2018–2019 組織と技術と

Tomohiro Nakamura
10 min readJan 15, 2019

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こんにちは。Tomo (Twitter: HAIL)です。気づけば2019年ももう半月経ってしまいましたが、去年を振り返り今年の展望を述べてみようかと思います。組織と、技術について。

組織の健康状態に対する考え方

2018年、僕の意識の多くを占めたのは組織のマネジメントについて、その中でも健康状態についてでした。
事業の成長と組織・メンバーの健康状態は当然、基本的には正の相関関係にあります。事業が成長していれば、KPIを追っていて楽しい気分になるし、ボーナスだって前向きに考えられます。
でも、いつでもそうなるわけではありません。去年は、paymoのクローズがあったり、ICOマーケットの大きな下落があったりなどしました。仮想通貨関連で作っていたプロダクトの中には、開発を途中で止めざるを得ないものもありました。
そうしたとき、メンバーを会社に繋ぎ止めるものはなんでしょうか。僕は、社員と良く会話をすることと、情報をオープンにしていくことだと考えています。

ありがたいことに、去年何人かの社員から、「Tomoさんの1on1はクオリティが高い」「割と上司の選り好みはする方だがTomoさんは良い」と言ってもらいました。これは僕が、1on1にある程度目的意識を持って取り組めているからだろうなと思います。僕は社員が入社して最初の1on1で大体このようなことを言います。「ストレスが100になると死ぬとする。70ぐらいになると辞めたいなと思う。僕の仕事は、40になる前にその数値を下げることです」。

人によって、何がストレスを上げ、何がストレスを下げるのかは異なります。プロダクト志向が強い社員もいれば、技術志向が強い社員もいます。深掘って勉強したい社員もいれば、新しいことを勉強したい社員もいます。全員の希望と、事業のマイルストーンのバランスを取り続ける。このために、定常的な1on1(僕の場合、全エンジニア・PMと隔週30分としています)と、ちょっとした投資(おおよそ、100万円以下程度のもの)は欠かせないと思っています。社員のモチベーションには、それだけの価値があります。人を採り直すということには、そもそも大きなコストが掛かりますし、組織の一番の財産は人だからです。

技術的な話で例を挙げると、今開発中の多くのプロダクトで、マイクロサービス志向を採用しています。一つ一つのサービス(サーバ)の役割を小さくし、沢山の小さなサーバ同士が通信をしあって求められた最終的な結果をユーザの端末に返すアーキテクチャです。AnyPayの最初のプロダクトであるpaymo biz, paymoは巨大なRuby on Railsのサーバ一つで開発をしていたので、大きな変更です。マイクロサービス志向と、単一サーバでのモノリシックなサービス志向に、明確な優劣はありません。その中で僕がマイクロサービスへと踏み切ったのは、社員のモチベーション管理という意味が割と大きかったです。人によって、勉強したいものは異なります。それは細かいところで言うと、プログラミング言語であったりします。僕は「好きな技術を使って仕事をする」ということを一つの福利厚生にしようと、1on1を通じて考えました。その施策の一つがマイクロサービス志向です。「golangがやりたいのかー、じゃあこのサーバやってみよっか」「Kotlinがやりたいのかー、じゃあ(略)」という感じです。

次に、情報をオープンにしていくこと、と書きましたが、組織は意識しないといくつもの小さなグループに簡単に分かれます。よく起こるのが「ビジネスサイド(営業, 広報, マーケティングなど)」と「プロダクトサイド(PM, デザイナー, エンジニアなど)」というグループです。さらにこの中でサブグループが生まれることもよくあります。

全ての職種は、お互いをリスペクトしているべきだと思っています。そのために大事なのが情報を閉じないことです。誰が何をやっているのか、そしてどれがどのぐらい凄いことなのか、理解しようとし続ける。定期的なMTGによる共有も大事ですが、真実は日常に宿ります。Slackでの会話のうち何割がpublicなチャンネルで行われているか? Google Driveのファイル権限は必要以上に狭くなっていないか? など。

ここまでの話は、僕が組織をやっていく上では大事にしなければならないと思っているものですが、経営者が皆このような意識を持っているわけではありません。今年も、僕は自分なりの正義を大事にし、組織とメンバーを大事にしていきたいと思います。

次にいくつかの技術ドメインについての現時点での見解を述べます。文字数の都合上、浅く広い感じになってしまいますが、ご了承ください。

いくつかの技術ドメインについて

ブロックチェーン

ブロックチェーンは2018年、僕が個人的にも一番時間を使ったドメインでした。インターネットが情報を自由化したのと同様に、ブロックチェーンは経済(金融)を自由化しえます。少々前ですが、8月にこの記事を書きました。パブリックブロックチェーンは例えば、1) 金融資産の送受, 2) 計算の実行 を分散化、非中央集権化します。この2つを両方とも達成しているのが、EthereumやEOSなどに代表されるスマートコントラクト実行プラットフォームです。

2017年の仮想通貨バブルからの、2018年の暴落がありましたが、技術は少しずつ進化しています。BTCのLightning Networkは無事立ち上がりましたね。ちょうどEthereumのアップグレードのためのフォーク(Constantinople)もあります。引き続き、メインチェーンやサイドチェーン、オフチェーンなど全ての場所でScalabilityやPrivacyを解決するための仕組みができあがっていきます。それと並行して、ブロックチェーンを使うことに意味のあるユースケースが盛り上がっていくかどうかと、流動性の大きな増加があるかどうかが鍵になっていきます。価値が落ち続けると、開発者が死んでしまいますので、下支えは必須でしょう。

僕が関わっている、Security Tokenについては、先日ブログを書きましたが、2018年は始動の年でした。12月にはOpenFinanceで取引が可能になり、2019年初にはDX Exchangeにていくつかの米国株式がトークン化されたものがEU圏内をスタートとして、取引可能になることが発表されました
規制の程度は国により様々ですが、盛り上がりとしてはアジアを出てアメリカまで行くと段違いであることを、2018年2度NYに行って感じました。2019年はまだ、爆発的に伸びていく年ではないと思いますが、ここで着々と準備を進め、2020年以降の伸びに備えておくのは重要だと思います。

インタビューもしてもらいました。やや恥ずかしいですがこちら

ブロックチェーン周りのアプリケーションを作っている人たちは、まだまだ一つのプラットフォームに執着しなくて良いと思います。今は僕はEthereumをメインで使っていますが、2020年に乗り換えていないかと言われれば、正直分かりません。Ethereumだとしても、Vyperを書いているかもしれませんし、eWASM上でRustを書いているかもしれません。自分のプロダクトがローンチするときに安定して動いている、目的に沿っているプラットフォームと技術スタックを使いましょう。困ったら、NeutrinoHashHubなどに行けば、相談に乗ってくれる人がいると思います。

IoT

Internet of Things, 様々なものをインターネットに繋いで便利にしようぜ! のIoTは、一気にコモディティ化が進んでいるなと感じます。勿論、ハードの量産にはお金がかかりますが、そのハードをネットに繋いで、位置や温度などの情報を伝達することについては数日頑張ればできてしまいます。マイコンモジュール(例えばWio LTE)を買い、IoTデバイス用のSIMカード(例えばSORACOM Air)を買い、ちょいとプログラムを書いてGCPのCloud IoT CoreAWS IoTのMQTT topicに情報を送り、S3や Pub/Subなどを通じてその後のサーバ処理に回す。サーバはFirebaseでも良いかもしれない。

IoTデバイス(Edge Device)で収集される情報は価値が失われるまでの時間が早いこと、またすべてを生データで送信してからサーバで機械学習にかけることが非効率である場合が多いことからEdgeのTPUとデバイス上の計算ソリューションの進化も盛んですね。参考: GCP Cloud IoT Edge, Edge TPU, Azure IoT Edgeなどなど。5Gの普及はもう少し後だと思いますが、Edge Computingの活用は先に進んでいくでしょう。

続々コモディティ化されていますので、アプリケーションを作る側はこれらのデバイスやサービスのどれを使うかという選択をまずすればいいということになります。今年は一気に進みそうですね。

機械学習・深層学習・AI

IoTを通じて需要が伸びてくるこの分野ですが、それとなるべく切り離して単体の話をすると、必要とされている場の過半数において、ボトルネックになっているのはアルゴリズムの進化ではなく、データのガバナンスとBizDevの弱さだと感じています。どこで何のデータを取り、誰に渡せば何が効率化されるのか分からない。もしくは旧態依然とした決まりで、データを学習に回せない。これらがようやく動き始めているために、Legal Techが今伸びてきているのでしょう。特許文書などは公開文書なので学習の対象でしたが、契約書については今まで学習されることがなかった。それがようやく変わろうとしていることが新しいのであり、特段新しいアルゴリズムが生まれたわけではなさそうです。

テキスト・画像・音声・動画と、多くのデータ形式の学習のアルゴリズムはコモディティ化されてきていますが、個々のデータは貴重なままだし、そのデータの価値を把握して学習に結びつけるBizDevやデータサイエンティストも貴重なままです。ルールと人材の整備がカギかなと。

3つの技術ドメインを紹介しましたが、これらを全て組み合わせていくとかなり進化する業界ありますよね。医療とか、物流とか。IoT化してデータを取り匿名化されたデータを学習すると同時に、個々のデータはブロックチェーンに書き込んで皆が安心して「改ざんされないデータ」として扱ったり、情報の権利を自分の秘密鍵で管理するなどしてほしい。そのためには技術の発達と並行して、ガバナンス体制や法令なども発達していく必要がある。理想世界は片方では達成できないので、同じ目標に向けて、技術者も、非技術者も邁進してほしいと思います。自分も含めて、CTOのあり方は次の2つのうちどちらか(または両方)だと思っています。 1) 圧倒的天才的技術分野を持っている。神。 2) ビジネスの需要を理解し、利用する技術を選別する。全役職員に対して自分の選択について説明ができる。技術者と非技術者の関係を近くする。

最後に、去年はGoogle Cloud Next in Tokyoでも登壇をさせてもらいました。上のNYでの登壇もそうですが、自分と大事なメンバーの作っているものを、サービス自体も、培った知見も、どんどん大きくシェアしていきたいと思います。今年もどうぞよろしくお願いします!

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