情報アーキテクチャの国際会議「IA Conference 2019」雑感

Yuichi Inobori
10 min readMar 23, 2019

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情報アーキテクチャ(Information Architecture:以下”IA”と略記)の国際カンファレンスである”IA Summit”が昨年を以て18年の歴史にいったん幕を閉じ、今年から主催団体がコミュニティ主催に変わって”IA Conference”として新たなスタートを切った。

去る2019年3月13〜17日(メインカンファレンスは15〜17日の3日間)米国フロリダ州オーランドで開催された、カンファレンスタイトルが変わった記念すべき第一回の”IA Conference 2019”の年次テーマは、

Gateways: Legacy With Purpose

と題され、その象徴的なテーマ文脈に沿い、呼応するように、

・意思決定と情報

・倫理観や善悪と情報

・意味と情報

といった内容を重点とする多様な観点と視座からの発表、話題提供に溢れた3日間だった。(多様性=Diversityは近年、IAコミュニティにおいては常に通底する根底テーマでもある。)

筆者自身は昨年の最後のIA Summitには所用あって出席できなかったので2017年のバンクーバー大会以来、2年ぶりに参加した視点で本大会のポイントを自身の思考の整理を兼ねて記したいと思う。

例年、メインカンファレンス各日の冒頭と結びに行われるキーノートは、その年のメインテーマの文脈に沿った象徴的な話題提供であることが多いが、今回も例に漏れず非常に示唆と啓示に富んだスピーチばかりだった。

Kim Goodwin “Bring Back Human-Centered”

特にDay2のクロージングキーノートを務めたKim Goodwin(Alan Cooper率いる、Persona Design,Pair Designを活用した先駆的デザインエージェンシーであるCooper の元デザイン責任者)が彼女のスピーチ”Bring Back Human-Centered”の中で発した、

“DESIGN is just a skill set,

HUMAN-CENTERED is mission.”

という言葉は、会期を終えて様々な発表を振り帰った今、今大会の全体論旨において非常に示唆を持つものであったと改めて感じている。

(極めて私感ではあるが、”HUMAN-CENTERED-DESIGN"ではなく、”HUMAN-CENTERED”であることに重要な意図があるのではないかとも思う。)

Kimは、”デザインとは「意思決定」である”と言及したうえで、あらゆる局面においてより人間(性)中心の意思決定を行えるようにするために、あらゆるスキルを使いこなせるようにすることが、わたしたちの(デザイナー、インフォメーション・アーキテクトのみならず、ここでは”人間”である我々すべても指すと解釈している)責務である、と提言した。

更に示唆深い提言として、第二次世界大戦後にナチスの虐殺問題を裁いた「ニュルンベルク継続裁判」の結果、研究目的の医療行為行うにあたって遵守すべき10の基本原則である「ニュルンベルク綱領(Nuremberg Code)」を引合いに出した。

スマート化したバービーがあなたの子どもを監視する?

その意図は、世の中のデジタル化が進み、インターネットを用いたプロダクトやサービスが人間のあらゆる経験や行動に影響を与えているからこそ(Kimは、”conduct”という言葉を用いている)サービスをデザインする者は、生活者やユーザーが夢中になるからといって、意識せずにハマるからといって、そうすべきか?考えないといけない、と。

同様の問題提起は翌日、Kit Oliynykが”Evil by Design”と題した自身のスピーチにおいても行われていた。

“Add network”というメッセージの真意は、友人登録されている688人にメールを送りつけること
肌の色によってセンサーの反応に差が出る場合がある

彼は、デザインによってユーザーに対してよくない結果をもたらすことができることを、チケットサイトにおいて早く購入せよと促すインタラクションデザインや、ビジネス向けSNSで「ネットワークに追加する?」と促すメッセージの真意は自身の友達全員に友達登録を促すメールを送り付けること、という事例。そして肌の色によってセンサーの反応に差が出てしまった水栓器具を引合いに出して例示。

ユーザビリティ的な観点で言う「使いにくい」「使いやすい」ではなく、結果的にユーザーの不利益(逆に、往々にしてサービス提供者側が利益を得る結果となる場合が多い)邪悪な意図を持ったデザイン自体が倫理に反する濫用行為(Abuse Case)であるだけでなく、無意図であれ結果的にひとを傷つける結果となる場合をも含めて、デザイナーは考える矜持を持つべき時代であることを提言。

これを、

”Design is not Creative class.

Design is Responsible class.”

(デザインはもはや創造的であるだけでなく、デザインがもたらす結果に責任を持つべきものである)

そして、

”Moral is knowing the difference between right and wrong for yourself.

Ethics is doing the right thing ,even if it is hard or uncomfortable together.”

(モラルとは、あなたにとって正しいことと間違っていることの違いを知ること。倫理的であるとは、困難でツラかったとしても正しいことを行うこと。)

と述べた。

ふと自身の立場で振り返ると、これまでたくさんのWebサイトやアプリ、プロダクトに実装される情報インタフェースを設計してきた中で、

「どうすればユーザーがもっと迷わず、スムーズに目的の行動を遂行できるか?」

「どうすればもっと繰り返し使いたくなってくれるか?」

「どうすればもっとストレスなく機能の選択や購入行為を習慣化してくれるようになるか?」

など、自分なりに知恵を絞って工夫を重ねてきた。

それはすべて、ユーザーゴールを満たし、ユーザーにとって良いことを提供しよう、と信じて行ってきたことではあったが、常に背中合わせとして当然のことながら自身やクライアントの(ビジネス)ゴールとのアラインメントがあったことは確かである。

だとすると、果たして本当にユーザーにとって長期的、意味的な観点も含めると良いことだったのか?と、急に不安に駆られた。

上記に紹介したKimとKit以外にも、何名かのスピーカーが「人間性」「倫理」の尊重、回帰のためにデザイナーや情報アーキテクトが何をすべきか?について、それぞれの思索、提案を行っており、上述のように自分自身としてもデザインに携わる身として深く考えさせられるとともに、これこそが最も重要な議論の方向性であるとも痛感させられた。

本大会の3日間を通した自身の解釈のポイントとして、

1.急速かつ減速することを知らないデジタル化によって一層複雑化と情報過多が進む今とこれからの世の中において、世の中を行き交う膨大な情報そのものが、社会やそこに生きる人間にとっての「価値」や「意味」をつくっている。

2.そして、人間が意思決定や判断を行う媒介となりうる情報やデザインの重要性と責任の重さは一昔まえとは比べ物にならないくらい増していおり、情報やデザイン自体が社会やひとの価値観や倫理観に影響を及ぼすからこそ、デザイナーやインフォメーション・アーキテクトは徹底してETHICALであるべきであり、何がETHICALか?を問い続けなければならない。

3.人間(ユーザー)にとって”惹きつけられること(HOOKED)”をデザインすることは一見ユーザー、サービス提供者双方にとって良いことに思えるが、長期的な視点で見るとそれが唯一の正しい方法か?デザインにおけるダークパターン(e.g. https://darkpatterns.org/)の提供になってはいないか?について深く考えなければならない。

4.ユーザー体験は常に「意思決定」によってつくられるので、人間が正しい意思決定を行えるために情報やデザインは何ができるか?人間中心であるということはどういうことか?を真摯に問い続けることがデザイナーやインフォメーション・アーキテクトの使命(MISSION)である。

という4点を挙げたい。

最後に、最終日となるDay3のクロージング・キーノートにおいて、自身も高名なインフォメーション・アーキテクトであると同時に、情報アーキテクチャやUXデザインに関する良書を数多く出版している出版社 Rosenfeld Media の発行人でもあるLouis Rosenfeldが講演タイトルとして提示した、

”IA FOR TRUTH”

という言葉が、新生IA Conference、そしてこれからのインフォメーション・アーキテクト(とデザインパーソン)が持つべき矜持を端的に、しかし強い意図をもって表しているのではないだろうか?

オーディエンスを撮影するオモシロおじさん Louis Rosenfeld “IA FOR TRUTH”

2年ぶり、そして新たにリスタートしたIA Conferenceは非常に示唆に富み、今までとこれからの時分の仕事について考えさせられる有益な3日間となった。

来年の開催地は米国ニューオーリンズです。

※詳細は追って情報発信しますが、4月8日(月)18:30頃〜@渋谷にて、日本からのカンファレンス参加者( 下写真のレディ&ジェントルメン)で例年恒例のREDUXと銘打った報告会 兼 情報共有のためのミートアップイベントを開催予定です。ご興味お持ちいただいた方、来年参加してみたい、という方は予定をブロックしておいてください。近日中にイベント情報を発信します。(IAAJ:情報アーキテクチャの理論と実践をめぐる日本コミュニティのWebサイトFacebookページ経由での発信予定)

#iac19 #iaaj

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Yuichi Inobori

I'm a Design Strategist and musician in Japan. enjoy Design,business, music, art and our lives!