製造業の「アクセラレーター」?

Osamu Ogasahara
8 min readOct 9, 2015

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昨日はDMM.make AKIBAの立ち上がりを触りだけですがお伝えしました。そうなんです、なんでDMMが.make?ってのは一言で言えば「売るため」なんです。
さて、メイカーズ進化論・序章の公開5回目、本日分です。

IoT関連のプロトタイピングへの投資をやっているABBALabとアクセラレーターについて少し。ホント「日本は…」って言いたくないんですが、国内外での温度差・熱量に寂しくなることもありますが、いろんな種も生まれてきてるんですよ。

製造業のアクセラレーターとは?

このDMM.make AKIBA で今していることを紹介しましょう。もともとの「DMM.make」統括プロデューサーという立場もありましたが、もっと実際的な役割があります。 『ものづくり白書』に仕事について簡潔に書いていただいていたので、引用してみます。

「総額約五億円の工作機械や性能検査に必要な最新の機材を備え、一〇〇台程度の少 量生産まで行うことが可能な施設を秋葉原のど真ん中に作ったことも驚きではある が、シードアクセラレーションプログラムを提供する(株) ABBALab とモノづくりベ ンチャーの先駆者である(株) Cerevo がメンターとしてベンチャーたちの育成に携わっ ていることが他の施設とは一線を画する大きな特徴である。
特に、(株) ABBALab が同施設に入居したことは特筆すべきことである。IT分野 への投資家やアクセラレーターが主流を占めるなかで、製造業分野のアクセラレーターはまだまだ稀有な存在である。同社が提供する「ABBALab Farm Program Scholarship」は、トライアウトに合格し、その後の定期的な成果報告で、都度支援継 続か否かが問われる厳しいプログラムである。資金提供金額に応じて、株式の一部や 商品の販売権、商品に関わるライセンスなどに関するリターンが設定される。支援資 金は五〇〜一〇〇〇万円と量産試作まで行うには十分な金額である。その後のクラウドファンディングやVC出資などにつなげていく橋渡しの役割を同社が担っている」 (経済産業省『二〇一五年度版ものづくり白書』一五四頁より)

ここに登場する ABBALab が、僕が代表取締役を務める会社です。「Yahoo! Japan」や「ガ ンホー・オンライン・エンターテイメント」、「MOVIDA」を立ち上げてこられ、現在は Mistletoe 株式会社の代表としてスタートアップのエコシステムを作り上げることに取り組んでおら れる孫泰蔵さんといっしょに立ち上げた、ハードウェア・スタートアップがプロトタイ ピング(試作)に取り組むタイミングで投資を行う会社です(主に機能試作と量産試作の一部をプロトタイピングと呼んでいます)。ちなみに「ABBA」というのは「Atom to Bit」、「Bit to Atom」に由来します。「Atom」は物質、「Bit」はコンピューターのデータの単位です。 つまり、物質から情報へ、情報から物質へと相互に行き来するモノを作るスタートアップ を支援したいという思いを込めています。 さらにはAtom to Atomと感じられるほどに意識せず存在するモノが理想です。『ものづくり白書』には説明がない専門用語が少し出てくるので解説しますと、「シードアクセラレーター(Seed Accelerator)」というのはスタートアップを支援するインキュベーター(起業家の卵を支援する人)を意味しています。まかれた種(シード)の成長を加 速させる者(アクセラレーター)という意味です。
また「セレボ(Cerevo)」という会社が出てきますが、この会社を創業した岩佐琢磨さんは僕にメイカーズの面白さを教えてくれた盟友でもあります。DMM.make AKIBA に そろえられた機材のほとんどを選んだのも彼です。ここでセレボが果たす「メンター」と いうのは指導者や助言者という意味で、ハードウェア・スタートアップの先行者として、 経験知やマニュアル化されていない暗黙知を共有してくれる存在です。このメンターが果たす役割については、第一章の最後のほうで触れます。

「IoT=モノのインターネット」は誤訳である

さらに『ものづくり白書』の次の部分には、本書を書きたいと思ったきっかけでもある問題意識とほぼ同じことを書いていただいているので、さらに引用します。

「モノづくりベンチャーにとって、同社(著者注:ABBALab)の存在はたいへん貴重である。特に、シード期のモノづくりベンチャーに投資をするVCは現在の日本では皆 無に近い。IT系のシード・アーリーステージのベンチャーに資金は流れるが、製造 業のシード・アーリーステージには流れ込まない。この流れを変えるのが(株) ABBALab であり、多くのモノづくりベンチャーが世界にはばたくことをサポートすることで、 このステージに流れこむエンジェル投資家やVCが現れるきっかけになるだろう。ま た、同社は現在、シード期のモノづくりベンチャーを投資対象とするファンドを組成 しようと計画しているところであるが、この動きに興味を示し、協力をしようとしているのは、残念なことに欧米や台湾の企業であり日本企業からの色よい返事はないそうだ。欧米や台湾企業が、今までの「大量生産・大量消費」の時代から、「適量生産・ 適量消費」に舵を切り、モノづくりベンチャーに対しても投資対象として、またビジネスパートナーとして、大きく評価をし始めているなかで、日本企業は世界の大きな 動きから取り残されつつある。今チャレンジをすれば、まだまだ主導権を握れるチャンスはあるはずであり、我が国製造業の底力を見せるには、今が正念場である」(同掲書、一五四頁より)

米国・欧州や中国では、モノづくり分野のアクセラレーターがたくさん登場しており、 そのプログラムにはモノづくりを志す応募者が殺到しています。その中でも、大きく成長するハードウェア・スタートアップが次々と生まれ始めています。 日本での状況としてはまさに『ものづくり白書』に書かれているとおりですが、この一年あまりで我々の投資活動に協力いただける日本企業の方々も増えてきております。徐々に変化の兆しがあるものの、まだとても充分な環境とはいえません。
少し誤解のないように補足すると、「国」という単位の話がしたいわけではありません。 日本という文化・教育・環境・人材を活かした新たなモノづくりの種を一つでも多く芽吹 かせたいと思って行動しています。 なぜ製造業において圧倒的な優位を保っていた日本が、現在のモノづくりを取り巻く状況についていけていないのか、また自分たちの優位性に気づいていないのか、そのことが僕にはもどかしくてたまりません。一つの理由は、あまりにも旧来型の「モノづくり」ということにこだわりすぎているからだろうと考えています。
たとえば、先ほど何気なく「IoT(Internet of Things)」という言葉を使いました。こ れはモノづくり分野において提唱される、新聞やビジネス誌をにぎわすコンセプト(バズワードと言う人もいますね)になり つつあります。僕自身はこのIoTこそが、モノづくりを進化させる最大の武器であり、 その使い方によっては次世代のモノづくりビジネスにおける覇権を握るためのキーファクターになり得ると考えています。極論すると、メイカーズが目指すのは、ITとインター ネットをパソコンやスマートフォンに閉じ込めることなく、ディスプレイの外側のあらゆるモノゴトをつなぎ合わせるモノ、言い換えれば「IoT」の実現です。
しかし、非常に残念なことに「IoT」は「モノのインターネット」と誤訳されています。IoTという言葉において重要なのは、モノにインターネットが入ることではありま せん。「Things」を辞書で引いてみると気づくと思いますが、物質的な「モノ」だけでは なく、無形の「コト」も含む言葉です。「IoT」を「モノのインターネット」と訳すのは本当にミスリードだと思います。
大事なのはIoTが「人」を主語としたインターネットではなく、「モノとコトのインターネット」であるということです。特に「モノ」が「モノゴト化」していく(サービス化するともいえます)という大きな変化にこそ、モノづくりの生態系を揺るがすほどの大進 化が潜んでいるのです。この「モノゴト化」という考え方も、本書を読み進める中で明らかになるでしょう。

明日は、

って、序章はここまで。
立ち読みっぽく読んで貰えればいいなとMediumで書いてみましたが、書きやすいですね、Medium。
最初、ミディアムなのかメデュウムなのか人から聞いた発音だと2種類あってどっちが正しいのかわからなくなってました。

本書の公開はここまでなんですが、明日からflierで要約が無料公開されます。是非読んでみてください。

メイカーズ進化論の予約は今日まで、こちらでどうぞ。
って、そりゃ、明日発売日だからねぇw

メイカーズ進化論・序章を一部Medium公開用に改変

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Osamu Ogasahara

㈱nomad 代表取締役 / ㈱ABBALab 代表取締役 / ㈱Cerevo 取締役 / awabarオーナー / DMM.make エヴァンジェリスト / さくらインターネット㈱ フェロー