EOS report #2 -BPの概要と投票システムの現状(2)-
前回の記事ではEOSネットワークを維持しているBPの概要についてお話してきましたが、今回はそのBPがどのように選出されているのかについて、投票システムの概要から投票方法、そして投票システムが現状どのように運用されているのかについて解説していきたいと思います。
まず初めに、EOSネットワークには投票における取り決めが存在していることをご理解ください。もし、投票システムに参加する場合はこの内容に理解しておく必要があり、投票する側と、受ける側の双方が同意している前提で投票システムが運用されています。
EOS-Mainnet/governance
それではさっそく投票の概要・流れについて見ていきたいと思います。
・投票費用は無料
BPの投票は自身のアカウントからウィレットやウェブブラウザーを介して行えます。投票行為そのものには費用は一切かかりません。
※注意事項として、投票行為そのものには費用はかかりませんが投票する際は最低限1EOSトークンを自身のアカウント上でstakeする必要があります。下記がウォレットの投票画面です。
eos-voter
下記がウェブブラウザーの投票画面です。
EOSPORTAL
こちらの動画で投票手順が解説されています。
※ウェブブラウザーでの投票の場合、scatterを使用するため、まだの方はまずscatterのアカウント登録を済ませてください。
※投票は更新するたびにトランザクションが発生する為、explorerでアカウント情報を調べると、そのアカウントが何時何分にどのアカウントに投票したかが全て記録として見ることができます。
・EOSネットワーク上でアカウント登録
なお、取引所でEOSトークンを購入してもEOSネットワーク上でアカウント登録をしないと投票することが出来ません。(bitfinexなど一部の取引所では取引所が提供するvoteツールを使用して取引所からvoteまたはその権利を委託(proxy)して投票することも可能です。)もしアカウントをお持ちでない場合は下記より作成いただけます。
※アカウント作成には$3程度の費用(BIT、ETH、BCH使用可能)が必要となります。
MYWISH
ZEOS
先ほど少しふてた通りBPの投票にはEOSトークンを自身のアカウント上で最低1EOSトークン以上をstakeする必要があります。もし0.5EOSトークンしか持っていない場合は、stakeして投票しても票数は0となります。保有EOSトークンのstake量はウォレット内で随時調整が可能です。
※なお、stakeを解除した場合、EOSトークンが動かせるようになるのに72時間を要します。stakeを解除した瞬間に投票は無効化します。
・1アカウントにつき30投票
1アカウントにつき30投票まで投票が可能です。
・1EOSトークン = 1票
1EOSトークン = 1票に基づいて票数が計算されます。注意したいのは、1投票 = 1票 ではありません。 票数はEOSトークンの保有数によって異なり、1EOSトークンにつき1票で算出されます。なお、票数はEOSトークンのstake量で計算され、1stake = 1票 となります。つまり投票における影響力はEOSトークンの保有数ではなく、EOSトークンのstake量です。いくら100EOSトークンを自身のアカウント内に保有していても、そのうち50EOSトークン分しかstakeしていない場合は、1投票で50票としかカウントされないということです。なお、投票先の数によってこの票数が薄まるわけではありません。例えば、100EOSトークンの内、50EOSトークンををsteakしてBP①とBP②にそれぞれ1投票したとします。そうするとBP①へ50票、BP②へ50票したことになります。(決してBP①へ25票、BP②へ25票となるわけではありません。)
・票数に応じてBPがランキング化される
そしてBPのランキングは、投票数ではなく、票数の総数に応じてランキングされます。(正確には『voting decay』と呼ばれる票の減少という概念もさらに加わります。voting decayについては後述します)
・2分6秒毎の選挙戦
また、投票は252ブロック(126秒)ごとに行われ、投票率が低い現状では上位のBPであってもランキングが激しく変動します。
・voting decay
投票システムにはvoting decayという概念があり、一定期間投票が行われない場合、投票の効力が目減りしていきます。voting decayは毎週計算され徐々に効力が目減りしていき、最後の投票から90日間、投票間隔が空くと1票の効力が0.8票の効力となります。さらに最後の投票票から365日間、投票間隔が空くと0.5票の効力となります。
例えば、100トークンをstakeしている方が投票をした場合、通常は100票分の効力があるところを、1カ月間以上間隔をあけて投票した場合、80票分の効力となってしまい、1年以上間隔をあけて投票した場合は50票分の効力となってしまうという算出ロジックです。つまり、自分の票の効力を維持したい場合は定期的に投票を再作成する必要があります。2018年9月17日時点のTotal EOS Voting Decay は271,182,449(-6.718%)となっています。
ここからは現状の投票状況について解説していきたいと思います。
・投票率15%以上でネットワークを維持
まず前提として抑えておきたいにはEOSネットワークはすべて投票によって運用がなされており、ネットワークの維持には投票率が15%以上である必要があると定められています。もしこの投票率が15%を下回るような事態が起きた際にはEOSネットワークが危機的状況に陥ります。そのような事態が起きた際には、Block,oneが保有するEOSトークンを使用してネットワークの維持を行うと彼らは言っています。事実、彼らは1億EOSトークンを保有しており、これはEOSトークンの総発行量に対して10%に相当します。※現在はこの投票権を行使していません。
では実際の投票状況を見ていいきたいと思います。
● stake率:54.3%%
● 投票率:24,76%
見ての通りまだまだ投票率が低い状態といえます。現状の投票率では多少の票の変動でBPランキングも大きく左右されることが予想されます。事実、直近90日間のBPランキングの水位を見ても、その変動の激しさが見て取れます。
過去90日間のBPランキングの水位がこちら
2つのBPの水位をより詳しく見てみるとランキングの上下の激しさがわかります。
-eosiosg11111-
9月4日までは獲得票数が全体の0.5%を下回る推移で来ていたが、9月9日以降、獲得数が1%を超えてきて9月17日時点では1.84%となりBPランキングも15位となっています。
-eoscleanerbp-
7月30日までは獲得票数が全体の1.5%を上回る形でBPランキングは21位以内をキープしていましたが、8月4日を境に徐々に票数が減少していき、9月17日時点では1.05%となりBPランキングは43位となっています。
ここで現在のBPを支えている票の内訳を更に詳しく見ていきたいと思います。
各BPの投票総数における投票者の内訳が色分されたグラフでみてみると、一部の投票者のによる投票で成り立っているのが分かります。
特に目立つのはbitfinexのアカウントが多くを占めているのがわかりますね。その他にも、こちらの投票者の票数ランキングを見てみるとアカウント名にhuobiとはいったアカウント多数見られます。これらはいずれもEOSトークンの売買が可能な大手取引所となっており、取引所で保有するEOSトークンをユーザーから委託(proxy)されて投票を行っています。bitfinexもhuobiも複数のアカウントを保有していて、各アカウントに1,000万?4000万のEOSトークンをstakeさせて投票を行っています。特にbitfinexの影響力は大きく、総投票の50%から90%を占めています。
先ほどのグラフからbitfinexの票を外してみると
このように総票数のグラフがガタガタとなり、21のBPに入るためには必要不可欠な票なっています。
その他、投票者の票数ランキングを見てみると委託(proxy)による投票が票数の多くを占めているのがわかります。
つまり、21のBPに入るためには個人の票ではなく、委託(proxy)によって集められたアカウントからの投票が不可欠であることがいえます。
そして更に、票数を大きく動かす要因として気にな点が
● EOSトークン総発行量に対して全体のstake率が5割程度である
● stake中のESOSトークンのうち半数しか投票がされていない
です。もしこのうちいずれかのEOSトークンに動きがあった場合、BPランキングは大きく変動する可能性があり、EOSネットワークに与える影響は大きいと言えます。これらの理由として考えられるのは『保有EOSトークンのうち一部をstakeしている』または、『保有EOSトークンを全くstakeしていない』のどちらかが挙げられます。実際「EOSトークン保有高上位のアカウント」と「票数上位のアカウント」を見てみるとそれぞれの上位のラインナップが異なるのがわかります。
「EOSトークン保有高上位のアカウント」
「票数上位のアカウント」
b1は先ほどもお伝えした通り、Block.oneの保有するEOSトークンで彼らは現状では投票への参加は表明していません。注目したいのは「票数上位のアカウント」の一覧と比較してEOSトークン保有量上位のbithumbshinyとgi3tiojtguge が票数上位にいないという点です。これはEOSトークンを大量保有しているが投票を行っていない、または保有EOSの一部のみをstakeして投票をしていると想定されます。そして、驚くことに、この2つのアカウントが保有するEOSトークンを合算するとおよそ1億EOSトークンとなり、総発行量の10%に相当します。つまり、これらのアカウントが保有EOSトークンの一部をstakeして1票でも投票しただけでBPのランキングが大きく変動します。
EOSの投票システムにおいては度々この、EOSトークン大量保有アカウントの影響力が問題視され、こちらの記事ではEOSネットワークにおけるEOSトークン大量保有アカウントをクジラと表してその影響力を図で表現しています。
この大量保有者の中でも特に取引所が占める割合は多く、先ほど挙げたbithumbshinyもその一つです。そしてEOSトークンの取引高上位に位置するDobitradeやJEX、Binanceは現時点で投票への参加を表明していません。こうした取引量上位の取引所の非stakeがEOS全体のstake率を押し下げている原因のひとつにもなっており、これらの取引所が今後、投票参加を表明した場合、ランキングに与える影響は大きと言えます。
こうしたクジラの存在以外でBPランキングを変動される要因として考えられるのが「新規アカウント増加に伴うユニーク投票者の増加」です。現在のEOSアカウント登録状況は9/23時点で約32万アカウントとなっています。Steemが約100万アカウントであり、単純に他のブロックチェーンプロダクトと比較してもまだまだアカウント登録数は少ないといえます。
実際に現状のEOS上のDAPPSをみても24時間のアクティブユーザー数が300を越えているDAPPSは7つしかありません。もしEthereumのcryptokittiesやSteemのsteemitようなキラーコンテンツが1つでもリリースされるだけでアカウント登録は数倍になると予想できます。
では、こうした新規ユーザーの獲得、ひいてはその新規ユーザーからの票票獲得のために各BPがどのような取り組みをしているのか見てみると
・Airdropによる認知拡大
これからAirdropを控えたプロジェクトも含めると現時点で48個のプロジェクトが存在しています。その中には以前から開発を行っているEveripediaのようなプロジェクトもあれば、HPもなく実態のわからないプロジェクトまであり、玉石混合の状態です。このAirdropされたトークンはすでにexchangeで売買が可能となっていて、高値で売買れるトークンも存在しています。このAirdropトークンにどれほどの価値が今後あるのか、なんとも言いがたい状態ですが、少なからずこれから新規でEOSアカウントを持つユーザーにとってはメリットの一つになるかもしれません。
・プロトコルの開発支援
bancorチーム:LiquidEOS
RAMの需給バランス調整にbancorチームによるプロトコル導入しより、市場原理に基づく価格決定がなされるようにしています。その他にも、 分散型クロスチェーン流動性ネットワークとしてBaconrXを発表し EOSのネットワークでもBancor Protocolが 利用できようになるという発表がされました。Bancorチームは現状積極的にEOSネットワークへの関与を行っており、このBaconrXはユーザーとの接点が直接的なことから、新規ユーザーへの認知拡大につながるプロジェクトと言えそうです。
・ツール開発によるEOSエコシステムへの貢献
既にEOSネットワーク上には300をお超えるアプリケーションが存在し、エンジニアが参加しやすいような開発者向けのツールが多数開発されています。
最後に、現状のBPが抱える問題点についてみていきたいと思います。
・BPのランキング変動の激しさからブロック生成が安定しない
これまでトークン保有者による投票によって2分6秒ごとにBPが選出されると説明してきました。リアルタイムに有権者の意向が反映されるという次世代型の民主制度と呼べる一方、BPのランキングが目まぐるしく変動することにもつながり、2分6秒ごとにActiveBP(21位以内)とStandbyBP(22位以下)の入れ替わり戦が行われることになります。21位前後のBP候補の入れ替わりであれば、頻繁に生じることなのでそこまで問題ではありませんが、問題となってくるのは50位以下に位置するStandbyBPがいきなり21位以内のActiveBPに選出されたときです。当然BP候補になるためにはBPコンセンサスに基づき自らの技術体制(チームメンバー・Nodeスペック・バックアップ体制など)開示したうえで立候補をしているわけですが、急遽ブロック生成に加わこととなった際に、すべてのStandbyBPが完璧に遂行できる状態にいつでもなっているかというとそういうわけでもないのが現状です。事実、日本のBPであるJEDAは自身のブログで6月20日に初めてActiveBPに選出された際にスムーズな対応ができなく、しばらくブロック生成作業が滞ってしまったことを発表しました。この時、JEDAのBPランキングは2018年6月20日時点で59位でした。そして2018年6月20日の午前2:00に突然大量の投票を受け、一気に13位まで上昇したとのことです。この事象に際してはJEDAとしても全く予測していなかったようです。
DPOSの仕組み上、リレー方式で承認作業が行われるため、仮に1つのActiveBPがブロック生成ができなかったとしても、そのBPを飛ばして次のBPが承認作業を行うため、EOSネットワーク上はそこまで問題ではありません。これは上位5位以内にいつもいるBPであってもネットワークの状況からか、ときおり承認作業ができずに飛ばされてしまうことがあります。それでも問題なくネットワークは動き続けています。しかしながら、選定された候補が頻繁に承認作業ができないという事態が頻発するにはネットワーク上、一部のBPに承認作業が託されることになることに加え、開示情報の正確性にも疑問が残ってしまいます。
国家運営における選挙戦の場合、選挙期間が定められ、選出されたのちに任命されるまでの間、準備期間があります。また、有権者の動きも報道やリサーチ機関の動きを基にある程度、自分が選出されるかどうかという予想だたてられますが、EOSネットワークにおける投票システムはほぼリアルタイムとに選挙戦が行われ、有権者の動きもわかりません。そして選出されたと同時に完璧な職務遂行が求められます。つまり、BP候補者には有権者を納得させるために十分なマニフェストの表明と、それだけでなく選定と同時に完璧な有言実行が求められるとてもハイレベルな民主制度と呼べます。
・有権者が200以上存在する全BP候補をデューデリジェンスすることは難しい
BP候補者の開示情報をまとめているEOSGoを見てもその情報量の多さにすべてに目を通すということ自体大変な作業です。そしてもう一つ問題なのが、その開示情報が本当に正しいかどうか、そして職務を完璧に遂行できるだけの準備が常にできているかどうかというところまでは分からないという点です。
・ハードフォークしたプロジェクト
こういったネットワークの問題に疑問を呈すチームも存在し、メインネットローンチから1ヵ月もしないうちに、EOSネットワークからフォークしたチェーンもすでに存在しています。彼らの主張としては、メインネットローンチ後にバグが発見されたことや度重なるブロック生成の停止による不安定なネットワーク環境の上でアプリケーションを取り扱うのは危険だということでした。そして、ハードフォークは2018年6月22日 10:00amに実行され、すでにウォレットの提供と取引所への上場もされ市場での売買も可能となっています。
EOSForce:https://www.eosforce.io/
こうしてみていくと、メインネットローンチからまだ3か月と日が浅く発展途上のネットワークであることがよくわかります。しかしながらこちらのブロックチェーン別のトランザクション量ランキングを見てみるとEOSのトランザクション量は他のブロックチェーンプロジェクトと比較しても群を抜いて上位に位置しています。
事実、Ethereum上のDappsと比較しても24時間のユーザー数が300を超えるDappsはEOSの方が多く(Ethereum:5つ、EOS:7つ)、スケーリングを解決したDappsプラットファームとして選択肢のひとつにあげられるといえますね。
EOS.IOは完成版とは言えず毎月、新バージョンがリリースされている状態であり、まだまだ改善の余地が多々あるプラットフォームではあることは事実です。しかしながらこの発展途上のEOSネットワークを維持しつづけているBPたちによる活発な議論が絶えず行われ、提出されるプロポーサルへの意思決定が迅速に行われるのはDPOSであるEOSの特徴であり、短期間で急成長させた理由といえるのではないでしょうか。
次回以降のテーマとして
・EOSネットワーク上のDapps開発の現状
・なぜ中国でEOSが流行っているのか
・EOS VCの概要と投資先
について解説していきたいと思います。
質問のある方はTwitter、またはDiscordでいつでもお受けしていますのでお気軽にメッセージやコメントいただけたらと思います。
・steemit:https://steemit.com/@moromaro
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※参考
eos.io:https://eos.io/
EOS Go — Blockchain Community:https://forums.eosgo.io/
EOSIO Medium:https://medium.com/eosio
Daniel Larimer Medium:https://medium.com/@bytemaster
EOSIO Github:https://github.com/EOSIO
EOS whitepaper:https://github.com/ZahanWu/eos-jp/blob/master/TechnicalWhitePaper.md
Roadmap:https://github.com/ZahanWu/eos-jp/blob/master/Roadmap.md
Everipedia:https://everipedia.org/wiki/eos-cryptocurrency/
CoinGecko:https://www.coingecko.com/en/coins/eos/social#panel
EOSindex:https://eosindex.io/