UX戦略の国際会議「UX STRAT2016」初日の考察と報告を書いてみたよ #uxstrat #uxstratj

Yuichi Inobori
8 min readSep 16, 2016

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米国ロードアイランド州プロヴィデンスで開催されている、ユーザーエクスペリエンス戦略(以下「UX戦略」)主題に冠した国際会議「UX STRAT2016」に今年も参加している。

このカンファレンスはLinkedInのコミュニティの盛り上がりがきっかけでボランティアを中心に2013年から始まった米国のデザインカンファレンスでは珍しいボトムアップ型の国際会議で、主催コミュニティの集まる米国のみならず、昨年からはヨーロッパ大会(オランダ アムステルダムにて)も開催が始まり、益々盛り上がりを見せており、ぼくも最初の年から欠かさず出席をしている。

今でこそ「UX戦略」という言葉は、ワードとしては時折耳にするようになったが、2013年当時は何をもって「UX Strategy」と定義すべきか?UX戦略がカバーすべきことと、その範囲はなにか?という定義がなく、だったらその曖昧さと今後の可能性を議論して、一緒に考えていこうよ、という目的で始まった非常にthoughtfulで様々な意見を受け入れる土壌をもったコミュニティでもあると感じている。

開催当初はビジネスとデザインをいかに歩み寄らせるか?という根本的な企業組織論の話題から、徐々に具体的な手法論、そしてUX戦略における”UX”の範囲を企業そのものの価値創出活動にまで拡張していこう、という議論・提言まで、年を追うごとにその時々の世情や企業が社会から求められることの変化に沿って主となる論調は進化してきているのが特徴でもある。4年目を迎える今年の大会でもその傾向はますます進んでいると感じた。その姿勢は、オープニングスピーチでメインオーガナイザーのPaul Bryanが語った、

”UXはCXであり、製品やサービスの周辺を構成する経験のみならず、製品そのものを成り立たせるための主要な要素である。そして全ての製品はサービス化してしていて、その中心にある価値は「Experience」そのものである。だからこそUXはホリスティックな経験を作り出すことが重要であるし、Cレベルの経営陣が責任を持つべき領域である”

という開会の提言に象徴されていると実感した。

続くDay1のキーノート・スピーチを担当した、元IntuitのUXデザイン責任者でありフォレスター・リサーチを経て現在は「一人から始めるユーザーエクスペリエンス」の著者として著述家・UXデザインの専門家としても知られるLeah Buleyのスピーチでは、ますます進む生活者をとりまくデジタル化の中で、

たった52%の生活者しか直近のモバイルと通した顧客経験に満足をしていない

というデータを引用しながら、容赦なく急速に浸透するデジタル化によって、企業はUXをデジタル化している世界においてどのように生活者に価値を与えるか?を中心に考えないといけないことを前提としつつ、もっとホリスティックな視点でリアルも含めた経験価値のデザインを行うことこそが、企業にとって生活者からブランドレベルで評価を得るための必須の視点であることを語った。

併せてビジネス(CX)の視点から見た顧客価値提供の効果計測の指標と、デザイン(UX)の視点からそれは、分けるべきでなく、包括的に捉えるべきであることについても改めて提言した。(ここ数年、UX STRATコミュニティでは、企業全体のブランド価値創出のための領域を”CX”、その中の主にデジタルを基軸とした経験デザインの領域を”UX”と明確に定義分割して扱っている。この点についてはぼくはちょっと別の見方をしているけれども、それはまた追って。)

ホリスティックなチャネルデザインの議論から始まり、組織論の問題に発展したUX戦略に関する議論は、数年を経て、また改めてデジタル時代のcross-channel experience designに回帰し、デジタルとフィジカルを生活者中心でやすやすと行き来すること自体が、製品やサービス、ひいては企業が生活者に提供すべき優れた”経験価値”の創出につながる、という論旨は、たった4年でますますデジタルとリアルの境目がなくなるくらいにデジタル環境が進化したことを実感させられた。

GoPro社で専用アプリなどのデザインリードを務めるHa Phanのスピーチでは、いかにしてGoProがユーザーの隠れたニーズを掘り起こし、理解することで、優れたユーザー体験を提供したか、の事例を紹介。

かつては、アクティブなスポーツシーンをユーザーの目線でリアルに「切り取る(Capture)」ことを主な価値として生まれたGoProであったが、ユーザーの利用体験や未充足を調査し、理解する中で、実はリアルなシーンの「切り取り」以上に、良い体験を「ストーリーとして表現する(Storytelling)」により大きなニーズがあることをインサイトとして掴んだが、当時の専用編集アプリはそのニーズを満たすものではなかった。

そこでHaの率いるデザインチームは、Insightから3つの主要な仮説を立てながら、その仮説を検証するために各仮説ごとに稼働できるプロトタイプを開発し、実際のユーザーに”Experiment(実験)”と彼女たちが呼ぶA/Bテストを実施。それぞれの仮説ごとにExperimentを実施しA/Bの整合性検証と発見を行いながら、リアルなユーザーニーズを盛り込みながら新しいアプリ体験を実現させた。その結果、GoProが本質的にユーザーに提供するコアなUX価値として明確化されたことは、

特別な技術や感性がなくても、誰でも5分にまとめられた”いい感じの映像”が仕上がる

というものであった。

これは、

Findings(発見)→Hypothesis(仮説)→Experiment(実験)

を経て、事実や根拠をもとにCore Principles(最も軸となる価値原則)を生み出すという、ボトムアップ型のデザインアプローチに他ならない。このGpProの事例は、まさにUXを製品〜事業レベルの戦略にまで整合させた好例であろう。

著名なインフォメーション・アーキテクト(IA)であるJim Kalbachによる、UXデザインの価値をマイケル・ポーターの競合優位の戦略論になぞらえて解釈したスピーチでは、求められるUXを通して自社の提供価値を再認識(Re-Imagine)することで、

自社の事業がどの市場にあるか?

を見つめ直すことが、競合優位性を獲得するために重要なことである、と主張。

この主張とメタファーは、ユーザーの定義や価値の枠組みを再構築(Re-Framing)することによって事業価値自体を再構築できる体験をこの数年経験しているぼく個人にとっても、非常に腑に落ちるものであった。

その他にも、カンサスシティ連邦準備銀行の全社横断でのUX改善事例など、初日だけでも相当の情報量と、幅広い視点からのUX戦略に関する考察、提言、手法論の提案がなされた。

初日を終えて感じたことは、初年度に皆が様子を伺いながらぎごちない議論を始めた「ビジネスとデザイン(UXデザイン)の融合」などという表層的な議論は参加者の中ではとっくに咀嚼・昇華されていて、デジタル時代の中でユーザーが自覚しているレベルのニーズの”その先”を見越して先取りし、デジタルとリアルを継ぎ目なしに価値提供するには何をなすべきか?を考えることがUX戦略そのものであり、ひいてはそれがもたらす価値は企業そのものの価値を決める、という包括的(ホリスティック)なレベルの議論にまで進化している、という点であった。

恐らく来年のカンファレンスでは、UX/CA/Product/Serviceという言葉的な議論区分は取っ払われて、企業とユーザー、そして社会との関わりにおける価値創出を考えること=UX戦略、というような記号的な使われ方がなされるのではないか?と、ぼんやりと想像した1日目であった。

また、余力あれば2日めの様子も共有したいと思います。

ではまた。

追記:初日のスピーカーは8名中4名が女性。そして国籍もバラバラ。すごくDiversityに富んでいることも多様な視点での主張、提言を生んでいる原動力何だと思う。

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Yuichi Inobori

I'm a Design Strategist and musician in Japan. enjoy Design,business, music, art and our lives!