UX戦略の国際会議「UX STRAT Europe」参加所感

Yuichi Inobori
7 min readJun 6, 2015

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今年の春〜初夏は自身の専門領域に関するカンファレンスが集中して各地で開催される慌ただしい期間。

その一環で、6月4日〜5日の2日間、アムステルダムで開催されたユーザーエクスペリエンス戦略(UX戦略)をテーマにした国際会議「UX STRAT Europe」に出席した。

本カンファレンスは2年前に米国アトランタで初めて開催された若いカンファレンスで、元々はLinkedInのコミュニティからボトムアップ型で実現したもの。

参加者もビジネス・デザイン双方の領域の専門家が集い「UX戦略」をテーマに話題提供や事例紹介、議論が行われる活発なカンファレンスで、初回のアトランタ、昨年第二回のボルダー開催に続き今年はまたアトランタで第三回目の開催が予定されているが、米国開催大会とは別のローカル・スピンアウト型のカンファレンスとして、今回初の欧州開催が実現した。

筆者自身も「UX戦略」については個人的に最も関心があるテーマなので第一回開催から欠かさず参加しているが、今回は欧州での開催ということで特に期待をもって参加した。

どういう期待かと言うと、個人的な印象でもあり、知り合いの専門家仲間からの意見として聞くにつけ、米国よりも欧州の方がサービスに関する考え方や顧客への価値提供についての姿勢など、日本にも近い部分があり、今後参考にしうる点も多いのではないか?という点を感じているからであった。

2日間のカンファレンスを通じて感じたのは、今回の欧州開催大会にはやはり参加してよかったということだ。

さまざまな議論が行われた中で個人的に注目したトピックは3つ。

一つ目は、多様性への適応と組織論としてのUX戦略。

欧州と一言で行っても、当然ながらその中には数々の国や文化が存在し、その中で企業は製品やサービスを思考し、顧客に提供している。

米国での開催大会もUX戦略が重要視され、浸透し、機能するためには行き着くところ「UX戦略のための組織論」になることが増えてきたが、今回の欧州大会も同様に多くのスピーカーがこの点については論じた。

しかし米国での話題提供や事例以上に、各ステークホルダー(社内の、であることが多い)にUXやデザイン思考の重要性を理解してもらったり、それらによる事業貢献への期待を確信してもらう。その上で主体的にチームの一員となってともにUX戦略推進に手を貸してもらうための具体的なアプローチや説得の仕方、などがより具体性をもって紹介・議論されていた。

いまや世界中のグローバル企業がそうなってきつつあるとはいえ、こと欧州においては市場も、自社の仲間も含めてより多様であり、そういった多様性を尊重することが大前提となっている証でもあろう。

この点については、欧州委員会(European Comission)で首席UXストラテジストを勤めるAnnie Stewartや、経営管理システム(ERP)のグローバルベンダーであるSAPでデザインと共創イノベーションの責任者をつとめるAndreas Hauserらが語っていた。

内部のステークホルダーを巻き込み、目標を一つにそろえていく活動において、顧客=UserとしてのUX戦略はもとより、社内のステークホルダー=Userととらえた参加設計が重要で、それはいうなればインターナルなUX戦略とも言えるのではないか?ということだった。

二つ目は、データ指向。

前述、一つ目のトピックで触れた社内ステークホルダーへのUX戦略の浸透にあたって、関与者をConvinceする目的で様々なデータを根拠に議論されているという点。

製品のインタフェースデザイン刷新によって得られたビジネスへのインパクトや、Webサイトの再設計による経済効率の向上、UXの見直し前後でのユーザー行動の変化を定量的に収集比較などなど、プレゼンテーションのみならず、会期中に3回行われた”Break Out Discussion”と呼ばれる少人数に分かれて行うディスカッションの場でも、「組織にUX戦略を浸透させるには?」「自社がデジタルトランスフォーメーションを実現するために必要なことは?」などの話題提供に対し、幾度と無く参加者からは「1にもデータ、2にもデータ、すべてデータで語ることだ」という意見が挙げられた。

多様性に適応していきつつも、ブレない指標として最大限データ化していこう、という努力を重ねる欧州の現状を垣間見た気がした。

そして三つ目は、UXにおいてユーザーに提供すべきと考える価値提供範囲の定義について。

私感でもあるのでだが、米国やましてや日本に比べ、欧州では”UX=User eXperience”という言葉と、”CX=Customer eXperience”という言葉を意図的に使い分けているように以前から感じていた。

論調として感じるのは、CXは企業のアイデンティティや広義の意味でのサービス全体をその範囲としてとらえたホリスティックな経験価値の提供指針で、UXはポジショニングとしてCXの範囲の中に位置し、製品や具体的な意味でのサービスを顧客中心発想で定義されるもの、という考え方である。

この考え方を少し荒っぽく解釈すると、CX戦略は一昔前でいうブランディングに該当し、UX戦略は製品・サービス戦略そのものに該当するという流れになってきているのではないか?というのが筆者の所感である。

加えて、UXは特にデジタルの領域における経験価値を広く網羅的に扱うものとして議論されており、今後ますます企業(製品・サービス)と顧客の接点はデジタル化していくことは明白であることを視野に入れ、前述したCX∋UXの図式は、徐々にUXの時間的概念が拡張していくという概念を英国に拠点をおくインタフェースデザインコンサルティング企業Nomensaの代表であるSimon Norris氏は提唱し、これをCustomer Lifetime Value(CLV)と提唱し、

「デジタルは全てのファンクショナルチームを横断する。」

として、UXはデジタル全体を扱うからこそ、全ての事業戦略的はUX戦略的(UX Strategically)に適応していくべきだ、とも主張した。

以上が2日間の参加を終えた所感である。

カンファレンス自体は過去2回の米国開催と同様かそれ以上に参加者同士の距離が近く、適宜持たれるブレイクタイムやディスカッションの場では積極的かつ気さくな議論と交流が促されていて、そしてなによりアムステルダムの美しい町の景色もあいまって非常に親密でリラックスした素晴らしい体験がデザインされていたことも、とても好感のもてるものであった。

初めてUX戦略をタイトルに冠したカンファレンスが開催された2年前には、「UX戦略」という言葉自体の定義もまだまだ今以上に曖昧で、ビジネスとデザインの領域の融合が重要である、というような原始的な議論が中心であったが、今となってはそれはもう当然という論調となった。

そして、UX戦略は企業における製品戦略と同等の意味をもち、顧客接点のデジタルシフトがますます加速する中で一層企業が一丸として取り組むべきものであるという重要性が高まっていくべきものである、と考えると、日本国内の市場においても早急に取り組むべき考え方であることをよりいっそう確信できた良いカンファレンスであった。

もう数時間したら日本に帰ります。

アムステルダム大好き!

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Yuichi Inobori

I'm a Design Strategist and musician in Japan. enjoy Design,business, music, art and our lives!