【海外Podcastまとめ】BenchmarkのBill GurleyとChetan Puttaguntaが語る「コロナ禍とスタートアップ」

Nina Ehara
15 min readMay 27, 2020

--

先日、次のファンドには参画しないことを表明し話題となったBenchmarkのパートナーBill Gurley氏と、同VCで同じくパートナーを務めるChetan Puttagunta氏が3月に出演した、“INVEST LIKE THE BEST”というポッドキャストチャンネルを聞いていてかなり勉強になったので、基本的には全体を網羅する形で、気になった点をメモしています。3月というとちょうどロックダウンに入った時期で、その時点で彼らがなにを語っていたのか、かなり示唆に富む内容でした。

オリジナルはこちら👉0513 Bill Gurley and Chetan Puttagunta — An Update on Consumer & Enterprise Venture Capital — [Invest Like the Best, EP.162]

1:44 VCエコシステムの全体観、投資先にどんなアドバイスをしているか
6:47–2009年の経験
10:45 — 不況が与える影響 toB vs toC
14:46 — アーリーステージ企業へのアドバイス
18:23 — ‘08年不況時のChetanの経験と学び
20:27 — アーリーステージ vs. レイターステージ
23:00 — 小さな会社であることのメリット
25:22 — Benchmarkの投資先の現状
29:33 — リモート勤務
31:39 — この時期に起業するべきテーマ、今の時期のアドバイス
34:51 — Closing thoughts

ゲストはBenchmarkのパートナー、Bill Gurley氏とChetan Puttagunta氏。コロナ時代に際してのアーリーステージでの投資について再考する。危機的状況における、エンタープライズ・C向けサービスのありかた、出資とグロース、起業家精神について等、幅広くディスカッションをカバーする。

1:44 VCエコシステムの全体観、投資先にどんなアドバイスをしているか

Chetan

・従業員や会社全体を守るためには、素早く必要な策を講じなければならない。一度変化に適応させられたら、起業家のエネルギーや起業家精神はちゃんと戻るので、そのエネルギーと不安な気持ちを合わせて事業に再集中する。

・一歩引いて、会社の状態を振り返る。このような状況において会社の状況を振り返ることは実用的。

・不況を乗り越えた会社は、不況後に大きな強みを持つ。なぜなら、不況を乗り越えるには、市場のダイナミクスを理解し利用できる必要があり、結果的にthriveすることになる。

Bill

・2001年も、2008–2009年も、不況の底にいると皆「OMGこんなことは一度も起こったことがない最悪な出来事だ!」と思うが、実際は定期的にやってくる。全く同じ出来事はなくても、似たようなことは繰り返す。

・トップラインが明確に影響を受けているならより難しい決断を迫られることもある。

・ちょうどファイナンス中にこの危機的状況に突入した会社にとっては今の状況はより難しいものになりうる。とくにレイターステージにおいては、投資家はPublic marketでも取引をしているので、そこでの株価が悪化するとレイターステージのスタートアップにも価格をつけるのが難しくなる。

・Chetanも言うように、どんな状況でもベストを出せるような逆風を味方にするスタートアップは、’01年や08'-09'年の困難な時期に生まれている。実は、事業を起こすタイミングとして今は悪い時期ではない。今創業して事業を地道に成長させ徐々に売上を上げ・・としていると、気づいたら景気回復(上昇)の波に乗っている、ということがある。

・また不況下では、レイオフ等が避けれないため、人材獲得競争は少し緩和される。

・Benchmarkは引き続き投資を続けるし、アーリーステージにほとんど限定する。起業家の中には、VCが投資をストップするのではないかと懸念する人もいるが、こういった環境下でつくられた会社は、社会からのテストを受けるため、乗り越えると実際かなりうまくいく会社が多いと歴史が示している。

6:47 — 2009年の経験

Bill

・シリコンバレーは、長い時間をかけてゆっくりとリスクを引き受ける。(スタートアップはリスキーな投資。ゆっくりとお金が集まるようになり、valが上がる原因にもなる)そして経済のサイクルにより不況になると、みながリスクをとる起案は終わり、投資は激減する 。

・不況になるまでの時期(不況が近づいているが、調達は容易な時期)には、銀行やコンサルなどにいた人たちが起業するケースが増える。なぜなら起業が簡単に見えるからである。

・不況へと近づくにつれ(=起業家がどんどん増えると)、調達を受ける起業家の平均的なレベルは落ちる。そして不況が来た時に残るのは、もともと起業していた人たちだけ。後から出てくる人たちは、「早くお金を手にしたい」といったモチベーションであるのに対し、もともと起業していれば、その事業をやることが生活の一部として染み付いているケースが多い。

・不況下では、ディールは減るが質は上がる。

Chetan

-関心のある非上場企業での相互性と大企業の反応を比較して、アーリーステージ企業が有利になりうることは?

  • コストカットや、売上アップに貢献する等ダイレクトにBの問題を解決できるプロダクトなら、より顧客にエンゲージできることは強みになる:今の特殊な状況でアーリーステージの企業にアドバンテージとなることの一つとして、顧客によりエンゲージできる、またプロダクトのバリューについてより意味のある対話ができるようになるという点が挙げられる。その理由として、大企業などは一般的にクオータ制などのプレッシャー下に置かれており、すぐにセールストークに持っていきがちである。そういった企業と横並びで戦う時、より顧客にエンゲージできることは大きな強みになる。特にそのプロダクトがコストカットや売上げアップなど、不況下においてより意義が高まる問題を解決するものであれば、なおさらである。
  • 実際、2008–2009年は、顧客との対話が十分にできたことが良かった
  • Billが言ったように、2008-2009年にソフトウェアを作っていた会社たちは、リーマンショックを超えて大企業へと成長した。(この時期に大企業を顧客にできた)

10:45 —不況が与える影響 toB vs toC

Chetan

  • ’08-’09年に経験したエンタープライズ側への影響は、キャッシュサイクル(特に売上などの回収にかかる期間)が従来と完全に変わったこと。支払いまで長くかかったり、延期されたりといったことは皆予期していたが、特に流動資産への影響が大きかった。市場からキャッシュがなくなっていった。
  • そんな中でも、顧客の状況を加味しこういった状況を一時的には受け入れて付き合い続けた企業とは、長年関係を続けられる真のパートナーになるケースもある。
  • このような状況の変化にたいし、心の準備をしておく必要がある。心の準備ができていれば、変化のある状況にも対応でき、また景気が回復すれば、この時期の行いは報われる。
  • また、使い古された言葉ではあるが、「不況を無駄にせず、チャンスにすること」。今こそ起業家がクリエイティブに顧客とコミュニケーションできるタイミングでもある。

Bill

  • 友人から「Money never sleeps.」というフレーズを聞いたことがある。ウォール街は社会の変化にいち早く気づく。Zoomの株価が急上昇し、航空各社は下落したように。彼らは誰よりも早くここの分別をしている。
  • 市場は全体として影響を受けているものの、特にtoCへの影響は、toBにくらべより辛辣である。toCサービスは、特にトップラインへの影響がすぐに出る。レイオフなどの苦しい決断をより早く迫られるかもしれない。今後30〜45日(※これが録音されたのは3/12)でtoCサービスにどんな影響がでるか注意を払っておく必要がある。

14:46 — アーリーステージ企業へのアドバイス

Bill

  • 結局の所、Cash is Kingである。会社を守り、事業を守ること、そしてそのためにはいくつかの厳しい決断も迫られる。プライオリティを理解し、会社を守るためにできることを3〜4つ考えている必要がある。
  • レイオフに際してのアドバイスとしては、「従業員の5–10%をカット」などの漠然としたルールに則らないこと。このようなぼんやりした数字では、結果的に意味のある効果をなさない。(なのに心理的な負担だけかかえることになってしまう)
  • もしレイオフしなければいけない状況になったら、何ヶ月分かのキャッシュを確保できるレベルでおこなうこと。
  • また、より一般的なアドバイスとしては、今の状況が2ヶ月続いたらどうなるか?という楽観的なモデリングではなく、6ヶ月、それ以上つづく場合に備えてシナリオを作るべきである。
  • 実際にその状況に面してからでは、重要な決断を高速で下す必要が出る。そうならないためにも、常に熟考を経て落ち着いて決断できるようにするべきである。
  • いくつかのシナリオを考え、それぞれのためのプランを作ること。そうすることで、そのシナリオが現実となったときに、十分な情報を持っているのでより良い位置取りをできるかもしれない。

Chetan

  • 自社の事業を伸ばすドライバーは何なのか理解しておくことは特に重要。一般的に考えられるものの他に、一歩進んだ仮説をたてることも必要。
  • 一度時間を取って、今の事業はどんなビジネスなのか、これまで事業のドライバーだったものがこの先数ヶ月でどんなふうに変わりうるかを考えるべき。

18:23 — ‘08年不況時のChetanの経験と学び

  • 皆、「そのうち元に戻るだろう」と思っていたが、実際は皆が想像しているよりも影響は長期に渡る。リスクマネーが引くのは早いが、もとに戻るのは地道でゆっくり。どれくらいで元に戻るかは予測不可能。
  • それぞれに今後のシナリオやモデリングを考えていたが、それらは実際に起ったことと比較すると、全く十分ではなかった。
  • また、当時は状況がDouble Bottom(二重底)になるという噂があり、2009年の春頃には状況は緩和していたにもかかわらず、夏頃にもう一波来るのではという恐怖から、リスクマネーはなかなかもどってこなかった。

20:27 — アーリーステージ vs. レイターステージ

Bill

  • レイターステージの起業家は、同時に公開市場にも投資してるケースが多い。そのため、公開市場でCompsが30–40%下がっていれば、非上場企業への投資においてもこの状況がが頭をかすめ、判断に影響が出るのは免れない。
  • これまでの10年ほどは、上場を先延ばしにする傾向があったが、ここにも変化があるかもしれない。というのも、非上場企業の調達スキームは基本的に会社が成長している前提でしか作られていない。そのためダウンラウンドにはネガティブなイメージがつきまとうし、複雑化する。
  • 一方IPOすると資金調達の窓が開かれるために、この複雑性が開放される。実は、未上場企業に比べ、上場企業のほうが不況下をサバイブしやすいのである。実際、いかなる偉大な企業も、企業価値が30–40%下がる経験をしている。より詳しくは、On the Road to Recap参照。

23:00 —小さな会社であることのメリット

Chetan

  • 言ってしまえば、売上が10億の会社と100万の会社を比べたときの、「10%の売上ダウン」がもたらす影響は、後者のほうが小さくてすむ。また チャーンレートや支払いの延期などのあらゆる影響を数字に落とし込むのも後者のほうが対応しやすいだろう。この状況に素早く対処し、顧客との関係維持/構築に使うべきだ。
  • サービスを登録してくれて入るが、深くお互いを理解することなく、顧客管理の観点からもロストしまっており、とはいえ顧客なので社内のリソースは一定程度割いている(が、自社プロダクトが望むようなあり方で活用されていない)というクライアントも居るだろう。今は、こういった企業を一時諦めるタイミングかもしれない。あなたのプロダクトが相手にとってコアな部分になっているような企業に集中すれば、数日でリテンションが大きく改善する可能性もある。
  • 顧客基盤には変化がないのに、売上が$9Mから$30Mにアップする、というような事例が見受けられることがあるが、それがよく起こるのは不況時である。顧客にエンゲージし、彼らの事業やワークフローにおいてコアになることが重要。

Bill

  • 過去4–5年においては、いかに早くMVPを出すか、というプレッシャーがあった。しかし今日のような状況で、例えばメンバーが2–5人のようなチームなら、一度深呼吸して、プロダクトに集中するべきだ。プロダクトやそのPMFを理解し、「少しでも早くプロダクトを出す」プレッシャーから一度距離をおいて良い。長期的に見ればこれが功を奏する。

25:22 — Benchmarkの投資先の現状

Chetan

  • ことカリフォルニアでは、皆今はリモートで働き、新しい環境に適応し、やるべきことをこなすことに集中している。
  • ただ、リモート勤務で重要なのは、どのソフトウエアを使うかではなく、会社にどんなカルチャーが根付いているかである。特にリモートに移行してすぐは、非同時なコミュニケーションが重要になる。日々の細かなことでもテキストに落とし込むことで、チーム内の透明性も向上し、日々のコミュニケーションも円滑になる。

Bill

  • 資金は十分か、現実的にサバイブできるレベルでの事業計画を引いているか、ここで一度止まって考えることは長期的にみて価値になる。
  • 例えば2001年にOpentableの競合で2社ほどVCから調達を受けた会社がいたが、彼らは不況の中立ち止まって戦略を練り直さなかったために事業が続かなかった。OpentableとBenchmarkで注意深く練り直したことが結果的には大きな報酬となった。
  • Appleのスティーブ・ジョブスは、制限はクリエイティビティを生むといったが、これはビジネスに於いても同じ。

29:33 —リモート勤務

Chetan

  • 会社の捉え方、会社自体がどうまとまるのかが変わる。チームについて言えば、よりシステマティックになる必要がある。一週間の計画を立ててチームに早めに共有しておくことも大事。どのように一つ一つのタスクを終わらせるか、意識的に考えシェアする必要がある。なれるのに数週間はかかるかもしれないが、慣れればそれが自然になる。

31:39 —この時期に起業するべきテーマ、今の時期のアドバイス

Chetan

  • 資本効率が異常によく、リソースが少なくても始められる/運用できるもの。インストールするのが簡単ですぐにサービスを開始でき、すぐにユーザーの生産性向上に貢献するようなもの。

Bill

  • 何度も言っているが、今の状況が永遠に続くわけではない。冷静さを失わないことが重要。

34:51 — Closing thoughts

Chetan

  • 起業家精神や起業家のエネルギーはtimlessなものであり、マクロ環境に影響されるものではないと思っている。スタートアップのエコシステムが今後どのようにインテグレートされていくかはこの先数週間であらかた方向性が見えてくるはず。
  • 今の状況は永遠には続かない、一方あらゆることに時間がかかるのもまた事実。つながりを絶やさないこと、適切な対応を取りながらも進み続けること。ポジティブさ、希望をもったエネルギーがあることこそが、起業家が持つエネルギーをspecialなものにしている。

Bill

  • Buffetは、”Be fearful when others are greedy, and be greedy and others are fearful.”(みんなが恐怖におののいているときに買い、陶酔状態の時に恐怖を覚えて売ればいい。)と言った。今の状況は明らかに皆があそれおののいている。起業家たちに、「今greedyになることはどういう意味を持つか」を聞いてみるとおもしろいだろう。
  • もしこの質問の答えを見つけることができれば、周りがパニックになっているときにも合理的なやりかたでgreedyになることができる。

ANRI Newsletterではこういった記事やメルマガ限定記事を2週間おきに配信中です!登録はこちらから!

また、ANRIでは即決投資プログラム「ソクダン」を実施中です。詳細はこちら。応募も受け付けています!

--

--

Nina Ehara

’97 / Currently uni student at Hitotsubashi, majoring in philosophy / formerly at UNC-CH / Associate at anri.vc / loves consumer-facing products!