4.3 インタビュー調査、観察結果のまとめ

オホーツク島
7 min readFeb 3, 2017

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これらのインタビューによる調査、そして筆者が観察により得られた反響などから、本研究の活動を通して得られたことをまとめる。

筆者らが制作したインターネット地域メディア「オホーツク島」を通して、これまで共有されにくかった地域に関係する人々の思いや活動が、どこに住んでいる誰でも閲覧可能なメディアに乗って共有されるようになったことで、共感を生み、オンラインで相互に影響を与え合い、どこにいても地元に貢献できる、単に地域の延長ではない場が形成されつつあると考えられる。また同時に、オンラインのコミュニティに参加している(と筆者が考えている)人を介して、オフラインの(オンラインのコミュニティには参加していないと筆者が考えている)人々に意識変革や行動を促す影響を与えることができはじめていると考えられる。

そうしたことの積み重ねにより、その地域に関係する人々の間でメディアの信用と存在感が増し、様々な形で参加者、コンテンツ提供者が増えていくことにより、さらに発信力が増し、コミュニティの活動が増していく。そうした活動や、信用から生まれる良い噂が広がっていくことによって、さらに信用と存在感が増していく。それがゆくゆく「第三の柱」としての影響力に繋がって行くものと考えられる。

中でも、「どこにいても地元に貢献できる感覚」というのは、これまでの地域コミュニティの延長としてのインターネット上の場では実現が難しかったものであり、こういった形で実現できたことは非常に大きな価値を持つものであると考える。従来のインターネット上の「場」とは、第二章で述べた通り、地域コミュニティの延長としての場でしかなかった。そのため、インターネット上の場は地域に住んでいることを前提として活用されており、その地域以外に住んでいる人に対する情報発信はあくまで副次的なものであった。そうするとこのコミュニティは、その地域以外に住んでいる人を巻き込んでいくことはなかなか難しく、また巻き込んでいくことも目的としていなかったと考えられる。しかしこの「オホーツク島」は、住んでいるかいないかに関わらずコミュニティを形成し、そこから地域への還元を目指しているので、文字通りその地域に住んでいなくても、もちろん住んでいても参加・コミットすることが可能になる。

筆者が友人を中心に行ったアンケート(図19–21)においては、自分の地元に貢献する活動をしたい、と答えた人が150人中88人(58.7%)に及ぶにも関わらず、実際にはそうした活動をまったくできていない、と答えた人が7割以上に上った。その理由における「なにをしたらいいかわからないから(36.3%)」や「近くに住んでおらず、できることがないと感じているから(25.8%)」に対しては、このメディアを介してロールモデルを提示することにより、「近くに住んでいなくてもできることがある」ということを伝えていくことができると筆者は考えている。こうした発信、および活動を続けていくことにより、地域に対して行動を起こしたい人々にとってのロールモデルの提示となり、新たな取り組みが生まれていくきっかけとなっていくのではないだろうか。

図19 地元に貢献する活動への意識
図20 地元に貢献する活動の実態
図21 地元に貢献する活動を行っていない理由 (いずれも筆者が友人を中心に行ったアンケートをもとに筆者が作成)

また第二章で提示した「デジタルレジデント」については、今回の活動においてはあまり巻き込むことができていない。はじめにで述べた世帯年収の低さ、3.2に述べたような教育水準の低さなどの理由で、もともとこの地域に直接的に関わる人々に、デジタルレジデントに当てはまる人は非常に少ないであろうと予測していた。しかしそれでも、この考え方、集団の捉え方は非常に重要であると捉えている。その理由は大きく2つある。

1つ目は、たとえデジタルレジデントとされる人がこの地域に関係する範囲にほとんどいなかったとしても、少なくとも筆者自身はこの集団に属していると考えており、筆者がインターネットを活用して事前調査の対象を探したり、実際にこれまで存在すら知らなかったような人と多数巡り合うことができたり、そうした人と一緒にウェブサイトを制作したり、多数の閲覧者と関わることができたりなど、個人に開放されたインターネットを活用し尽くすことにより、デジタルレジデントと言えないまでも何らかの形でインターネットと接続している人を巻き込むことができ、筆者自身がこれまで取り立てて説明されることがなかった集団、デジタルレジデントとしての活動のあり方を示すことができたからである。

2つめは、今回の北海道オホーツク海側地域に関する活動には直接は関係しなかったとしても、そうしたインターネットを介した地域に関する活動に興味がある方々など、全く別のコミュニティにいるデジタルレジデント同士で関係を持ち、深めていくことができたからである。例えば筆者はこの活動を通して、Maltine Recordsのトマド氏をはじめ、地域社会とインターネットに関する活動をウェブマーケティング会社で進めている知人など、オンラインとオフラインの間に境界意識を持たずに活動を進めている人々と新たに関係を持つことができたり、その関係を深めることができたりしている。つまりやや広い視点で捉えると、この活動を通じてデジタルレジデントの人々とも交流を持つことができているとも考えられる。またこうした、地域社会の延長としてのインターネット上の場ではなく、「オンラインとオフラインを同じ地平で考える」という視点はデジタルレジデントの説明なしには語りえなかったことでもある。こうした理由により、「デジタルレジデント」という捉え方の提示を行ったことは本研究には必要なことであったと考えられる。

また今後の課題としては、反響を受けて改善していく部分、発信活動を強化していかなくてはならない部分など多々あるが、注視すべき点として大きく2つが挙げられる。1つめは、まだまだ意見共有の場としての完成度が低く、感想を寄せてもらったり意見を交換するためのメディアの工夫が必要になると考えられる。もう1つは、3.2のビジョンでも目指していた「行動を励起する」という点に関して、例えば鈴木さんがデザインの仕事の相談を受けたりなど新たな動きも起こっているが、そうした具体的な活動につながる動きはまだ非常に少ない。そのためにはウェブメディアとしての影響力を強めてオフラインに影響を与えていくことはもちろんのこと、例えばミートアップイベントを行うなど、メディア「オホーツク島」そのものがオフラインまで拡張していく必要があると考えられる。

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