IP-NFTによって変化する科学の現在

Mayu Yamaguchi
18 min readJul 21, 2023

医薬品開発に私は興味があり、Molecule(https://www.molecule.to/)というDeSciプロジェクトが掲載するIP-NFTの現状について解説した記事を日本語翻訳することにしました。日本の製薬企業の方々や、研究機関の皆様をはじめとした、DeSciという仕組みに救われる可能性のある人々に届けることができれば嬉しいと思っています。

Moleculeは、新しい治療薬が、共同での医薬品開発を通じて生み出されることを目的とし、早期のR&D資金によって推進されることを実現するためのフレームワークとプラットフォームを構築しています。私はMoleculeのContributor Programにも承認され、今はCommunity WGにいます。

この記事は、Moleculeによる投稿の許可を得た上で日本語に翻訳をしました。Molecule,そして執筆者であるElla McCarthy-Page(https://twitter.com/EMcCarthyPage)にはこの場で改めて感謝申し上げます。また、この翻訳のレビューをしてくださったDeSci Japan Youth代表のスミレさん(https://twitter.com/Ultraviolet_med)へも感謝します。

元記事(2023–06–08)By Ella McCarthy-Page

以下翻訳です。ぜひご一読ください。もし違和感のある点や修正すべき点があればご連絡いただけると嬉しいです。(一部研究者の方々の画像が元記事にはありますが、本記事からは省略します)

2021年8月17日に最初のIP-NFTが取引され、研究のための新しい資金調達方法が開始されました。それ以降、Moleculeのシステムを通じて合計6つのプロジェクトに資金が提供されました。

Dr Scheibye-Knudsen & The Longevity Molecule

Molecule,The Longevity Molecule

Dr Morten Scheibye-Knudsenは、加齢に伴う病気を予防する治療薬はすでに市場に出回っているが、正しい使い方ができていないだけなのではないかと考えていました。

彼のチームは、機械学習を使ってデンマーク国民400万人の医療記録を分析して、寿命延長に関連する処方薬を開発していました。可能性のある候補薬品のウェットラボ試験を行うには資金が必要でした。知的財産であるNFTを購入することで、人間の寿命と健康寿命を改善することをミッションとするVitaDAOは、$250Kの資金調達目標を達成することができました。

Dr Scheibye-Knudsenと彼のチームは現在、ミバエとヒトの両方の細胞モデルで化合物を試験して、細胞老化の抑制を成功の指標として用いています。6ヶ月後のレビューでは、ハエモデルでは効果がなかったため、一つの化合物を除外することができました。そして、細胞老化の一貫した抑制を示す、有望な新しい化合物も特定していました。

さらに、この研究によって新たな研究に繋がる可能性があります。これらの分子が作用するメガニズムとはなんなのか、解明する必要があります。まだテストすることができる処方薬の多くのライブラリーがあり、それぞれが老化治療の可能性を示しています。

毎朝起きてから、長寿化合物のカクテルを飲むことをイメージできるでしょうか。Dr Scheibye-Knudsenは最近、paper on cellular senescenceを発表しました。謝辞の中にVitaDAOを見つけることができるでしょう。

「私は科学的な発展のためにコミュニティを活用することは、刺激的で有用なことだと信じています。これらの問題に取り組むには、できるだけ多くの頭脳が必要だと考えている。」

Dr Morten Scheibye-Knudsen

Dr Korolchuk & Autophagy Activators

Molecule,Discovering Novel Autophagy Activators

老化は細胞のオートファジー経路の欠如と関連しています。そのプロセスは、次のようになっています。

オートファジーの欠如は、機能不全に陥ったミトコンドリアや、タンパク質凝集体などの細胞成分の蓄積を引き起こします。そして次々に、ストレス経路が活性化されます。これらの経路は、細胞資源を枯渇させ、最終的にはアポトーシス、つまり細胞の自殺に至ります。オートファジーの欠如の主要な原因の一つは、オートファジーのゴール地点に位置するリソソーム機能不全です。この領域は、Dr Viktor Korolchukの関心領域です。

オートファジー活性化因子の可能性を特定したDr Korolchukは、これらの活性化因子を試験するための資金を得るためにMolecule社に連絡を取りました。Within four weeks his project was assessed by VitaDAO and approved.(4週間以内に彼のプロジェクトはVitaDAOによって評価され、承認されました。)

これは新しい動きということだけではなく、プロジェクトへ資金を提供しやすくするためにMoleculeが大躍進していることを示しています。リソソームタンパク質を形成することができず、オートファジーを完成させることができないNpc1ノックアウト細胞を用いて、Dr Korolchukはこれらの細胞に潜在的な活性化因子を投与する予定です。

これらの化合物は、オートファジーを開始する能力を持たない細胞に対しても試験され、リソソームが関与するオートファジーの最終段階で作用する、活性化因子の特異性を実証する予定です。

Dr Korolchukは、DAOを通じて資金提供を受けることのメリットは、VitaDAOコミュニティ内での共同研究や、データ共有の可能性がある二点だと述べています。

Dr Fang & Mitophagy Activators

Molecule,Discovery of novel mitophagy activators for Alzheimer´s disease

“A sharp body makes a sharp mind(シャープな身体が鋭い頭脳を作る)”とは、De Evandro Fei Fangの言葉です。この分野では先駆者であるDr Fangは、オートファジーのサブタイプであるマイトファジーをアルツハイマー病の原因として初めて提唱しました。そして、その病気の原因であることを証明しました。Fang-AIと名付けられたAIを使用して、彼の研究室はマイトファジーを活性化する可能性のある化合物を特定しました。

VitaDAOの支援により、他の新規低分子ライブラリーもFang-AIで試験される予定です。VitaDAOは、これらの化合物の試験を支援していますが、Dr Fangは細胞毒性というデリケートな性質がハードルになる可能性が高いと言及しています。これらの化合物は、偽陽性の可能性を減らすために、異種間で試験されます。

もし試験が成功すれば、アルツハイマー病患者だけでなく、パーキンソン病、ハンチントン病、ALSなど、あらゆる神経変性疾患に苦しむ人々を治療するための薬物療法が開発される可能性があります。

この助成金の中で、Dr Fangの過去の博士課程学生であるDr Shuqin Caoも資金援助を受けています。Dr Caoの博士課程で、彼女はパッションフルーツに含まれる2種類のマイトファジー活性化物質を特定しましたが、驚くべきことに、それらはFang-AIによって特定された低分子の1/10の量で効果的でした。

VitaDAOの資金援助によって、これらの分子を特許化するためのさらなる構造修正が可能になります。

知的財産権契約をVitaDAOに譲渡したことで、私たちはウェットラボに集中できるようになりました。彼らは、IPを買ってくれるのは誰なのか、臨床試験をしてくれるのは誰なのかを業界に相談します。これは両者にとってメリットがあることなのです。

Dr Evandro Fei Fang

Dr An & Periodontal Disease

Molecule,Towards reversing periodontal disease using Geroscience

慢性口腔疾患である歯周病は、歯を支える組織の炎症(明らかな感染を伴わない炎症)です。歯周病は、結合組織や骨が劣化することによって、最終的に歯を失うことにも繋がります。老化とは深い関係にあり、痛みを伴うだけでなく、心臓病、アルツハイマーなどの加齢に伴う病気とも関連しています。自称”歯科医科学者”のDr Anは、この問題に対する初の非外科的医療解決策を考案しています。

このプロジェクトは、アメリカでIP-NFTとして資金提供された最初のプロジェクトです。Dr Anは過去に、mTOR阻害剤であるラパマイシンがマウスの加齢に伴う歯周病の、骨量減少の抑制に成功しています。

これらの研究に基づき、彼のチームはVitaDAOからの資金援助を受け、この炎症と戦うためのmTOR経路の低分子阻害剤を試験する予定です。マウスモデルでの8週間の研究終了時には、炎症の軽減、もしくは歯周病の直接的な改善を確認することを目的としています。この研究は歯科疾患を調査したものではありますが、認知と加齢に関連する多くの病気を予防するための前向きな方法として、その利点はさらに広がっています。

患者としては、いつか近所のスーパーで売っている歯磨き粉にこの小さな分子が含まれていて、歯周炎が始まる前に阻止できるようになることを望んでいます。

Dr Sharma & Senolytic CAR-NK Cells

Molecule,ApoptoSENS — Senolytic CAR-NK cells

老化細胞を除去する方法はすでに確立されていますが、有害なオフターゲット効果をもたらす可能性があるという欠点があります。しかし、私たち自身の免疫システムを利用することで、副作用を避けながら、老化細胞の有害な影響を軽減することができます。Dr Sharmaはがんと戦うsuccess of CAR-T(CAR-T細胞の成功)に基づき、キメラ抗原受容体ナチュラルキラー細胞(CAR-NK)がその答えになりうると提案しました。

免疫システムの監視チームであるナチュラルキラー細胞は、T細胞に比較して生産コストが安く、個々の患者から採取する必要がないという利点があります。さらに、ナチュラルキラー細胞は2~3週間で体外に排出されるため、オフターゲット効果の可能性が低くなります。老化細胞には独特の表面上のマーカーがあり、Dr Sharmaのチームはそのうち3つを明らかにしました。

VitaDAOは、これらのマーカーを認識するナチュラルキラー細胞の設計に資金を提供しています。Dr Sharmaの研究は、幅広い研究の入り口にあります。老化細胞は均一ではないため、この方法は一様には機能しない可能性があります。さらに、老化細胞の中には有益なものもあるので、標的にするべきではありません。

DeSciの明確な原則は、異なるレンズを通して科学を見ることです。VitaDAOはそのような理由から、この研究に本質的な価値を見出しました。

Dr Paus & Thyroid Hormones for Hair Loss

Molecule,Topical Thyroid Hormones for Hair Regrowth

脱毛は、一般的には美容における問題と考えられていますが、一生のうちに大多数の人々に影響を与える問題であり、そして大きな精神的苦痛を与えるものです。これが、IP-NFT業界に2番目に参入したDAOのHairDAOの原動力です。

最初のプロジェクトを率いるのは、脱毛分野の大物とされるDr Ralf Pausです。過去に、Dr Pausは、甲状腺ホルモンT3とT4を導入することで、毛包の成長期を延長することができ、ケラチンの生成を促し、毛包細胞のアポトーシスを軽減できることを立証していました。これは、毛包を移した臓器培養に甲状腺ホルモンを加えることによって行われました。Dr Pausが登場するまで、甲状腺ホルモン外用剤が皮膚科学において試験されたことはありませんでした。

HairDAOからの資金提供により、Dr PausはT3とT4を人間の頭皮の皮膚で試験することができるようになりました。さらに研究を進めるために、2回目の資金提供を受ける可能性もあり、結果は今年の夏に出る予定です。

脱毛研究における欠点の一つは、モデルの妥当性です。マウスの毛髪モデルは人間の毛髪モデルを十分にコピーできていません。そのため、頭皮を提供できる方がいたら博士にお知らせください!

Dr Pausは、この合理的な技術に基づいた資金調達方法に不安を抱いていましたが、HairDAOとMoleculeの案内によって、苦労することなく手続きを進めることができました。

彼はその後、DAOから資金提供を受けることの重要な利点のひとつについて語りました。それは、ビジョンを共有して、しっかりとした科学的解説を提供できる人々のコミュニティを持つということでした。

最後に

HairDAOに続くホットな話題はValleyDAOです。このDAOは、合成生物学に焦点を当てており、Dr Rodrigo Ledesma-Amaroと、油脂酵母からの脂質抽出に関する研究への資金調達の交渉をしています。微生物脂質は、抽出コストが高くなる動物性油脂や植物性油脂の代替品よりもはるかに持続可能です。しかし、抽出にはコストがかかります。Dr Ledesma-Amaroはこれ対し、立ち向かおうとしています。

また、AthenaDAOには、卵巣の老化に取り組む博士課程の学生である、Lu Dongとともに、IP-NFTの可能性も視野に入れています。

表面的には、女性の生殖医療は女性だけに関わるように思われますが、AthenaDAOは、この問題は未来の世代の想像に影響するため、すべての人にとって重要な問題であると教えてくれます。

IP-NFTの外では、いつでも活動的なVitaDAOが複数のプロジェクトを進めています。彼らは、長寿研究の丁寧なキュレーションを四半期ごとに発表するThe Longevistの作成に資金を提供しました。もうすぐ創刊号が発行される予定です!

実験は科学の進歩に不可欠です。そして、それは科学的プロセスのあらゆる面に及びます。私たちは、変化を受け入れ、この斬新な資金調達方法を試してくださった6人の研究者とそのチームへ感謝の意を表します。もし興味を持ってくださったなら、あなたのプロジェクトをMolecule websiteにアップロードするか、わたしたちのDiscordに参加してください。

今回は、具体的なDeSciの現状についての事例紹介記事を翻訳しました。より、DeSciの具体的な進行中プロジェクトの状況のイメージを持ってもらいやすくするために、この記事を選定しました。今後、日本でもDeSciの仕組みを活用した新たな研究支援が生まれてくることを願っています。

参考文献

Molecule,The Longevity Molecule

VitaDAO,Funded project,Scheibye-Knudsen Lab

Molecule,Discovering Novel Autophagy Activators

Molecule,Discovery of novel mitophagy activators for Alzheimer´s disease

Molecule,Towards reversing periodontal disease using Geroscience

Molecule,ApoptoSENS — Senolytic CAR-NK cells

Molecule,Topical Thyroid Hormones for Hair Regrowth

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