ブロックチェーンが「貿易金融で」生き残るために

Motoi Oyane
10 min readJul 25, 2018

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まるでバットマンのように現れ、ブルースウェインのように影に隠れた、 ナカモト・サトシが初めてブロックチェーンを世に送り出してから早9年。

今ではどの業界においても必ず何らかの形で話題になる。

ブロックチェーンはそんな現代において、最もホットな技術なのだ。

私は、現在 GREE Ventures の Minato Masayuki 氏 と 株式会社 ZenportKaseda Toshihiro 氏からブロックチェーンの事を数多く教えて頂き、国際貿易における貿易金融で著しい技術革新を遂げるのではないかと、個人的に期待を寄せている。

しかし、バットマン映画をご存知の方はお分かりいただけると思うが、バットマンは途中、ゴッサム市民に嫌われてしまう。

市民は「主人公」を理解しきれずに、信頼を失ってしまう時が必ず訪れるのである。

ブロックチェーンにもそういった事が貿易金融においても起こりうると私は思う。

それを見据えて、貿易金融においてのブロックチェーンの有用性と今後ブロックチェーンがこの業界で活躍し続けるためにはどうしたらいいかを考えていきたい。

(ブロックチェーン全体の市場動向についてはこちらでまとめている。)

そもそもなぜ貿易金融 にブロックチェーンは必要なのか?

AIG で Head of Supply Chain and Trade Finance を務める Marilyn Blattner-Hoyle はこう言う:

Insureblocks より

つまり、

分散化デジタル台帳と非中央集権型コンセンサスメカニズムが大きなメリットであるブロックチェーンは、貿易金融市場の問題(中央集権型データベース・レガシーシステム・紙ベースの管理体制・不正取引)の解決にはうってつけの技術なのである。

具体例を挙げながらもう少し細かく説明しよう。例えば、レガシーシステムで問題視されている、Letter of Credit (L/C)。L/Cは取引決済の手段として、銀行から買い手(輸入業者)に譲渡され、売り手(輸出業者)が支払いを行えない場合に備えてのリスク緩和の目的がある。しかし、現在の L/C は銀行のリスク調査による時間的なロス、偽造書類による信頼性の低下、書類上の公的条項の曖昧さから生じる代金決済の遅延、などが課題として挙げられている。

それに、貿易取引関係者は銀行だけではない。保険会社や運送業者なども取引に介入していることから、L/C以外の必要書類は無数に存在し、煩雑な手続き処理は貿易市場の効率性を著しく低下させている。

そこで救世主として現れたブロックチェーン。

この革新的な技術は、上記の問題を解決するだけでなく、貿易金融に4つの大きな影響を及ぼす。まずはそれらを紹介していきたい:

1. 取引の透明性とトレーサビリティ

ブロックチェーンでは、代金決済内容、商品の運送者・所有者の状況、税関書類のデータ、請求書など、貿易取引に関わる全ての情報を分散化して、管理をすることができる。取引関係者が情報を共有することで、これまでL/Cの手続き処理で最低でも数日程度を要していた取引も、情報閲覧が数分で可能になるなど、大幅な時間短縮が図れる。また、ブロックチェーン上に保存された情報は、取引後でも確認ができるため、銀行や第三者機関が共通の情報を使って買い手のリスクプロファイルと取引のデューデリジェンスを効率的に行う事ができる。

2. コンセンサスアルゴリズムによる信頼性の向上

ブロックチェーン上で行われる取引は、取引の正当性(改ざんや二重支出がないか)を確認するために、ネットワーク内の取引承認者(マイナー)が、承認する仕組みになっている。この特徴は、偽造書類を防ぐ事と、取引情報の監査能力を上げる事ができると考えられる。また、今の段階では、情報の上書きはほぼ不可能であることから、貿易金融に不可欠な情報の一貫性と不変性が担保される。すなわちブロックチェーン上で行われた貿易取引は信頼性の高さを裏付けることとなり、取引関係者の信頼確保にもつながる。

3. 従来のL/Cの廃止による時間短縮とコストの削減

代金決済契約のデジタル化によって、非効率的な従来のL/Cの仕組みを刷新できるようになるだろう。 ブロックチェーン上で、金融機関や輸出入業者が同時に、デジタル化されたL/C の発行・確認・承認ができ、取引内容の急な修正にもネットワーク上で対応ができたり、書類上の公的条項の曖昧さから生じる代金決済の遅延を未然に防いだりすることができるようになる。また、仮想通貨で送品代金の支払いを行えば、より迅速に取引を進めることができる。これは、時間短縮とL/C管理にかけるコストを削減する事に繋がる。

4. 貿易資産のトークン化による配達保証

貿易資産をブロックチェーン上でトークン化することで、運送状況を把握することが可能になる。運送条項はネットワーク参加者(取引関係者)と共有され、運送遅延などの運送に関わる問題を早期に予測・知ることができるため、リスク管理と運送効率改善策が取りやすくなる。

貿易金融の既存ブロックチェーンプロジェクト

貿易金融でのブロックチェーンプロジェクトは、既に数多く実行されている。最近では The Hong Kong and Shanghai Bank (HSBC) がブロックチェーン上でL/C処理を行い、大豆をアルゼンチンから中継地ジュネーブ、シンガポールを経てマレーシアへ輸送する取引を成立させ、時間を44%短縮、コストも31%削減できたと発表した。こうした動きの加速化の波に乗るプロジェクトに着目し、各取り組みのスキームを下記のようにまとめた。

1. We.Trade

ブロックチェーン: Hyperledger (仮想通貨にこだわらず、分散型・スマートコントラクトを重視)

プロジェクト概要: 既に5カ国間で7つの商取引を成功・ 銀行支払い確約書,Bank Payment Undertaking (BPU) を使った貿易金融の管理を行う

2. HSBC x R3

ブロックチェーン: Corda (匿名性・時間削減・スマートコントラクトを重視)

プロジェクト概要: ブロックチェーン上で大豆取引のL/C処理に成功・Bill of Lading (BL) 処理に取り組む予定

3. Commonweath Bank of Australia x Skuchain

ブロックチェーン: Hyperledger

プロジェクト概要: ブロックチェーン上で棉取引のL/C処理に成功

4. Barclays x Wave

ブロックチェーン: Wave (貿易サプライチェーンで使えるようなプラットフォームを重視)

プロジェクト概要: ブロックチェーン上でチーズ・バター取引の貿易書類のデジタル化に成功

5. Batavia

ブロックチェーン: Hyperledger

プロジェクト概要: 出荷の進捗を把握でき、商品の運搬の各段階で自動的に支払いが行えるプラットフォームの運営を目指す

ブロックチェーンが「貿易金融で」生き残るために

The Dark Knight Rises より

こういった動きが広まる中、ブロックチェーンネットワークも世界中で拡大しているのだが、ブロックチェーンの理解度は未だ低く、「ゴッサム化」している。貿易金融市場においてブロックチェーンを最大限に生かし、プレゼンスを上げていくためには、次の3点を念頭に入れる必要があるだろう。

1. 貿易制裁の対応

貿易市場では様々な貿易制裁がかけられている。米国財務省外国資産管理局 (OFAC) が管理する米国貿易制裁やEUの共通外交・安全保障政策 (CFSP)に基づく貿易制裁などだ。貿易取引をブロックチェーンに移行する際も、これらの規制に、当然従わなければならない。そのためには、OFACなどの管理機関が情報を監視・監査できるシステムと、規制に関連する必須情報の開示の制定、並びに、予告なしに変更される制裁関連規制に対応するための柔軟な規定の枠組みが必要である。これらの対応はブロックチェーンの貿易金融における利点を生かすことに加え、ブロックチェーンそのものの信頼性を高めるものであり、ネットワークの前進につながるだろう。

2. 取引情報の漏洩

貿易取引では、内部情報の秘密性が重要視され、情報漏洩は避けなければならないにも関わらず、ブロックチェーン上では、情報がむき出しになってしまう。取引に関わる輸入業者、輸出業や運送業者を始め、保険会社や金融機関に全ての取引段階の情報が共有されるからである。特に、パブリック型ブロックチェーンでは取引情報・履歴が、ネットワーク上の、取引に関わっていないメンバーにも開示されるため、決して使い勝手の良いものではない。これを克服するには、 ネットワークの一部を非ブロックチェーン化し、機密情報を保管する場所を設けるか、取引を行う際に、取引情報を暗号化する方法がある。後者に関しては、現在暗号化された取引情報はスマートコントラクトで対応していない為、そういった取引に対応できる進化系スマートコントラクトが出てくることを期待したい。

3. コンセンサスアルゴリズムの有用性と信頼性

ブロックチェーンを使う上で重要になるのがコンセンサスアルゴリズムの有用性と信頼性だ。例えば、貿易金融をBitcoinで管理するとしよう。今の段階では、Bitcoinの Proof of Work というコンセンサスアルゴリズムは、取引承認時間が比較的長く、大量の電力を消費し、51%問題によるハッキングの懸念が広がり、その有用性が疑問視されている。そのため、中長期的にはProof of Work がブロックチェーンで使われなくなる日が来るかもしれない。それに対応しようと、コンセンサスアルゴリズムを他のアルゴリズムに変更する際、その変更と変更先の意思決定は誰がするのかが重要になる。アルゴリズム変更というリスクを避けるためには、初期段階からあらかじめ貿易金融に最も適した、且つ信頼の高いブロックチェーンを構築するべきである。

今後の貿易金融のブロックチェーン動向は、見所が多そうだ。

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