満たしたい
説明欲求:指摘したい・証明したい・情報を与えたい・教えたい

《娯楽に関する心理欲求》
遊戯欲求:リラックスしたい・気晴らししたい・遊びたい

マズローの欲求段階に比べ、細かく網羅的に定義されているのが分かる。それぞれの欲求の大きさには個人差があり、その差が人間の個性を形成しているとも言えるだろう。親和欲求が高い外交的な人間もいれば、またその逆もいる。(怠惰的な欲求は遊戯欲求に入るのだろうか?少々疑問も感じる)

人間の心理的欲求を理解することは、新しいサービスを考えるときだけでなく、マーケティングを企てる際にも役立つ。マーケティングは誰かにその商品を「欲しい」と思わせる心理的策略であるからだ。
そこで一つの疑問が出てくる。ビジネスはニーズに応えることが重要だとよく言うが、「欲求」と「ニーズ」は同じものだろうか、違うものだろうか。違うものであれば、それを明らかにしておきたい。

見解:欲求とニーズの違い

ニーズとは
欠乏により不足や不便が生じている状態における必要性。
まだ誰もが気づいていない隠れた必要性を潜在ニーズともいう。
簡単に言うと、改善の余地があるにも関わらず、まだ誰も気づいていないか、手が行き届いていない状況において発生するもの。

欲求とは
ニーズとは違い欠乏によって生じるものでなく、人間が本能的に求める必要性・順応・快楽である。ニーズは欲求から発生するものであり、ニーズに応えることは人間の欲求を満たすことにつながる。

全く新しいサービスやアイデアがヒットする場合、ニーズに応えるというよりは人間の本質的欲求を満たすものが多いと感じる。
facebookがまだなかった頃、学生たちは不便だっただろうか?いや、不便を感じてはなかったはずだ。“認知欲求(他人への好奇心)”や“親和欲求”が、こんなかたちで満たされるとは誰も想像もしていなかった。
Appleはどうだろう。iPhoneが発表されるまで、こんな近未来的な携帯電話が生まれると誰が予想しただろうか。スティーブ・ジョブズやジョナサン・アイヴが生み出した画期的なデザインとブランディングにより、Apple製品を持つこと自体が優越欲求や顕示欲求を満たすものとなった。

誰もが常識や日常を疑わず、その中に生きている。自らの発想でそれを変えたいと思った人物が、スティーブ・ジョブズやマーク・ザッカー・バーグのような革命的な起業家となり得るのだろう。

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