Nakano Kyohei
3 min readJun 20, 2016

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消しゴムの抑止力

中学の時に、消しゴムの使用を禁止している数学の先生がいました。理由としては、

  • 消しゴムで消さなくてもノートの余白は潤沢にある
  • 実際ノートを最後まで使い切る事はほぼ無い。
  • 間違えたり失敗したとしても、別に消す必要は無い。学習中は間違えるのが普通だし、間違えた記録が残っている方が情報量が多い。あとで見返すことも出来る。
  • だから消しゴムで消すメリットはほとんど無い

という感じの事だったと記憶しています。消しゴムを使うことをあまりにしつこく制止するので、当時は「変な先生だなあ」としか思わなかったけど、今となってはなんとなく、なぜ先生が消しゴムの使用を明示的に禁止していたのかわかる気がします。

僕の小学生の息子も宿題で間違った箇所を消しゴムで消すのですが、かなり面倒くさそうにしています。そもそも消しゴムってたいして消えないし、消しクズが出るし、紙もクシャクシャになるし、いいことが全然ないのです。「間違ってしまった」という気持ちでただでさえダウンなところに、面倒で汚い「消しゴム労働」でさらにペナルティを与えられてしまう。

その様子を見て、実はこの毎日反復される「失敗すると面倒な事になる」という体験の繰り返しが、答えを書き始める(もっと言うと何かを始めようとする)勇気を徐々に削いで、考えることを億劫にしていくんじゃないかと思ったんです。あの先生はたくさんの生徒を見る中で、消しゴムのこの挑戦抑止効果に気づいて積極的に排除しようとしたんじゃないかと。

大人になった僕にも思い当たることがあります。子供の頃読書感想文で文章を書き始めるのが本当に苦痛でしたが、今であれば

  • PC のエディタを開く
  • 書かなければいけない要素を箇条書きにする
  • それぞれについて内容を付け加える
  • 順番を入れ替えたり、必要ないところを削除したりして推敲する

という手順で、「とりあえずガーッと書き出す」「書き出した要素を俯瞰して整理する」というステップで段階的に文章を組み立てていく事ができるので大分気が楽です。一度書いたものを削除することによるペナルティも無いため、気負わずに思いついたことをとりあえず書くことが出来るわけです。このやり方が圧倒的に楽で結果として(僕にしては)良い文章が書けるので、印刷物に長めの文章を書く場合(例えば学校に提出する「夏休みの子供の様子」等)にも PC で必ず下書きしています。

これは文章を書くということが「軽い」という事のとてもポジティブな一面で確実にデジタルの恩恵だと思います。失敗のペナルティを排除することで、アウトプットの量を増やして、外部化された思考を俯瞰することでさらに書こうとしている対象への全体理解が深まるという。

横道ですが、「心理的安全性」のあるチームがなぜ強いかという話ともどことなく通じる話な気もします。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48137?page=4

もしすべての子どもたちが消しゴムを使わずに、タブレットやPCのテキストエディタで文章を書いて推敲するようになったら凄いことになるんじゃないだろうか。

文章の質も思考の深さも、僕たち鉛筆世代よりもはるかに高くなりそう。

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