イスラエルの起業立国には、兵役が原動力となっていることを前編の最後に触れた。後編では、日本とイスラエルを1.兵役、大学生の環境について、2.日系企業とイスラエル企業の関係性について整理し、最後に3.イスラエルから学んだことについてまとめてみたいと思う。
1.日本とイスラエルの兵役、大学生の環境について
下記のチャートに日本とイスラエルの大学生の違いをまとめてみた。
※チャートが間違っていたため、修正しました(2016/5/30 9:09)
兵役がある上に、海外を放浪するため大学院生にもなると平均年齢は30歳前後であると言われている。彼らは兵役中に、自分や他人の命を預かる実務を普通に経験をしている。国家の存亡を賭けて、最前線で活動したイスラエルの若者と、日本の一般的な大学生と比べると危機感は大きく異るだろう。日本の大学生は在学期間を就職のモラトリアムであると表現する風潮もあるが、イスラエルの人からすると、「ホワーイ、ジャパニーズピーポー」と言った表情をされる。
イスラエルは建国されてまだ、68年の若い国だ。ユダヤ人は迫害されてきた歴史を持つだけでは無く、隣国との関係性は現在も常に緊張に晒されている。なんとしても国を守りたい、平和に暮らしたいという意識は世界のどの国よりも強い。自分たちが国家として生き残るためには、「起業立国」を成功させて海外ハイテク企業からの買収対象となり、経済を成立させることが800万人の国家の中では必要不可欠であることを等身大で認識している。
ここで、興味深いスライドを紹介しよう。
これは、軍でミサイルの誘導を技術を研究したエンジニアが、兵役後に大学で博士号を所得し、ヘルステック企業を起業した事例だ。兵役時代に開発していた誘導技術を小型化し、内視鏡カメラを開発し、イスラエルの証券取引所とNASDAQに2001年にIPOを果たした(2014年に買収され、現在はMedtronic社の傘下)。軍事的な研究が民間に転用され大成功した事例だ。
このような、優秀な研究者/技術を買収を起点として、ハイテク企業はR&Dセンターをイスラエルに開設している。
結果的に現在は、イスラエルの北部から南部まで、ハイテク企業のR&Dセンターが立ち並んでいる。どのR&Dセンターも大学と距離が近く、大学院生がインターン生として週に50時間程働くケースが多く、就職活動を代替し、人材の供給源となっている。ハイテク企業は技術買収に加え、優秀なイスラエルの大学生を採用するという目的がこうした買収の背景に潜んでいる。
では、ハイテク企業は技術買収をした後、特許等を本国へ吸収して会社を精算するようなことはしないのだろうか。
ここは、徹底して制度で予防線が引かれている。技術流出、空洞化は彼らにとって死活問題である。イスラエル国内から仕事が減らない制度が整えられている。それは、イスラエルから技術移転をして、国外へ持ち出す場合には「違約金」が発生する制度だ。
その結果、イスラエルにはR&Dセンターが立ち並び、その数は増え続けている。就労ビザもユダヤ人以外に対しては要件が厳しいため、R&DセンターのTOPは買収後もユダヤ人によってそのままマネジメントされることがほとんどのようだ。
2.日系企業とイスラエル企業の関係性について
日系企業も商社やメーカーはイスラエルに駐在員を置いているようだ。三井物産、伊藤忠の方の存在は滞在中にも確認ができた。
日系企業とイスラエルの新興企業の共同研究には、OCS(チーフサイエンティストオフィス) が深く関わっている。OCSは政府系機関である。イスラエル発のスタートアップに対して補助金を出し、海外企業との提携や契約等の支援を行っている。日本のNEC、Panasonic、Ricohなど5社もOCSのプログラムに参加している。
また、ファンド出資を通して、最先端技術の情報取得、事業提携を進める会社も多い。Googleに11億ドルで買収されたWazeに出資していた老舗VCのvertexからはSMBC、Nomura、Panasonic、FujiFilm、Hitachi、Fujitsuなどのロゴが並んでいる。
2016年の1月にはSonyがセミコンのAltairを2億ドルで買収しており、日系企業も今後も買収を増やしていくかもしれない。
スマートモビリティの領域でも日系企業との関係性が深い。2014年にはMobileye(モービルアイ)がNYSEにIPOを果たしており、2016年5月末現在で9,000億円程度の時価総額をつけている。Mobileyeが提供する運転支援システムはBMW、Volvo、GMなどに2007年頃から搭載され、現在ではTeslaにも搭載されている。日本では日産、ホンダ、三菱が提携関係にある。
(楽天による9億ドルでのVibar買収も記憶に新しいところだが、現地でいろいろな噂話しを聞いたので、ニーズがあれば詳しく聞きたい方にはお酒の席でお伝えしたいと思う。)
3.イスラエルから学ぶべきこと
イスラエルから何を学ぶべきか。
イスラエルは政府/軍、民間企業、VC、教育、文化など様々な要因が絡み合い「起業立国」を成功させた。政策や制度は今でも成功と失敗を繰り返しながら改善が続けられている。
そんなイスラエルから、一つだけ学ぶとすれば、制度や兵役などより、それは「失敗を褒める文化」なのではないだろうか。
「それは学習環境を充実させるだけではありません。生徒たちは幼いころから失敗を恐れず、ためらわずに質問するよう徹底して教育されます。わからなかったら手を挙げて質問すればいいし、出した答えが間違っていてもいいのです」
「失敗の経験をさせないのは、むしろ悪。すべては、まずやってみることからはじまるのです」
高度経済成長、人口ボーナスと他国の戦争による需要急増による産業急成長の時代は定年を迎えた父親たちの世代で終わった。日本人が得意な品質を高めることで世界を席巻した自動車や家電等の産業は今では他国に価格で完全に追いぬかれた。最新技術はイスラエルに抜かれてしまったのかもしれない。
イスラエルで購入される車は、日本が1位だったのが、最近韓国車が1位になった。イスラエルに集まっている投資の約30%は中国資本で、米国に続いて2位になっている。色々なグラフを見る限り、日本はもはや消息不明だ。
「失敗を褒める」ことは、日本の文化とは離れていることは認めざるを得無い。逆に、「出る杭を打つ」文化は、日本という島国らしい文化なのかもしれない。
ただ、現在のインターネットはこの文化を変える大きな波があると信じている。Twitter、Facebook、Youtube、Instagram、Snapchatは目立ってなんぼの世界だ。「出る杭を褒める」文化は10代-20代からは確実に芽生えてきている。
自分は、派手に社内起業に失敗した。失敗から多くのことを学び、その失敗を安易に二度と繰り返すまいとVCとして起業を支援する立場を志して現在に至っている。投資担当としては、全ての投資案件でホームランを狙っている訳だが、現実的には失敗確立も高い。例え失敗しても、失敗から学び、投資先の起業家と供に次の一歩を再び踏み出せるような懐の広い投資家になりたいと思う。
イスラエルについてはまだまだ語りたいことが他にもある。今後、機会があれば(機会を作って)、イスラエルでも投資をしてみたいと考えている。ここには書けなかった話、詳細を聞きたい方からのご連絡や本稿に関するご意見等、幅広くお待ちしております。
「出る杭になりたい」起業家の方からのご相談もお待ちしてます。