司馬遼太郎ばりにアゲてくる『Airbnb Story』を読んでアガる

Naohiro Oogatta
Jul 22, 2017 · 9 min read

Crunchbase によればすでに5〜6千億円の投資を受けている Airbnb 。勤務先でもっとも尊敬する方の一人がこの本を絶賛していると伝え聞き、飛びついて読みました。一言で言うと司馬遼太郎が書いた現代西海岸スタートアップです。アガる。泣ける。そして細かいところはいずれ忘れる。

実際には原著者も訳者も女性で、訳書は一般的な翻訳文体です。慣れていればなにも感じないと思いますが、特にアメリカ文学の翻訳に慣れていないと村上春樹に感じるような違和感を感じてしまうかも。

おおよその構成は、

  • 創業者3人が自分たちで立ち上がる様子(ここでブチアガる)
  • 社会に居場所を確保するということ
  • ホテル業界への影響とリアクション
  • 創業者たちの成長
  • 組織文化を守るということ
  • まとめ

です。アガるのは最初、YCから出てしばらくまでの間です。特に面白かったところを紹介します。


その前に自分は?

僕はよく「(いい意味で)子どものスタートアップ」と「大人のスタートアップ」という言葉を使います。

前者は、人生投げうっても実現させたい夢のためにソリューションを社会にぶつけたらそれが破壊的なビジネスになってしまった人たち。後者は需要と時代を鋭く見極めて、適切なリソースを確保し、非決定性と競合のバランスをみながら可能な限り決定的にビジネスを行おうとする人たちです。

立ち上げ時、前者はチームの規模は小さく、エンジニアやデザイナで構成される。後者はプランナー、マーケッター、セールスが相対的に多くなる。といったようなものの見方です。

自分はどちらも好きで、この分類のみで良し悪しは感じませんが、現状は「子どものスタートアップ」に従事していて、プロダクトに対してチームは3名。デザイナーとエンジニアのみの構成ですので、どうしても同様のチームの話には気持ちが入ってしまいます。

Airbnb の立ち上げ期は、まさに「子どものスタートアップ」です。


創業者3人が自分たちで立ち上がる

アメリカトップクラスの美大で、広義のデザインをもってすればどんな問題も解決できると教え込まれた創業者たちが現実に絶望するところから始まります。

彼らはYCに入る前に、すでに何度も失敗しているんですね。いろいろ苦労があったあとYCの面接を受けてポール・グレアムに

君たちゴキブリみたいだな。絶対に死なない

と認められて合格。それまでフルコミットしていなかったエンジニアも参加を決めます。

バンドの再結成だ。もう一度チャンスを与えられたのだ。

心にすとんと入ってきます。バンドですね。バンドなんです。自分も、とくにずっとペアプロやってる相手には本当にそう感じます。

「そうか、君たちはマウンテンビューにいて、ユーザーはニューヨークにいるんだな?」3人は顔を見合わせ、またグレアムを見た。「はぁ」
「こんなところでなにぐずぐずしてるんだ?」グレアムは言った。「ニューヨークに行け! ユーザーのところに」

ポール・グレアム良いこといいます。この後ひたすら大きくなってもドッグフードを食べ続ける創業者のみなさん。勉強になる。まじ、自分もやりますから。

社会に居場所を確保する

シリーズAが入って、プロダクトも立ち上がった Airbnb 。

3人で日に18時間休みなく一緒に働いていた。

「子どものスタートアップ」はみんなそうですね。自分もそれが好きっていうより、成功させたいでもなく、もっと素朴で、さっさと世に問いたいから、夜中に描いた絵を早く誰かに見てほしいから、そういう感覚で働いてるなって思います。

「ひとりめのエンジニアの採用は、自分の会社にDNAをいれるようなものだ」

とある通り、私の所属チームも同じようなところに心を配っています。

そこから、情熱と、情熱で集めたいろんな情報源と、いろんなメソッドとで、創業者3人がプロダクトの居場所を社会に作っていく様子が描かれていきます。しかし、もちろん問題は襲ってきます。

  • 競合・コピーキャット(ここでポール・グレアムがまた良いことを言います)
  • 悪意のある人々と、サポートの失敗

この経験からチェスキーが学んだのは、コンセンサスで決定するなということだ。

それらを乗り越え、組織として成長する Airbnb は、ミレニアム世代を中心にそのブランドを確かなものとしていきます。

そうして、家を持たず Airbnb で泊まり歩く人、あるいはビジネスとしてホストを営む人といったスーパーユーザーや、さらに Airbnb をとりまくビジネス(清掃やリネンのクリーニング・レンタル、鍵の受け渡し)が立ち上がっていき、副作用的にも市場価値を生み出すビジネスになっていきます。

  • 詐欺
  • 暴行事件
  • 人種差別

といった問題にも、専門家の力を借りて対応していきますが、もっとも大きなものがホテル業界を中心とした規制派との戦いでした。

創業者たちの成長

規制派、ホテル業界との戦いで一気に重苦しい内容になります。しっかり書かれていて読み応えがありますが、ここでは MBA も持たない創業者3人のリーダーとしてどう成長していったかへ跳びます。

「学習曲線なんて悠長なことは言っていられなかった。ロバート・マクナマラの言葉にもある。戦争やスタートアップにいる人間に学習曲線はないってね」

夢のようなミッションに執着し、異常なほど勉強し、異常なほど人に尋ねる CEO です。

「ブライアンは自分が信じることを人にやらせる力のあるリーダーだ。だから、どんな会社でもいいってわけじゃない」

とポール・グレアム。子どものスタートアップでは、とにかくこういうリーダーがいいですよね。逆は辛い。自分のいまの所属チームのリーダーは、まさにこっちなので楽しいです。

「80パーセントでいい」

いい意味でも悪い意味でも視野が狭く、完璧主義者のゲビア。僕のお気に入りです。特に「象、死んだ魚、嘔吐」という、口に出しづらいことをうながす一種のふりかえり手法はさっそく使わせてもらっています。

象はみんな当たり前に見えているのに誰も口にしないこと(オフィスに象がいるのに誰もそれを口にしない状況だとしたら?)。死んだ魚は早く片付けないと腐敗してひどいことになるのに誰も手を付けようとしないこと。自分の中に抱えてしまっていてとにかく吐き出したいことが嘔吐、ということみたいです。正確にはわかりません。

自分がチームのファシリテーションをしていて「象」に気づけたことはありがたかったです。

とりわけ複雑な問題を考え抜き、単純に落とし込むのが得意だ。

複雑な問題に対してもシンプルなソリューションを見つけ、言うだけでなく自分でそれを実装してみせる、子どものスタートアップのための最高のエンジニアなんだなと思わされます。かっこいい。

監察官タイプで、夢を追いがちなほか2人のバランス役にもなっているそう。奇跡の配役です。

「ビートルズなんだ。ソロアルバムもあるけど、一緒になったときにはかなわない」

というのが、ホテル業界から Airbnb に移った北米流おもてなしのプロのチップ・コンリーさんのお言葉です。

組織文化を守るということ

こういう時よく「企業文化」と書いたりしますが、 Airbnb は創業時から一貫しているし、自分たちのようなチームでも使えるように感じたので、組織文化という言葉で受け止めてみました。

「文化が壊れるってことは、プロダクトをつくる機械が壊れるってことだ」

文化が強力であればあるほど、社員を信頼でき、その分正式な規則や手続きが少なくて済む。手続きが少なければそれだけ管理も軽くなり、イノベーションが生まれやすい環境ができる。

ピーター・ティールに言われたという「文化を壊すな」という言葉。この話のもとになったチェスキーの実際のブログ記事で読むと

“Don’t fuck up the culture.”

です。ドント・ファック・アップ・ザ・カルチャー!

Culture is simply a shared way of doing something with passion.

文化ってのは、情熱を持って誰かと一緒に何かをやろうってときの、やり方のことさ。

自分はファシリテーターとして、特に子どものスタートアップにおいて文化がもっとも大切なことは感じていました。しかしそれはなぜか。理由をうまく説明できないことが多かったのですが、これですっきりしました。

文化は、情熱を持ったチームで何かに取り組むときの信頼のしやすさ、規定プロセスの少なさに貢献する。

これはとてもよく理解できますし、ビジネスの視点からも価値を感じやすいと思います。

Airbnb において文化を守るために払われているたくさんのたくさんの労力が描かれていきます。もっとも大切なものは、コストをどれだけ払っても守らなければならないということですね。


感想

司馬遼太郎の歴史小説を読んだことのある方なら、すぐに分かってもらえると思います。これは読むと燃えて、昂ぶって、やる気の出る本です。細かいところはあとから自分で探す本です。だから案外、メソッドの本ではないと思います。

僕はもう一点、この本は文章がとても好きです。翻訳もすばらしい。

例えばポイントポイントで「変」という言葉が使われています。

話せば話すほど、奇妙な感じがした

ただ、なんだかすごく変な感じがした

若い人たちにとって、チェーンホテルに泊まるのは固定電話で話したり、銀行の支店に行ったり、オンエアの時間にテレビ番組を見たりするのと同じくらい、変なことなのだ。

説明できていないじゃないか、と思われるかもしれませんが、これが本当のこと、本当の状態で、あるポイントである事物がある変化を採ろうとするときのそのありさまと、それを見たときの人間の反応を表現するために「変」はそのあいまいさも伝えるふさわしい言葉だと感じますし、その言葉選びのセンスが全体に行き渡っていて好ましいです。

上の2つは、創業者たちが自分たち自身でも軽んじていたアイデアを見直すきっかけとなったポイントでの表現です。

とても上手で、繊細なものに丁寧にアプローチしていて、好きだなと思いました。

Airbnb Story おすすめです。


悲観主義者はだいたい正しい。だが世界を変えるのは楽観主義者だ。

    Naohiro Oogatta

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