「モノづくり」とか「メイカーズ」とか。

Osamu Ogasahara
5 min readOct 5, 2015

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さて、メイカーズ進化論・序章の公開1回目、本日分です。

「メイカーズ」「モノづくり」って、わかっている人ほど使うのが気恥ずかしいと感じているのではないかなと思います。
それはきっと定義されてないからなんじゃないかなと、僕なりの定義を押し付けてみます。

「モノづくり」とは何か?

「モノづくり(物作り)」という言葉は、いつの頃からか時代に応じていろいろなニュアンスを持つようになりました。
古くは熟練した技術者や特に職人が、その優れた技術で高度な製造を行うことを意味していました。ここには英語の「Industrial Engineering」を訳した「生産技術」や「製造技術」とは異なる意味合いが付与されています。 この「モノづくり」という言葉は、戦後、日本の製造業が圧倒的な強さを見せた時代の面影と重ね合わせられて、いつしか、より精神的、歴史的な側面を強調するような言葉として用いられるようになりました。
そして今、日本のモノづくりは危機的な状況にあると喧伝されています。モノづくり大 国ニッポンの落日、モノづくりの敗戦、モノづくりの凋落……表現こそ違いますが、同じ現象を指しているのでしょう。パナソニック、ソニー、シャープ、東芝など大手の電機 メーカーを中心として、かつて栄光を極めた日本のモノづくりが転機を迎えています。
一方で、トヨタ、日産、ホンダといったモノづくり企業が世界で健闘しているのはなぜでしょう。素朴に疑問を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。 モノづくりを巡る技術革新や状況の変化は、日々、いや一時間単位で起きていると言っても過言ではありません。大手製造業が赤字になったというニュースがある一方で、モノづくり復活の道筋が語られるなど、どの情報をどう見ればいいのかが、非常にわかりにくくなっているのではないでしょうか。 本書では、「メイカーズ(Makers)」をキーワードに、モノづくりの生態系が大きく変化しつつあることを描き出したいと考えています。

「メイカーズ」の定義

「メイカーズ」という言葉は、つい数年前から使われるようになりました。日本語としては、今のところ正確な定義は存在しません。本書を通じて、このメイカーズという言葉に特別な意味を込めたいと考えています。それは、メイカーズこそ、モノづくりが進化する
過程の中で生まれた、新たな主役だということです。
そもそも、日本で「メイカーズ」という言葉が使われるようになったきっかけを作ったのは、米国の『ワイアード(WIRED)』誌の元編集長のクリス・アンダーソンです。『ロングテール ──「売れない商品」を宝の山に変える新戦略』(早川書房)や『フリー ── 〈無料〉からお金を生みだす新戦略』(NHK出版)といったベストセラーの著者でもある彼が、2012年10月に『MAKERS ── 世紀の産業革命が始まる』(NHK出版) を出版すると、日本でも新聞やビジネス誌で「3Dプリンター」の最新技術が紹介される など、大きく取り上げられるようになりました。
また、クリス・アンダーソンはこうしたデジタルファイルや3Dプリンターなどを使 う、製造における大きなトレンドを「メイカーズ・ムーブメント」と名づけました。
米国では2005年にオライリーメディア(O’Reilly Media:後に Maker Media として分社 化)が創刊した『Make』という雑誌があり、3Dプリンターなど新しい技術を使ったD IYカルチャーを「メイカー・カルチャー」と呼びます。そもそも、米国には大きな家に住み、そこでDIY(Do It Yourself:日曜大工)をすることが根強い文化として存在して いましたので、日本とは少し状況が異なります(今となっては米国ベイエリア の居住環境は劇的に悪化して大きな家など手が出せる価格帯にありませんが…)。
最初に、僕なりのメイカーズの定義をしたいと思います。まず前提は新しいチャレンジ をするスタートアップ(僕はイノベーションを伴って超短期的に急成長を目指す新規の立ち上げ企業と言う意味で使いますが、一般的には起業のことだとお考えください)であり、モノづくり のスタイルが従来型のモノづくり企業とは違います。そのモノを作るスタイルの違いにつ いては第二章で詳しく説明しますが、製品にするスピードが速いことが特徴です。また、 メイカーズに必要な要件は、ITとインターネット をディスプレイありきのパソコンやスマートフォンに閉じ込めることなく、ディスプレイ の外側にある、あらゆるモノに持ち出すことです。新しい人間とモノとの関係性を再発明するのがメイカーズであるべきだろうと思います(ここまで到達しているメイカーズはまだまだ少ないです)。
ですので、僕がメイカーズに対してよく使うスローガンは「ブレイク・ザ・ディスプレ イ」です。その意味するところは、インターネットをディスプレイの外に引きずりだせ、です。

メイカーズ進化論・序章を一部Medium公開用に改変

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Osamu Ogasahara

㈱nomad 代表取締役 / ㈱ABBALab 代表取締役 / ㈱Cerevo 取締役 / awabarオーナー / DMM.make エヴァンジェリスト / さくらインターネット㈱ フェロー