初めての憲法改正:国民投票で最低投票率が設けられていないのはなぜか?

今年5月、安倍首相の憲法改正発言が話題になった。以後、メディアでの憲法論議は護憲派・改憲派ともに若干の盛り上がりを見せたように思う。

しかし憲法論議が盛り上がりを見せる一方で、憲法改正に伴う国民投票それ自体について扱われることは少ない。当然まだ議論が煮詰まっていない段階なので、現実味が薄いからだろう。

ただ、いずれ訪れるかもしれない国民投票という一大イベントについて、そのプロセスを知り身構えておくことも必要だ。そこで国民投票に関して調べていくうちに、あることが気になった。国民投票法によると、憲法改正における国民投票では最低投票率が設けられていない、ということだ。

国政で最も重要な憲法改正で、最低投票率が規定されていないのは、民意が反映されるということになるだろうか、という疑念が生じる。実際、自治体の住民投票では最低投票率が設定されているところもあるし、韓国やロシアなどでは憲法改正の国民投票での最低投票率を規定している。では、なぜ最低投票率が設けられていないのだろうか。

この疑問に答える前に、まずは憲法改正に伴う国民投票について重要な点を簡単にまとめておきたい。

国民投票までの流れは?

最初に学校で習った事のおさらいになるが、憲法改正の手続きは大まかに以下のような流れで行われる。

①衆参各議院に設置された憲法審査会で審査

②国会で発議

↓ 衆・参の両院でそれぞれ3分2以上の賛成の場合

③国民投票(国会の発議から60日以後180日以内)

↓ 過半数の場合

憲法改正

(参考→総務省|制度のポイント

ちなみに憲法審査会での会議日誌・会議資料は以下の憲法審査会ページで見ることができる。

審査会の経過|参議院憲法審査会

会議日誌・会議資料 — 衆議院憲法審査会

個別発議の原則

個別発議の原則とは、憲法改正案それ自体を一括で是非を問うのではなく、個別案件ごとに賛成反対を問う原則だ。たとえばすでに改正案としては、自民党による日本国憲法改正案(2012年)読売新聞による憲法改正試案など(日本国憲法改正案一覧 — Wikipedia)があるが、仮にこれらの案が国会に発議されたとしても、一括で是非を問うのではなく個別の内容ごとに発議される。

ただし、より細かく条文ごとに賛成反対を問うわけでもない。条文ごとに問いた場合、条文それぞれで通る・通らないということが発生し、相互に矛盾を抱えて、憲法体系が崩れてしまいかねないためだ。

つまり憲法改正の発議は、改正案全体の一括でもなく、条文ごとでもなく、個別の案件ごとに相互に矛盾をきたさない範囲で行われる。ただ、この個別発議の範囲に関しては、どの項目の条文をいじるかによって線引きが曖昧で、難しい判断になると見られている。

(参考→イヤでもわかる!国民投票法案

最低投票率制度が設けられていないのはなぜか?

いよいよ本題に入る。なぜ憲法改正という国の根幹にかかわる国民投票で最低投票率が規定されていないのか。最低投票率というのは、投票率が一定を超えないと国民投票が無効になるという制度だ。

国民投票に最低投票率が設けられいないとなると、理論的には賛成1票、反対0票でも改正案が通ってしまうことになる。これは極端な例にしても、やはり一定の有権者の投票がなければ民主的な合意を得たとは言いにくい。

ではなぜ最低投票率制度がないのか。それは最低投票率を設けた時に、

① ボイコットが発生する

②「民意のパラドックス」が発生する

という2点の可能性があるからだ。(その他に最低投票率をめぐる議論は憲法との整合性などがある。)

①ボイコット

国民投票が不成立になる条件は、反対票で上回るか、最低投票率を下回ればよい。よって仮に反対派が優勢でなくても投票を集団でボイコットすることで投票結果を無効にできる可能性がある。実際に1990年にイタリアで行われた国民投票では、反対派がボイコットする事態が生じた。

②「民意のパラドックス」

「民意のパラドックス」とは成立・不成立になった時に賛成数・反対数の逆転現象が起こることで、賛成票における民意のパラドックス、反対票における民意のパラドックス、のどちらもあり得る。(本質的には同じ現象であって、別な角度で仮定しただけのこと)

賛成票における民意のパラドックスは、例えば次のような例が考えられる。

最低投票率を50%として導入した場合に、投票率が 45%、賛成割合が80%で、投票権者の36%が賛成しても、国民投票は不成立となるが、投票率が60%、賛成割合が55%で、投票権者の33%が賛成すれば、国民投票が成立して憲法改正案が承認されること
憲法改正国民投票における最低投票率 — 参議院

つまり、国民投票が不成立となった前者の時の賛成者数が、成立した後者の時の賛成者数よりも多いということになる。

一方で反対票における民意のパラドックスは、次のような例が考えられる。

最低投票率から計算した最低投票人数を仮に10人とした時に、9人が賛成票を投じた場合を考える。このままだと賛成9票・反対0票となるが、最低投票人数10人を下回っているので国民投票は不成立になる。ここで反対票を投じる人が1人現れたとする。この反対票1票が加わることで最低投票人数10人に達することになり国民投票は成立し賛成となる。
Is there a turnout threshold in the UK’s referendum on the EU? — Quora

つまり、賛成票が上回っていて最低投票率が達成されていない場合を考えると、 反対票を投じることは投票率を上げることになる。それが最終的に最低投票率を超えた場合、投じた反対票は賛成での国民投票成立に加担してしまうことになる。

(参考→投票率 — WikipediaNegative vote weight — WikipediaIs there a turnout threshold in the UK’s referendum on the EU? — Quora

このように最低投票率を設けた場合にはいろいろ複雑になってくるようだ。もちろん最低投票率制度を求める議論もあるので、詳しくはこちらを参照してほしい。→憲法改正国民投票における最低投票率 — 参議院

http://monsieuryoshio.hatenablog.com/entry/2017/08/29/214531より転載)

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