1.1.5「限界費用ゼロ社会」と「協働型コモンズ」

オホーツク島
5 min readJan 31, 2017

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本項では、クリエイティブ・クラスやその中核となる人々の価値観と深く関わる社会予測として「限界費用ゼロ社会」、そして「協働型コモンズ」について述べる。

資本主義と生産技術の発達の先にあるものについて、ジェレミー・リフキン(2014)は、資本主義の原理に基づいて生産性を極限まで最適化すると、モノを生産するためにかかるコスト(限界費用)が限りなくゼロ(無料)に近づくはずであり、そうした社会が実現すると資本の動きが発生しなくなるため、資本主義が成立しなくなってしまうという矛盾を指摘した。それにともなって資本主義は縮小し、資本主義市場でも政府でもない、シェアの意識に基いて共同する自主管理活動の場「協働型コモンズ」が台頭しつつあるとしている。そして現代において、豊かさの指標は稀少性=交換価値から「シェア可能価値」に移り変わりつつあり、社会関係資本が経済資本よりもはるかに重要な役割を果たすようになるだろう、と述べている。またリフキンは、おおよそ1965年〜1980年ごろの生まれを指すジェネレーションX(注:日本の「団塊ジュニア」世代(1971〜1974年ごろの生まれ)にかなり近いと考えられる)が若者世代であった90年代には「お金が多いほうが幸せ」という価値観が世の中の多数を占めていたのに対し、その後の1980年代以降に生まれた世代であるミレニアル世代は、大金を稼ぐよりも有意義なキャリアを築く方を優先する価値観に移行し始めていることを指摘している。これは2008年の大景気後退(日本では「リーマンショック」と呼ばれる)以降に顕著になっているとし、現代の若者は他者への心配りが増して、財や物質への興味が薄れてきていると述べている。これを我々日本の若者が置かれている状況に即して言い換えると、得るお金は少ないが、ほぼ無料で楽しめることも多くあり、それらを通じてお金を得ることよりも、人とのつながりを得ることのほうが重視される世の中に移り変わりつつあるとも言えるだろう。

また一方で、2017年1月現在、インターネットやそこで営まれる多種多様なウェブサービス、パーソナルコンピュータやモバイルデバイスの性能向上、産業技術やデジタルファブリケーションの進歩、そしてオープンソースの考え方、フリーミアムの考え方の広まりなど、個人が扱うことのできる道具はどんどん発達し、これまで資本力のある企業や多くのリソースを管理する行政でなくては扱うことのできなかったものが、一般人でも使用することが可能になってきている。これを「民主化」と呼ぶ動きもある。(注:デジタルファブリケーションに関する研究者である田中浩也(2014)が総務省「『ファブ社会』の展望に関する検討会」にて「生産手段の民主化」という言葉を用いている)

デジタルファブリケーションの第一人者であるニール・ガーシェンフェルド(2005)は、それまでの自身の取り組みや、1998年から自身がMITで開講した「(ほぼ)なんでもつくる方法(How to make (almost) anything)」という講義の参加者の制作物などを紹介しながら、かつては巨大施設にあった大型汎用コンピュータが、個人が所有できるものになり一般に普及したように、ものをつくる装置も個人が一般に使用できるものになり、またその使いみちやつくり方も含め共有されるようになることで、誰もが自分の望むものをつくることができるようになると述べている。リフキンも3Dプリンティングをはじめとするパーソナルな生産技術の進歩が、マハトマ・ガンディーが提唱した「大衆による生産」を実現させるものであると述べている。個人レベルの生産技術の発達・普及、そしてそれらが共有される仕組み、その仕組みをドライブするコミュニティ等の諸々が、協働型コモンズを更に活性化させているのである。

こうしたインターネットを筆頭にした技術の進歩、それに伴う仕組みの進歩などにより、現代の日本に暮らす、特にそうした新しい技術や仕組みに深く馴染みのある我々若者世代にとっての豊かさの指標は、お金を得て安定した暮らしを築くといったことから、周囲の人々とともに共有可能な価値を築いていくということに変化しつつある。このような進歩し続けるテクノロジーを使いこなし、創造的に生活していくのが前述のクリエイティブ・クラスであると考えられ、協働型コモンズはクリエイティブ・クラスがその形成の大きな部分を担っているのではないかと考えられる。

クリエイティブ・クラスに関する考え方とともに、こうした「限界費用ゼロ社会」と「協働型コモンズ」の考え方もまた、前述の「第三の柱」形成のための若者世代の意識として注目すべきものであると考えられる。この点に関しては第二章で詳しく述べていく。

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