ベトナムのいま(1)急速に進む高齢化と社会保障制度の未整備、先行き不安募る高齢者の暮らし

ベトナムの人口全体に占める60歳以上の人口は2049年には26.1%に達する――。国連人口基金(UNFPA)がこ うした見通しを示している。9,000万人を超える人口を抱えると共に、若年人口が多く豊富な労働力人口を有することから、製造業を中心に投資が活発化し てきたベトナム。しかし、ここにきて、将来的に「高齢化社会」が到来すると予測されている。この一方、ベトナムの高齢者の経済状況は決して豊かと言えない 上、社会保障制度にはまだまだ課題があるなど、高齢者の暮らしを支える公的システムは未整備の状況だ。

子どもをたくさん見かけるけれど

ベトナムに一歩足を踏み入れると、街角や商店、バスなど、あちこちで子どもたちの姿を見かける。共働きが当たり前のこの国では、お店やオフィスで働く妊娠 中の女性も多く見られる。大きなおなかをかかえて働くのは大変だろうけれど、多くの女性たちは出産ぎりぎりまで働き、産後も職場に戻ってくることが一般的 だからだ。

ほっそりとした華奢な体型の若いお母さんたちが小さな子どもをしっかりと抱きかかえて通り歩く姿や、バイクに子どもたちを乗せて走る家族の姿を見かけることも少なくない。

ベトナムを訪れると、子どもを目にすることの多さから若さに満ち溢れた活気ある国という印象を持つ人も多いだろう。筆者もベトナムと言えば「子どもがたくさんいる『若い国』」との、ある意味で認識不足かつ素朴すぎる印象を持ったこともあった。

2049年には高齢化率26.1%=UNFPA

しかし、ベトナムは将来的に高齢社会に至るとの見通しが出ている。長きにわたる戦争とそれによる経済の落ち込みを潜り抜けたベトナムだが、現在では、保健 医療の改善や生活水準の向上などから平均寿命が伸びるとともに、死亡率が減少してきた。これに合わせてベトナムでは、「2人っ子政策」という人口抑制政策 がとられ、政策的に人口増加に歯止めがかけられてきたこともなどもあり、合計特殊出生率も低下してきた。

一 方、こうした中で、高齢者人口はその数自体も人口全体に占める割合もそれぞれ増加している。UNFPAの11年の報告書「THE AGING POPULATION IN VIET NAM」では、ベトナムの60歳以上の人が人口全体に占める割合は1979年に6.96%だったものが、2009年には8.69%に上昇。さらにこの割合 は2019年に11.78%、29年に16.66%、39年に21.37%、49年には26.1%に達すると予測されている。

高齢者の「貧困」問題、政府支援は限定的

高齢化に際し、懸念されるのが高齢者の生活をどう守るのかということだ。ベトナム紙タインニエン電子版の報道(2015年5月29日付)によると、ベトナ ムの60歳以上の人口は2014年時点で、950万人超だが、このうちの半分近くが公的な年金受給ないし経済支援を何も受けていない状況だ。

また、ベトナム政府は現在、80歳以上の人を対象に、経済支援策として1カ月当たり8万~18万ドン(約450~1,013円、15年7月10日現在)を支給しているというが、いくら日本などに比べて物価が安いとされるベトナムでも、これでは暮らしが成り立たない。

さらに、ベトナムの高齢者の30%を超える人が引き続き働いている半面、大半が低収入で不安定な自営の仕事をしているという事実もある。高齢者は働き続けているものの、経済的に不利な状況に置かれているのだ。

一方で、ベトナムでは、公的な支援ではなく、「家族の助け合い」が実質的に社会保障的な機能を果たしていると、感じることが多い。高齢者を敬い、家族で高 齢者を支えることが一般的だからだ。しかし、高齢者の中で自分の子どもと暮らしている人は減り、一人暮らしの人が増える傾向にあるという。(UNFPA、 11年)

家族が社会のセーフティーネットとなっているとも言えるベトナムであっても、上記のように一人暮らし の高齢者は増えている。そうした高齢者はどうすればいいのか。家族がいても、家族との関係から家族を頼ることが難しい人もいるだろう。そして、家族が高齢 者の世話をになっているとしても、家族だけで介護をはじめとする高齢者のニーズに対応していくことがどこまでできるのだろうか。

他国より早い高齢化の進展

タインニエン電子版ではショッキングな数値も提示された。

「高齢社会」(65歳以上の人口が全人口の14%を超えた社会)になるのにかかった年数は、英国が45年、米国が69年、フランスが115年。しかし、ベ トナムはたったの15年しかかからないと予測されているのだ。ベトナムはまだ経済成長の途上にある状態であり、これから社会保障制度を整備していく段階に あるのに、高齢化が急ピッチで進展するとみられている。

これまで経済成長路線を歩んできたベトナム。この半 面、高齢化の進展が予想される上、高齢者を家族が支えるというありようも変化し、高齢者ケアをいつまでも家族頼みにしていられない状況だ。企業振興策をは じめとする経済政策だけではなく、高齢者をはじめとする脆弱性の高い人々が社会の中で生きやすくなるような社会保障政策を打ち出すことが、今ベトナムに求 められている。(了)

「世界ガイド」から転載

巣内尚子(すないなおこ)

フ リージャーナリスト、翻訳者。1981年生まれ。Global Press(在外ジャーナリスト協会)メンバー。東京学芸大学在学中に、ドキュメンタリー映画のアシスタントとして、取材、撮影補助などの仕事に従事。 卒業後は日本の業界紙勤務を経て、フランスに滞在。その後、インドネシア、フィリピン、ベトナムにて記者やフリーランスライターとしての仕事に従事し、東 南アジアの経済や社会の動きを取材・執筆。これまでに「WEBRONZA 」「JBpress」「週刊金曜日」「連合」などに寄稿。

海外ニュースを扱う「世界ガイド」にて、「ベトナムのいま」「ベトナムのストリートチルドレンに職業訓練を=Know One Teach Oneを掲げる若者支援団体」を連載中。「世界ガイド」」内の巣内尚子執筆記事はこちらです。

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