中華イノベーションの背景考察

Nakahara Kunehito
7 min readSep 25, 2017

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中国のイノベーションすげーっという記事を書いてきたけれど、背景について、感じた事も書き留めておきたい。

1.相互不信感が作った評価経済

中国といえば、詐欺行為が蔓延し自分さえ良ければ良いといった行為が横行する印象も、未だ多くの方がもっているかもしれない。それこそが実はネット化によるイノベーションの根源のような気がした。

まず電子決済で言えば、ATMの物理的なセキュリティホールをついた詐欺によって、偽札がATMから出てしまうなど、物理通貨の信用が著しく低下していたらしいことが、電子決済を推し進めた直接的な要因とされている。

また、そもそも相互の繋がりが見えていなかった社会においては、騙して出し抜いても、どうせ分からないという状況だった。

これが、急激なネット化EC化に伴って、相互に評価しその評価に基づいてサービスや個人が選択される社会が到来した。今まで相互の信頼関係が全くなかったから、余計に評価によって判断するという新しい軸が急速に浸透していったようだ。

ネットによって初めて人とつながってること、周りに行動が評価されることが可視化されたのだ。

今や、wechatpayやalipayの情報は銀行口座と繋がり、銀行口座は国民背番号とつながっており、いつ誰がどこで何を買い、どのように評価されているかが一人ひとりと紐付いて、蓄積され、信用ポイントが個人個人に貯まるようになった。

きっと、ofoやmobikeを不正利用したりすると少しずつそういうポイントが削られたりするのだと思う。(確認してないけれど…)

なお、このクレジットスコアに応じて、保険料が変わったり、ホテルの優待が受けられたりするという。

ここまで深く結びついてるからあらゆる認証もこの決済サービスと紐付いて使えてしまう。

決済が単なる利便性を超えて、信用情報まで深く関わっている状況だ。もう、Suica/PasmoやApplepayが便利というのを遥かに超えている。

これは政府にも当然都合がよく、ともすればディストピアのようにも感じる。

しかしながら、市民生活においては、数年で街中のモラルが改善していることを実感できるくらい急速に変化していて、それ自体はとても良いこととして受け入れられている。社会的UXが上回っているのだ。

この領域は、もはや行くところまで行くだろう。

ちなみに、大変印象的だったエピソードとして、毎度宅配に来てくれるバイク便の宅配員を慮って、謝礼を渡そうとしたところ、お金は要らないので良い評価をつけて下さいとお願いされたという話だ。

もう評価がお金を上回っている。

2.サービスレベルが低かったから合理化された

サービスとは何か?と言う話では有るけれど、ニコニコ丁寧な接客なんか、そもそも日本以外でほとんど体験しない。

僕が滞在中もニコニコ接客する店員なんかほとんどいなかった。そんな中国において、接客のような目に見えない価値に、重きが置かれていなかったのではないか。

つまり、サービスクオリティが低かったからこそ、結果的に本質的な価値が何なのかというところにフォーカスされ、あらゆるサービスの再設計がITを通じて進んでるように感じた。

例えばレストランは、本質的にはご飯を食べるところ。スムーズに食事が出来ればそれで良い。

そこで、レストランに置ける顧客との接点であるホールスタッフの業務を分解する、「注文を受ける」「料理を運ぶ」「会計をする」となる。

このうち、「注文を受ける」+「会計をする」は顧客のスマホで出来てしまうとうことに気がつく。

客が注文する画面、このまま決済できる

残されたホールスタッフの「価値」は「運ぶ」ということころに限定されて行く。こういう合理的な所がすごい。

コンビニも、あれやこれやなんでも出来ることが大事ではなく、24時間生活必需品がちゃんと手に入るにフォーカスされた。

結果、人でないと出来ない複雑性が排除され、大きな自動販売機と化して、無人コンビニ誕生したのではないだろうか。

このようにして、テクノロジーによって合理化されたUXそれ自体が、新たな価値となり、社会の利便性を押し上げていく。

そんなサイクルが存在しているように感じた。

本質的な価値とはなんなのか?を考えさせられることが多かった。

3.技術力より創意工夫と割り切りで生み出す

シェアバイクも無人コンビニも技術的にそんなに複雑高度なものは使っていない。シェアバイクなんて、QRコードとGPSにひも付けられた車体管理だし、無人コンビニもオートロックとRFIDの活用だ。

大切なことは、ビジネスモデルであったり、そのサービスが生み出す価値である。

であれば、まずはシンプルな仕組みで世の中にサービスを生み出す。

面白いのは、一度シンプルに再構築したら、後戻りはせずに、シンプルなままにして、他の手段を切り捨てる割り切りが存在してることだ。(例えば、現金決済受け付けないとか、スマホからのメニュー注文しか受け付けないとか)

QRコードもRFIDももはや20年近く前から日本でもてはやされてきたのに、ビジネスモデルとして市民生活に普及するに至っていないのはとても残念だ。

技術的優位性が少ない分、パクられやすく、苛烈な競争にさらされた結果、資本力勝負みたいになっていくのもまた面白い。

これ自体も大事な仕組みだと思うので、次の項で書く。

4.やってみなはれ精神と資本主義を信じる政府

中国には、なんでもとりあえずやってみる、を許す社会と投資環境が有ると感じた。

え?これ上手くいくの?というものすらとりあえずやって、多産多死する。例えば、これ。

中国で「傘シェアリングサービス」が開始されるも3カ月で30万本が行方不明になる事態

失敗もありつつ、スタートアップによって圧倒的に社会の効率性と利便性が高まって、新しいマーケットが創出されている実感が官民ともにもたらされているから、新しいサービスやスタートアップが受け入れられやすいのだと思う。

非常に簡単だが、僕が感じた中国式のイノベーションのサイクルを書いてみた。

社会的には、実はパクられやすいビジネスモデルと言うのも大事で、パクられることで競争が激しくなり、ブラッシュアップされる。

サービスが平準化され、競合同士の優位性がほぼなくなると資本力勝負になる。

そうすると、スタートアップは、いよいよ巨大資本を受け入れて、仁義なき陣取り合戦を展開する(さすがキングダムの国)。その資本力を背景にサービスが一気に社会に普及していく。

で、だいたいこの辺まではグレーゾーンでも政府は放っておくらしい。

おおよそ、市民生活に浸透してきて、これは明らかに社会的に良いよねとなった段階で、勝ち馬とともに法整備を一気に進める。

合理化可能な課題があって、その解決に自由で苛烈な競争を利用し、勝ち目が見えたら巨大資本の投下と、行政改革で一気に社会インフラ化させる。

共産党が一番資本主義を信じてるよね。という言葉を現地で聞いたけど、このプロセスを見てると、しっくり来る表現だった。

現地の日本人起業家とこの話題になるたびに、銀河英雄伝説の話になったのは印象的だった。

投下される資本が多い事とともに、決められる政府の強さということも現地で評価されていた。

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