UX戦略の国際会議「UX STRAT2016」2日めの共有と考察を書いてみたよ #uxstrat #uxstratj

Yuichi Inobori
6 min readSep 17, 2016

--

UX STRAT2日めの朝は、SAPでUXデザインをリードしているJanaki Kumarのスピーチ”Creating a Culture of Design-Led Innovation”から始まった。

デザインの力によってイノベーションを生み出す文化をつくるために必要なこととして、イントレプレナー(社内起業家)の存在の重要性を提言。

かつてKODAKの社員でデジタルカメラの生みの親となったStven Sassonが今のデジタルカメラのアイデアを経営陣に提案したところ、「すごく素晴らしいアイデアだ、しかし、このことは誰にも話すなよ!」と言われたエピソードを引用しながら、その後のKODAKの凋落を照らし、社内でイノベーティブな人材を育てブレークスルーが起こるチャンスを大切にする重要性を説いた。

彼女が言った、

タマゴの殻は外からの力には強いけれど、内からの力には弱い(社内からイノベーションを起こせば、殻は破れる)

という例えは、実に至言であろう。

イノベーティブな文化をつくる3つの柱として、

1.PEOPLE

2.PROCESS

3.PLACE

を挙げ、彼女自身のデザインチームにおける取り組みを事例に、組織がイノベーティブな文化を受け入れるにあたっての準備度合いを見極め、経営層を味方につけ、そして多様性を受け入れる場づくりを行うことの重要性を提言した。

続くセッションでは、新進気鋭のEコマース企業jetでデザインリサーチ責任者を務めるBen Babcockが、自社におけるユーザー理解からUX提供の実務レベルへの落とし込み事例について紹介。

かつては大企業で勤務していたBenは自身の経験から、企業規模が大きくなればなるほど物事決めるのにたくさんの手順が必要になって進まなくなる、という状況を、渋滞の比喩を使って指摘。

かつてはすいすい車が行き交っていたはずの道路(スタートアップや中規模企業)は、いつしかびっしり車が詰まって一歩も前に進めない大渋滞になっていく、というエピソードには思わず会場の多くの参加者がうなずいていた。

日々集められるデータをオフィスの会議室で眺めながらユーザーニーズを理解したつもりになっている大企業を、

”あなた方がいる場所に、ユーザーはいない”

とバッサリ。

スタートアップであるjetが「フローティング・フィールド・スタディ」と呼ぶ手法は、顧客の自宅に訪問して観察やインタビューを行うような従来のフィールド調査よりももっと軽やかで必要最小限のインサイトを重要視する。

例えば、自宅を訪問する代わりに、電車の中やバス、ショッピングモールの中など、顧客がいそうな場所に出向き、その場で交渉をしてインタビューやスマホで買い物をする様などを観察する。

その際、もちろん謝礼用のギフトカードやNDAの書類なども忘れず携帯して(笑。

さらに彼らが徹底しているのは毎週木曜日に行われる儀式。

社内にユーザーテストのためのルームをつくり、毎週木曜日には10名程度のユーザーを招待し、その場でラップトップを使って買い物体験をしてもらい、その様子を別室でリモート観察を行う。

ユーザーテスト用のパソコンには視線の軌跡を記録できるアイトラッキングシステムも搭載し、現状サイトの改善点や、予期していなかったユーザーの行動から得られる新たなUXアイデアをリアルタイムでどんどん出し、翌日金曜日はそのほとんどを実装してしまうのだ。

こういったアプローチは、ぼくのチームでもService Design Sprintの手法を用いて、短時間に、最小単位のインパクトのあるサービスづくりを行うプロジェクトの際に行っているものと近いが、jetが徹底しているのは全ての体制と環境、そして週間単位で継続して行われる仕組みとサイクルを作り上げている点である。

まさに、「言うは易し、行うは難し」を実際にやりきっている、ユーザーと真正面から向き合う俊敏なチームがjetにはある。

これらセッションの他にも、IDEOブラジルのBelmar Negrilloが提唱する、適応学習(Adaptive Learning)を用いた未来のパーソナライゼーションが生み出すUX戦略の考え方や、Intuitの税金ソフトの開発を担当したBen Judyが語った「ユーザーにとって最良のUXデザインを行うためには、企業は内なるチェンジ・マネジメントを求められる」という考察など、非常に興味深い話題が盛りだくさんの2日めであった。

2日間を通して見えてきたことは、UX戦略という数年前まで定義もなく、議論の視点もバラバラであったテーマが、数年を経て咀嚼され、様々な視点から実践されてきた中で、UX戦略について様々な視点を持ったひとたちが、都度自身の定義をRe-Framingしているということである。

UX戦略のスコープはCX、製品、サービスと拡げつつはあり、UX戦略は企業戦略そのものである、という緩やかなコモンセンスは醸成しつつも、その真たる定義と”価値”については未だ多様性をもって議論し続けられている。

なぜなら、デジタルトランスフォーメーションを引き合いにだすまでもなく、時代の変化が激しく、不確実性も高い今の時代において、尚早なレッテル貼りは意味がないからだ。

UX STRATの名物男Ronnie Batistaが初日の最終セッションの中で口にした”Communitas”という言葉が、このUX STRATというカンファレンスと、それを構成するコミュティにはまさにピッタリだと改めて実感した。

抽象度の高い話題から、具体的で明日からでも実践できそうな話題まで、今年も実に多様なインプットと、同じ志をもったデザインブラザーとデザインシスターたちとの親交を温めることができたよい2日間だった。

それでは都に帰ります。

Great thanks, Paul and all UX STRAT communitas!

追伸1:

近日何かの形で今回のインプットの共有と議論の場をもちたいと思います。

追伸2:

まだ構想段階ですが、うまくコンディションが整ったら来年UX STRATを日本でもやりたいと思います。”UX STRAT in Asia”と銘打って日本のみならず中国、台灣、韓国、シンガポールなど、アジアのUXerたちとUX戦略というテーマについて議論し、インスピレーションを交換し合う場にできればと主宰のPaulと相談中なので、実現を応援してくれる仲間を募集します!

--

--

Yuichi Inobori

I'm a Design Strategist and musician in Japan. enjoy Design,business, music, art and our lives!