『911 Fantasia』

BGM:七尾旅人「荒野」


去年聴いた作品の中でも、新作というわけではなかったのだけれどそれでも印象的だったのは七尾旅人の『911 Fantasia』だった。この作品を説明するにあたってどのような言葉を語ればいいのだろう。 CD にして三枚組の超大作であり、ストーリー性が強いせいで途中の曲を好き勝手に聞き飛ばすことが出来ないという難物である。だから七尾旅人氏を知らない人に対して気軽にお薦め出来る類のものではない。しかし、やはりこの作品はもっと聴かれるべきだろう。にわかファンでしかない自分であっても、そう思ってしまう。

タイトルが示す通り 9.11 が色濃くこの作品には影を落としている。あの日、そしてあの日から始まった諸々の出来事に対してアメリカは何をやったというのか。そして日本は何が出来たというのか。もっと言ってしまえば、言葉を介在しない表現を行い得るミュージシャンとしての七尾旅人氏には何が出来たというのか。そうしたソリッドな問いが突き付けられる。

知られるように 9.11 からは既に長い年月が通過している。このアルバムが出たのも 2007 年だから古びていると言えば言えるのだろう。しかし、この作品を聴いていると 9.11 が未だにリアルかつアクチュアルな問題を備えているように思えて、そして忘れてはならない出来事のように思われて仕方がない。

事務的に整理してみよう。この作品は老人が子供に対して語りかけるというラジオドラマ的な構成を採っている。そのラジオドラマの中に様々な曲が挟まれていく、というように。途中から好き勝手に聴き飛ばせないというのはそうした意味においてである。三時間ほどもあるこの作品は従って必ず最初から最後まで聴かれなければならない。つまみ食いすることはこの作品を理解することには必ずしも繋がらない。

あれから時間が経ち、テロとの闘いは終わったように思われる。ビン・ラディンも亡くなった。しかし、あの出来事は否応なく世界を変えてしまった。今後二度目の 9.11 が起こらないとも限らない。その意味では 9.11 が残した爪痕はまだまだ大きいと言えるだろう。聴き終えた後には並ならぬ余韻を感じさせてくれる。そんな一枚だ。

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