人間が生まれて初めて持つ感情
BGM:Tokyo No.1 Soul Set「隠せない明日を連れて」
人間が生まれて初めて恋愛感情というものを抱くのは何時のことなのだろう? そんなことを延々と考えた一年だった。例えば怒りや悲しみや喜びにしたってそれを初めて感じた瞬間というものは確実にあったはずで、それを大人になってしまってから忘れてしまっているのではないか、というように。逆に言えば私たちはまだ感じることのなかった未知の感情というものを感じる機会があり得るのではないのか、というように。
不謹慎な喩えで恐縮だが、例えば私は身内を惨殺された人間が犯人に対して死刑を求める心理を理解しているとは言い難い。私は死刑には否定的なのだけれど、それでも犯人を心の奥底から憎しむという感情自体は相当なストレスを伴ったものであることは容易に見て取れる。そうした人々に対して心理的なケアが必要であることも分かっているつもりではある。
心の底から誰かを憎しむという経験は私にはない。もちろん嫌いな人間がいないわけではないのだけれど、その人間が存在していること自体を理不尽だと感じたことはない。それと同じような形で、心の底から誰かを愛したという記憶が私にはない。ちょっとした好意を抱くことはあったけれど、本格的にこの人と一生を共にしたいという人に出会ったことはない。私は自分でもそんな自分を薄情な人間だと思うのだけれど、こればかりは仕方がない。
オリヴァー・サックスの『火星の人類学者』という書物にテンプル・グランディンという高機能自閉症者の逸話が登場する。詳しくはここに書いたのだけれど、私と共通する傾向として複雑な心理の綾を描いた作品を上手く読み取れないというのがあり得るだろう。人間というものをもっと単純なものとして見ているわけで、その人間の中にある悪意や計算といったものを考慮出来ないという状態にあることになる。だから騙されやすかったり、他人の心理を理解出来なかったりするのだろう。
話が逸れてしまったのだけれど、そのような他人との共感を上手く行えないという点で自分は小説を書く上で致命的な欠点を備えていることになる。私は恋愛を想像することしか出来ない。実際に身が焦がれるような恋に落ちた経験はない。そんな人間だからこそ書ける人間模様を書いてみたいと思い、半ばまで到達出来たという、今年はそんな一年だった。
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