MODALAVAストーリー:フリーモデル理沙(32)の場合(前編)

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Jul 26, 2017 · 6 min read

念願のアパレル企業へ就職したものの、やりたいことを追い求め、ヨガインストラクターの資格を取って退職。自由を愛する理沙の壁とは?(前編)

Photo by Shanna Camilleri on Unsplash

高校を卒業して、特にやりたいこともなく、なんとなく友達に自慢できそうという理由でアパレル販売のバイトをしていた。持ち前のセンスもあってか、理沙がお店の服を着ていると、客の方から質問してくれることが多く、自分のコーデの評価が売上という形で目に見えるのは楽しかった。カリスマ店員として写真が雑誌に載れば、次の日にはその雑誌を持って客がどんどん来てどんどん服を買ってくれる。見てくれる人がいるとなると、今日はどの服、明日はこの服、休憩を挟んで着替えて別のコーデ、と熱心に店の服を着た。特に売れ筋ではない埋もれた商品を、理沙のコーディネートで輝かせ、ヒット商品に押し上げるのは快感だった。

理沙が雑誌に載り始めた頃、世間では就職活動が始まる時期だった。夏まで金髪だった髪を不自然な黒に染め、個性を塗りつぶしたスーツに完全に着られている女の子たちが店にもちらほらと来ていた。このままカリスマ店員から読者モデルになって芸能人コース、と周りは思っているのか、それなりに取り巻きもいたが、理沙はふと「会社」というものに就職するのも悪くないな、と思った。知り合いの伝手を頼り、キャリア採用枠である会社の面接を受けると、販売員としての実績と実力を買われ、新卒と同じ研修を受ける条件で採用となった。

モチベーションが不安定だっただけで、その気になれば要領の良かった理沙は、得意な店舗研修でも優秀な成績だったが、服を作る過程やビジネスの仕組みを知りたいと思い、生産チームへの配属を希望した。理沙と同等に優秀だった同期のかのんは、誰もが羨むプレスへと配属された。

Photo by Matthew Kane on Unsplash

生産の現場は、服のできていく工程を逐一なぞることができ、海外工場や委託先への出張もあったため、海外にもたくさん触れることができた。ただ、海外に触れれば触れるほど、現地で生き生きと働く人たちを見て、自分の進みたい方向性が分からなくなってくるのも事実だった。このまま生産管理部長になりたいわけでもない。出張先のホテルでの長い一人時間をつぶすかのように理沙はヨガに没頭した。無心になって体と対話していると、目立つことが好きだった自分が、人の評価に左右されて自己評価をおろそかにしていたことに気づく。いつしか、コツコツと夜間のインストラクター養成クラスに通うようになり、難なく試験にも合格した。

養成クラスの紹介で、土曜日に1レッスン持つことが出来た。レッスン当たりの単価は高くはなかったが、抜群のセンスのヨガウェアと、長い手足で決める美しいポーズ、接客で鍛えたコミュニケーションスキルで、理沙が人気のインストラクターになるのにそう時間はかからなかった。会社での単調な仕事に飽きが来ていた理沙は、すっぱりと会社を辞め、平日のレッスンを増やすことにした。とはいえ、会社員時代ほどの収入は当然望めず、ヨガを仕事として極めたとしても、それ一本の暮らしには飽きてしまうのではないかという不安もつきまとった。

そんな時に、スタジオのオーナーから、知り合いの通販ショップのモデルをやらないかと持ち掛けられた。なんでもインスタで見つけてきたモデルがエージェント契約をしてしまい、日当が3倍に跳ね上がったそうだ。試しにインスタで「フリーモデル」と検索してみると、結構な数のかわいい子たちが出てくる。エージェントと契約して自由を奪われたくない理沙には、恰好の副業だった。通販ショップには、商品に使った写真を自分のインスタにも載せることを承諾してもらい、実績付きでフリーモデルとしてのキャリアもスタートした。

インスタでのセルフプロモーションは、元カリスマ店員としては難しいものではなかった。特に海外の雰囲気のするヨガウェアに特化したこともあってか、理沙のインスタのフォロワーはぐんぐん増えて行った。ヨガウェアから健康的に伸びる手足も、フリーモデルとしての宣伝材料としては完璧だった。中には被写体撮影と称して、理沙の家で撮影させてくれというカメラマンをはじめ、少し怪しい人もいたりはしたが、「現地集合解散」「人気のある公園などでの屋外撮影」「回り道をして帰る」など、鉄則はしっかり守った。

それでも、一度だけ理沙は身の危険を感じ、引越しをしたことがある。仕事道具として増えに増えていたヨガウェアを、フリマアプリで売った時に、運悪く男性に買われてしまったのだ。発送先が女性の名前になっていたので気づかなかったが、既婚者であるその男は妻のアカウントを使い、理沙の出品を狙っていたらしかった。伝票に書かれる理沙の住所目当てで。以前、被写体として理沙を雇ったその男が、理沙のマンションのドアの前に立っているのを見た瞬間「まさか」が現実となり理沙は凍り付いた。その日はネットカフェで一夜を過ごし、すぐに引越しを手配した。

最近では住所こそ隠して発送することもできるようにはなったようだが、そもそも、海外ノーブランド品はフリマアプリでは検索もされない。ブランドなしではモノ自体が中古品としての価値が低いのだ。どんなに現地で人気であっても、日本での知名度が低ければ高くも売れない上に、いろいろな手間がかかり、かつ今回のように引越しとなれば大損だ。人気は自分を制限するリスクでしかないのだろうか、と理沙はウェアだけで何箱にもなった引越し荷物に目をやり、読者モデルから芸能人になる不自由さへの拒否感から、普通の就職に逃げた昔を思い出した。フリーランスはもう逃げることは出来ない…。そして大きくため息をついた。

※ 後編は7/27 22時頃アップロード予定です。

※ 本作は事実をもとにしたフィクションです。

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