一度目の美しさ
子供の頃に感じていた、あの気持ち
2 min readOct 28, 2013
これ以上ページをめくることが、自分にはもったいないとさえ感じる本に、ときどき出会う。大好きなアーティストの新譜がリリースされたとき、聴き終えるのが惜しいがために、なかなか聴き始められないもどかしさを、ときどき感じることがある。
読んでしまったり、見終わってしまったり、体験し終わることへの、ある種の「淋しさ」が、出会いには常につきまとっていた。
子供のときは、特にそうだったように思える。ときどき連れて行ってもらった家族旅行は、田舎で生まれ育った僕にとってわくわくするものだったけど、出発の前から、すでに「帰ってきた自分」─ 言い換えれば、楽しみを消化し尽くしてしまった自分の姿が、脳裏にふっと浮かんでしまうのだ。そこには淋しさと期待感が入り混じったような複雑な感情があった。
僕は、そういう子供だった。
そして歳を重ねるにつれて、そう思うことが、少しずつ減ってきたのかもしれない。
本も、音楽も、映画も、繰り返し見たり聴いたりできる。でも作品や体験との出会いは一度しかなく、その瞬間を脳裏に焼き付けようと、新たな出会いを無意識に探している自分に気づく。
重ねていくことで深みが増していくこともあれば、一度目しか感じられない美しさも、この世界にはあるんだろう。