ふつうの人
いつも気をつける必要がある
こないだ仕事の帰り、もうだいぶ遅くなった時間帯の最後の乗り換え駅で、電車の間隔が中途半端だったのか、ホームではえらい行列が発生していて、でもその駅では必ずしも例外的な状況でもなかった(=よくある)ので、しゅくしゅくと長蛇の最後の方に並んでいたら、
自分が並んでる隣の列の、少し前のほうで、50過ぎぐらいと思われる白髪の男性が、まだ20代と思われる若者の前に無言で割り込みしていて、その若者に「後ろに並べよ」と注意されていた。
注意された男性は逆ギレして、「そんなに座りたいかよ! だったら前に行けばいいだろ!」と謎の論理を展開しつつ、若者の前に入ることはすんなり諦め、今度はその若者のすぐ後ろに割り込もうとしていたが、若者が「そういう問題じゃない。行列の最後尾に行けよ」と、男性のズルを許さずに追求したら、男性は「わかんない! なに言ってるかわかんない!」とさらに激昂し、少なくとも最後尾に向かう気はまったく無いようだった。
そのまま、「いいから後ろへ行けよ(と若者)」「そんなことはどうでもいい! お前が自分の前にスペースを空けていたのが悪い! なんでもっと詰めないんだ!? なんでか言ってみろよ?(と割り込み男性)」というまったく噛み合わない小競り合いが続くなか、やがて電車が入ってきたので、割り込みの男性はその場をそそくさと離れ、その向こうの別の列にあっという間に(今度は)うまく割り込み、車内へと吸い込まれていった。
若者はしばらくの間、強い不快感を抑えきれない様子だったが、端から見れば、自分の前にも後にも男性を割り込ませなかった彼は、あえて勝ち負けで言うなら、勝ったのだと言えるだろう。
彼の後ろに並んでいた人たちもまた、彼に感謝すべきであったと思う。
しかし端的に言って、その割り込みを行った男性は精神的な病を患っている。行列とは後ろに並ぶものであって、それがわからないのは病気である。病気ということは通常の反応を期待できない、ということでもあるから、若者はその男性に対して至って常識的な対応をしていたけれど、それはある面で危険だったとも言える。
そして何よりも思うのは、その割り込みの男性はおそらく自分のことを「ふつう」だと思っているだろう、ということで、まさか自分が精神的な病に罹り、そのせいで他人に迷惑をかけてしまって申し訳ない、なんてことは微塵も思ってもいないだろうということだ。
そしてまた、世の中にはそういう「ふつう」の人がきっと沢山、さまざまな状況においているのだろう、ということを思う。
ぼくもまた、ある状況においては意図せず、「異常者としてのふつう」を行使しているのかもしれない、と思う。
だから駄目だとか、その点を改善しましょうとか、仕方ないから諦めましょう、とかいうことではなく、まずはそういった異常な日常が現実の前提にある、ということを思っておかないと、ある時そういうことに巻き込まれて、そのまま望ましくない結果に導かれていってしまいそうな気がしたという話。
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