5.1 マス・ローカリズム

オホーツク島
5 min readFeb 3, 2017

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第五章 今後の展望

第五章では、一連の活動などで得た知見や、同時に変化し続ける社会情勢などを踏まえ、今後社会的にどのような活動がなされていくべきなのかについて筆者の考えを述べる。

5.1 マス・ローカリズム

日本は戦後の急激な人口増加を経て世代が一巡し、急激な人口減少が訪れつつある。前述の「増田レポート」をはじめ、世の中では人口減少の絶望的な面ばかりが取り沙汰されている。しかし単に日本が経済成長できた20世紀後半には人口が増え続けていた、というだけのことであり、人口が増えれば現在の様々な問題が解決するわけでもなく、必ずしも私たちが幸せに暮らしていけるわけでもない。人口減少に警鐘を鳴らしているのは古き良き時代に囚われている高齢者ばかりであり、日本国民の多くはそうした実働のないただの声に影響を受けてしまっているだけであると筆者は考えている。また日本の政府機関から発信されるレポートは、意図的に危機感を煽ることにより意図的に反発を招き、本質的な問題解決につなげようとしているマッチポンプのようなものも少なくない。ただ絶望するだけでなく、小さくとも具体的な取り組みに繋げていく以外に、我々が直面している現状を改善していく方法はないものと筆者は考えている。そして日本社会のあらゆる場所に存在している、豊かに暮らして思考を止めている、企業や行政の上層部たちに何かを期待するのではなく、本当に危機感を抱いている我々が具体的に行動を起こしていく以外ないと筆者は考えている。

とはいえ、そうした地位に座り豊かに暮らしている思考停止者たちが思考を始めるようになったり、自然に退場していくことはあまり期待できない。一般的に、豊かに暮らすことができれば思考は止まるものであり、大抵の人は自らの豊かな状況を維持するために全力を尽くすものである。そして自分が直面していない過酷な現実からは目を背けたくなるものであり、見知らぬ人が不幸になるよりも自分が幸福になるほうが重要なものである。筆者の故郷である遠軽町議会は、ほとんどの議員が地元の会社の高齢社長ばかりであり、逆に言えば社長くらい暇でないと議会議員を務めることができないような状況がある。近隣の議会も同様の状況で、筆者はオホーツク在住の人から「まともに議会で考えて発言しているのは共産党の議員さんくらいだ」という話を聞いたことがある。

ミンツバーグの言葉に沿って言えば、こうした企業セクターも行政セクターも機能不全である状態でできることは、「第三の柱」である多元セクターから、これらのセクターに影響を及ぼしうるだけの力を持てるようにしていくしかない。筆者の状況に言い換えれば、「オホーツク島」を通して、いわゆる経済的合理性にも行政的な権限にも基づかずに仲間を増やし、地道に活動を続けていくことが、現在の絶望的な状況を少しでも良くしていくために、現時点で最も有効な方法であると考えている。

芸術や科学技術、クリエイティブ産業などを中心に、公共政策や経済成長に関するリサーチを行うイギリスの財団Nesta(2010)は、「マス・ローカリズム(Mass Localism)」という論文を発表している。Nestaが行っている環境問題に関するコンペから生まれた問題解決の実績などを引き合いに、地方から同時多発的に問題解決へのアプローチが行われていくことが重要で、そうした地域の小さな取り組みが他地域でも活用可能な大きな取り組みになる可能性があり、行政はそうしたアプローチが地方から無数に行われていくように制度を整えていくべきである、ということが述べられている。世界的にさほど注目されている考え方ではないが、日本の行政のフォーラムにおける資料でも取り上げられるなどしており、少しずつ注目されつつある考え方であるとみられる。

筆者はこの考え方は非常に重要であると感じている。筆者は2016年5月に参加した「FIELD HACK ONAGAWA」、2016年6月に参加した「Smart Craft Studio in Hida 2016」などを通して、実際に地方の課題に対応するごく小さなプロトタイプ制作に携わり、ひとつひとつのプロトタイプにできることはごく小さな課題解決であっても、それが同時に多数生まれること、そうした取り組みが各地で行われることに大きな可能性を感じた。そうした取り組みが、一時的なイベントと有機的につながりながら、地域のコミュニティに根付いて継続的に生まれ、継続的に行われていくことを目指したい、と思ったことが「オホーツク島」の立ち上げにも大きく影響している。

マス・ローカリズムの論文はトップダウン的にそうしたアプローチが起きやすい環境を整えることが提示されているが、こうした環境を作り上げていくのはボトムアップ的にも可能なはずだ、と筆者は考えており、そうした問題解決へのアプローチが次々と行われるクリエイティブな環境を整えていくために、「オホーツク島」を継続的に運営し、活用していきたいと考えている。

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