ビーチコーミングの日

メレ子
白くてすべすべした石
4 min readMar 22, 2017

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春から生活が大きく変わるので、日記らしい日記を書いてみることにした。元のはてなブログは、ずっと更新していない。たまに外で文章を書かせてもらうときは肩書きを適当に「ブロガー・エッセイスト」にすることが多いが、そろそろブロガーを名乗るとブログの神様にバチを当てられる頃だと思う。

月曜日は春分の日だったが、10名ほどで神奈川の城ヶ島というところにビーチコーミングに行った。うみねこ博物堂という謎の店を運営しているO夫妻が誘ってくれたのだ。ビーチコーミングというのは、海辺に流れ着いた骨とか貝とかガラスとか種とかを漁り、めいめいグッときた好きな漂着物を拾って家に持ち帰り、しばらくして冷静な目で見るとその戦利品の大半はゴミであることに気づくことも多いのだが、それはそれとして宝物にするという、非常にロマンにあふれた高尚な遊びだ。

三崎口の駅にはわたしが勝手に「寂しい大人たちの会」と呼んでいるいつものメンバー(生きものや自然の中での遊びが好きな人たち)が集まっていたが、初めて会う人がひとりいた。うみねこ店長がつい最近知り合ったという、化石好きの青年だ。

化石はいいぞマンは、学生時代に北海道でみずから掘ったというニッポニテス・ミラビリス(驚異的な日本の石)というアンモナイトを見せてくれた。殻がぐねぐねと折れ曲がった、日本産の異常巻きアンモナイトである。「これ、国立科学博物館で見たことあるやつやー!」と我々は色めきたった。化石はいいぞマンはさらに「布教用」と書かれたジップロックから小さめのアンモナイトを取り出し、参加者Kさんのふたりの子供たちに握らせていた。本気の普及だ。子供たち以上に熱狂しているのはうみねこ店長で、すでに北海道にいっしょにアンモナイトを掘りにいく計画を具体的に立てているという。

2台の車に分乗して、城ヶ島に向かった。海は穏やかで、貝は残念ながら非常に少なかったが、磯に長靴で入るのはそれだけで開放感があって楽しかった。ミヤコウミウシという、薄茶色の体に水色の斑点を持つかっこいいウミウシをうみねこ店長が採ってきたときは最高に興奮した。タカラガイも多少は落ちていて、生物画家のKさんにツヤツヤのハナビラダカラをいただいた。

化石はいいぞマンは、お昼ごはんを食べているときも移動の車中でも「北海道で化石を採るときは夜じゅう車を飛ばして、ちょっと仮眠してから沢を登るんですけど、別に辛くはないですよ。辛いのは掘るところがないときですよ。リュックは軽いけど心は重い。逆にリュックが40キロくらいあるときは心が軽いですね」など、化石に関するおもしろエピソードを披露し続けていた。大英博物館展の見どころもめちゃくちゃ詳しく教えてくれたし、12歳にしてイクチオサウルスのほぼ完全な化石を発見し、その後も犬を相棒にして化石商人となったイギリス人女性メアリー・アニングの話も面白かった。

春から生活がどう変わるのかについてはまたあらためて書くつもりだが、ネットを通じて会った友人たちと虫採りや貝拾いに行ったり、花見をしたり酒を飲んだりということはなかなかできなくなる予定だ。悲しい。いちばんの楽しみがなくなって自分ほんとに大丈夫かな、という気持ちもある。

しかし一方で、生きものや石ころを愛でたり文章を書いたりということを続けている限り、この人たちとは縁が続く、とも信じている。次の約束をしなくても、どこかで会えるというのは素敵なことだ。

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メレ子
白くてすべすべした石

生きものと旅行が好きな勤労女性。エッセイなどを書きます。近書『ときめき昆虫学』(イースト・プレス)『メメントモリ・ジャーニー』(亜紀書房)以前のブログ:「メレンゲが腐るほど恋したい」http://mereco.hatenadiary.com/