中小企業とUX戦略

このコラムはUX Tokyo Advent Calendar2014用に書いたもので、きわめて筆者の私感による雑文です。

以前、某メガバンクが運営していらっしゃる中小企業の経営者・経営幹部向けオウンドメディアから依頼を頂き、

”新規事業にUX思考を取り入れることによる価値”

というようなテーマでインタビューを受け、記事にしていただいたことがあった。
その際、インタビュアーの方や同席されていた銀行担当者の方と対話する中で改めて感じたことや再確認したことを、自身にとっての備忘録として、短いコラムに残しておきたいと思う。
理屈っぽいプロットになってしまったので、面白くなかったらごめんなさい。
あぁ神様。クリスマスも近いので、お許しください。

さて、昨今のスタートアップブームの中、この1〜2年はこれまで以上に”Lean Start up”をはじめとする、まさにムダのない発想とアクティビティを基点とした事業構想・事業開発の思考法や、そこから派生的に生まれた”Lean UX”では、UXデザイン自体をもリーンに行うというムーブメントが高まりつつあることを肌で感じることができた年だった。
スタートアップというと、これまで世の中に存在していなかった革新的なサービスやプロダクトや、これまでもあったものではあるけれどもこれまでとは違った新しい体験や仕組み・視点からのスキームの再構築など、”発見と創造”を重視するUXデザインやデザインリサーチを起点として事業や製品、サービスを創造していくアプローチと相性が良いことは十分に実感できるし、加えて、スタートアップ企業の多くが、まさにゼロからその事業を起こすためにできたまっさらな組織であることが大半であることを考えると、従前の既存事業や組織・ステークホルダーとの関係などの過去の制約に影響を受けることも少ない、ということもゼロベースでUX思考を取り入れるのに有利に働いていると考えられる。
事実、ユーザーを参加させた開発プロセスをR&Dのメインプロセスに組み込んだり、”UX◯◯”という名を冠したチームを社内に有するスタートアップ企業も少なくない。
ちょっと大げさに言うならば、まさにスタートアップにおけるUX花盛りである。

翻って、日本における”中小企業”はどうか?
実務の現場でも中小企業の方からマーケティングコミュニケーションや製品・サービスの開発、再設計に関するご相談を頂くことは少なくない。
現状継続中の事業や製品・サービスの改善ではなく、新しい領域でのチャレンジを志向される企業には迷わず本質的なユーザー理解を出発点としたユーザー中心発想、UXデザインのアプローチを推奨・提案するが、多くの企業が口を揃えて仰ることは、

「過去に前例がないから社内の他部門や上位決裁者を説得できない」

「このアプローチで新しい何かが発見できなかった時のために、保険で従来型の製品開発プロジェクトも並行させたい」

「大企業と違って失敗は許されないから、確証がもてないもの、予め効果は結果が予見できないものに投資はできない」

など、なかなかに慎重なものばかり。

確かにそう発言する中小企業の立場に立つと、潤沢な資金やリソースがある企業ばかりではない中、失敗するかもしれないリスクを懸念に感じることは理解できるが、これまでのやり方の延長に成功が見えないからこそ新たなチャレンジを志向しているにも関わらず、これまで見ようとしてこなかった可能性に目を向けることを避ける姿勢は”何もしないこと”を最良の選択としているような矛盾を感じる。
加速するグローバル化やITの進化などの影響も受けた他業種からの市場参入激化など、以前とは比べ物にならないくらい厳しい競合環境にさらされながら大企業以上に経営資源と選択肢に限りがある中小企業だからこそ、ユーザー理解を中心に据えたUX戦略を事業戦略とアラインする価値があるのではないだろうか?

アラン・クーパーが名著、The Inmates Are Running The Asylum.(A.Cooper:1998 邦題「コンピューターはむずかしすぎてつかえない!」訳:山形浩生)の中で、イノベーションを起こすための3つの条件要素として、

Business(Viability)ーTechnology(Feasibility)ーUser(Desirability)

の三辺からなるトライアングルを提唱した。

この3要素のうち、”Business(なにが現実的か?)”と”Technology(なにが実現できるか?)”の観点だけで市場競争の波に乗り出したら、必然的に低価格化と多機能・高機能化という武器で「競争」せざるを得ない。
その結果、世間の多くのひとに嫌われない代わりに、誰からも本当には愛されることのない製品やサービスが世の中にあふれかえった。いわゆるコモディティ化である。
高度成長期から失われた10年まで、多くの企業はその道を進んできたのではなかっただろうか?

だからこそ、発想の底面を”User(なにが望ましいか?)”に据え、

  • 重要なフォーカスユーザーを決める
  • ユーザーにとっての理想の価値体験を理解する
  • 一連の経験価値を理解し可視化する
  • 自社とユーザーとのゴールを両立することが可能なチャンスにフォーカスする
  • 自社のビジネス(製品・サービス)を決める

というアプローチをとることで、”本当に愛してくれるユーザーが確実に存在する”製品やサービス、事業が創り出せるのではないか。
そういった”本当に愛してくれるユーザー”は、全ての市場シェアにおいては大規模多数ではないかもしれないが、中小企業にとってそもそもそのような圧倒的シェアをとる事業・製品開発を行うことだけが最適な戦略ではないだろう。あわゆくばユーザーの潜在的な未充足欲求や、”少し先の将来、ニーズが顕在化するかも知れない”ニーズの発見や理解によって、新たなブルーオーシャンを創造する可能性をも生み出せるかもしれない。
巨大な企業体とは趣を異にする中小企業だからこそ、キラリと光る圧倒的なユニークネスで市場における存在価値を放つ戦略をとることもひとつの賢い選択であり、顧客と市場、ひいては社会に本当に重要な価値を提供する対価として世の中から長期的に存在価値を認めてもらえる、正しい生存戦略と言えるだろう。

すぐに実現できることは、他社にすぐにマネされてしまう。

しかし、深いユーザー理解と共感に基づいて、断片的な製品・サービスレベルでなく、一連の有機的な価値体験として描かれたビジネスは、すぐにマネすることはできない。
よしんばいずれマネされてしまう日がやってくるとしても、その間に次の打ち手を講じる時間は十分に確保できるだろう。

多角化やポートフォリオ戦略、規模の経済の恩恵に期待することが難しい時代だからこそ、中小企業はUX思考がもたらす価値に目を向け、自社の事業戦略とユーザーにとっての最適なUX価値を同列に考えることが、閉塞感あふれる状況を打開するひとつの可能性になるのではないか、と考える年の瀬。

皆さま、メリー・クリスマス。そして良いお年を。

ごきげんよう。

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