オランダで急成長を遂げるティール組織、Buurtzorgの驚きの組織運営

嘉村賢州
Aug 16, 2017 · 9 min read

ティール組織の理論がすばらしいのはわかる。けど、実際に運用して、うまくいっているところはあるの?」

組織開発のご相談をいただくと、こうした質問をよくいただきます。

答えはYESです。

もともとティールという概念は、提唱者のフレデリック・ラルーが、新しい世界観で運営されている組織をいくつか分析していく中で、紡がれました。理想論を構築したというより、実際の事例から抽出した理論といえます。

いくつかティールの成功事例はあるのですが、わたしが特に注目しているのは、オランダの非営利在宅ケア組織、Buutzorg(ビュートゾルフ)です。

正直、ビュートゾルフの存在を知った時、あまりの驚きに唖然としたのと同時に、新しい時代の幕開けにワクワクした気分になりました。

ビュートゾルフは医療福祉分野でも世界的に注目されており、日本からも研究者が入っています。そのうちの一人、100人規模のときから現地で成長を見つづけてこられた堀田聡子さんや、ビュートゾルフ柏吉江悟さんと意見交換させていただく機会に恵まれ、具体的な組織運営についてお話を伺いました。

今回は、お二人から学んだこと、ティール組織ビュートゾルフの何がすごいのか、10年で4人から10,000人に急成長したエッセンスを探っていきます。

(堀田さんはビュートゾルフなどの知見も活かしながら、医療分野で活躍されているスペシャリストです。知的かつ人格的にも素晴らしい人なので、ぜひ講演会などに足を運んでみてください。吉江さんは知的で穏やかな方で、千葉県柏で、地域のおじいちゃん、おばあちゃんと素晴らしいコミュニティを構築されておられます)

1 Buurtzorg(ビュートゾルフ)とは

2 最小限の決まりごとで、約10,000のメンバーが活躍している

3 メンバーの創造性が十二分に引き出されている

4 メンバー・利用者の満足度が非常に高い

1 Buurtzorg(ビュートゾルフ)とは

http://www.buurtzorgnederland.com/

オランダの地域看護師であるJos de Blok(ヨス・デ・ブロック)氏が2006年に創業した非営利の在宅ケア組織です。2016年現在、九州ほどの広さのオランダ国内で約850チーム、約10,000人の看護師・介護士らが活躍しています。

1990年代ごろから、オランダでは社会保障費が財政を逼迫し、在宅ケアの効率化・分業化が進みました。その結果、ケア行為は画一的かつ断片的になり、業界もより安いコストで質の低いケアを提供するように。利用者は毎回、ちがう看護師にいちいち自分の症状を伝えねばならず、看護師も目の前の「やらなければならないこと」に追われ、やりがいを見出せずに、離職する人が後を絶ちませんでした。

看護師がケアの全プロセスに責任をもち、その専門性を存分に発揮する場を作れば、コストは抑えたまま質の高いケアを提供できるのではないか。そういう思いから、Buurtzorg(ビュートゾルフ)は産まれました。

2 最小限の決まりごとで、約10,000のメンバーが活躍している

そんなビュートゾルフの凄さは、10,000人ものメンバーを抱えているのに、マネージャーやチームリーダーが一人もいないことです。バックオフィスに約40人、コーチが約15人いますが、彼らは、あくまで現場のサポート役であって、管理役ではありません。

ビュートゾルフで決められた最低限の決まりごととは次のような点です。

・チーム最大12人のメンバーが約40~60人の利用者をサポートする

・各チームは独立しており、利用者へのケア、看護・介護職の採用・教育、財務等すべてに、裁量と責任が与えられている

・定例ミーティング(週1など、頻度はまちまち)で役割と責任の確認・リフレクションをする

・40〜45チームに1人のコーチを配置する

・バックオフィスは現場のサポート(介護料請求、労働契約、給与支払い等)に徹する

これだけの決まりごとで、組織の力を発揮するためには、組織としてのセルフマネジメントだけでなく、ICTの存在が欠かせません

ビュートゾルフではBuurtzorgwebという専用アプリを独自開発して、業務日誌、利用者の様子やケアの内容など、メンバー間の情報共有を支援しています。さらに、日誌に記載された作業内容と時間を元に、各メンバーの生産性が自動算出され、Buurtzorgwebに公表されます。ケアプランの改定やその変更点の発表、シフト作成などにも利用されています。

3 メンバーの創造性が十二分に引き出されている

「自分の暮らしをできる限り長く自分でコントロールしたい」

「生活の質を改善しつづけたい」

「自分の住む街で社会参加したい」

「あたたかい人間関係がほしい」

こうした利用者のニーズにたいして、自分ならどのようなケアができるのか、メンバーが自由に話せる雰囲気がビュートゾルフには確保されています。その結果、バリエーションに富んだケアがたくさん生まれています。

二つほど事例を紹介します。

Radio Steunkous Amsterdam

直訳すると「サポートストッキング・アムステルダム・ラジオ」。アムステルダムで毎週火曜日午後2〜3時放送。放送内容は、利用者とメンバーとの対話だけでなく、健康に役立つ情報の発信や、より良いケアを実現する代替手法についても話し合われます。利用者のライフストーリーについて深掘りされることもしばしば。ラジオを通して、利用者とメンバーはより近い関係性を築いているように感じます。

Rollatorrace

アムステルダムで行われた歩行器を使ったレース。自分たちでもできるスポーツがやりたい、という年配の利用者からの相談がきっかけでスタートしました。大会にはビュートゾルフのメンバーと利用者だけでなく、保健業者や行政関係者も加わります。

その他にも、近所の人を誘って一緒にコーヒーを飲む、利用者と一緒に遺書を書く、など、通常のケアでは考えられないことも、状況にあわせて行われています。ビュートゾルフでは、ケア行為の60%が利用者との時間に向けられています。

取り組みの背景には、利用者の自立を支援する、Buurtzorg Onion Model(玉ねぎモデル)という考え方があります。

この考え方を元に、メンバーひとりひとりが、進化する目的(Evolutionary Purpose)を仕事の中に見出し、実行に移します。チームにはほぼ全ての権限が移譲されており、情報共有も活発なので、利用者にとって最善のケアを探ることができます。

http://www.sknurses.co.uk/wp-content/uploads/2017/05/2016-Buurtzorg-Briefing-1.pdf

4 メンバー・利用者の満足度が非常に高い

慢性疾患・機能障害を抱えている利用者、一人で複数疾患を持つ高齢の利用者、終末期の利用者、認知症の利用者、退院したものの完全回復に至っていない利用者など、ビュートゾルフのメンバーが接する利用者は様々。利用者の希望も望ましいケアも、時事刻々と変化するので、高い専門性と判断が求められます。

こうした環境に対応できるよう、先述のBuurtzorgwebなどを通じて、継続的に学習できる環境が整っています(各チームには独自の教育予算もあります)。その結果、チーム内メンバーの70%以上が看護師、50%以上が学士を取得しています。

難しいが、利用者のためになるケアができる、という魅力的な環境に惹かれて、多くの看護師たちが、ビュートゾルフに加わっています。自分が望ましいと思えるケアができなかった伝統的な組織を離れて、ビュートゾルフに参加しようと思った理由は例えば下記のようなものです。

・小規模チーム

・自律的に働ける

・独立性

・強いチームスピリット

・使いやすいICT

こうして、ビュートゾルフは最優秀雇用者賞を2011年、2012年、2014年、2015年に受賞しました。従業員満足度も8.7。創設から約10年で、メンバーの数も10,000人近くにまで増えています。

全業種を超えてオランダでNO.1になっているということは、医療福祉分野としては驚異の数字と言えると思います。

また、メンバーだけでなく、利用者満足度が非常に高いのもビュートゾルフの特徴です。

2009年のある研究機関の調査では、他の307の在宅ケア組織と比較して、利用者がビュートゾルフに高い評価を与えていることが明らかにされました。最も高い利用者満足度は9.1。様々な患者団体や高齢者団体からも高い支持を得ています。

以上、簡単にご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。10,000名規模でもティールが実践できるイメージは湧きましたでしょうか。

ビュートゾルフ以外にも、代表的なティール組織として、真鍮鋳物製造のFAVI、電力発電および送電事業のAES、トマト栽培・輸送・加工のMorning Starなどがありますが、これらのご紹介は今回は割愛させていただきます。

ティール組織や新しい組織開発にご興味を持たれた方、相談されたい方は、下記連絡先までご連絡ください。

お問い合わせ先:info@homes-vi.com

(文章:嘉村賢州、編集・校正:佃芳史春)

参考資料(一部抜粋):

Buurtzorg(サイトフェイスブックツイッターリンクトイン

2016 Buurtzorg Study

Exploring the Buurtzorg Model of Care

Dutch district nurses rediscover ‘complete care’ role

嘉村賢州

Written by

場づくりの専門集団NPO法人場とつながりラボhome’s vi代表理事、東京工業大学リーダーシップ教育院特任准教授、『ティール組織(英治出版)』解説者、一般社団法人アクティブ・ブック・ダイアローグ協会理事、コクリ!プロジェクトディレクター(研究、実証実験)

嘉村賢州

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場づくりの専門集団NPO法人場とつながりラボhome’s vi代表理事、東京工業大学リーダーシップ教育院特任准教授、『ティール組織(英治出版)』解説者、一般社団法人アクティブ・ブック・ダイアローグ協会理事、コクリ!プロジェクトディレクター(研究、実証実験)

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