ナイトタイムエコノミー

ナイトタイムエコノミーで新たな多様性のある市場創出を目指す

世界中が注目するナイトタイムエコノミー

訪日外国人消費のさらなる拡大に向けて、起爆剤として期待が高まっているのが『ナイトタイムエコノミー』です。海外ではすでにさまざまな取り組みが具体化していますが、その背景には①ライフスタイルの多様化と②ビジター(旅行者)需要の高まりという2つの世界的なトレンドがあると考えます。

ロンドンではエイミー・ラメがナイトシーザー(ツァー)に就任

ロンドンでは2012年のロンドンオリンピック・パラリンピックを契機に旅行者がより訪れやすい街を実現することを目指し、ロンドンの夜について、安全で開放的、多様性に満ちて、すべての人を歓迎するという計画を掲げました。サディク・カーン市長はこの流れを受け、夜間経済の振興を目指した、『24 Hour London Vision』(ロンドン24時間営業構想)を発表します。声明では都市の24時間化は簡単ではないとしながらもパリやニューヨーク、ベルリン、東京などのグローバルシティ間の夜間市場における競争激化に触れ、ロンドンにナイトライフのグローバルリーダーになって欲しいとの思いを伝えています。カーン市長は選挙の公約でもあった『ナイトメイヤー(夜の市長)』の設置を実現。エイミー・ラメ氏が『ナイト・シーザー(ツァー)』(=ナイトメイヤー)に就任し、ナイトタイムエコノミー振興の任にあたっています。ロンドンのナイトタイムエコノミー市場は260億ポンド(約3.7兆円)、ロンドンの仕事の8分の1にあたる125万職が夜間経済に支えられています。振興策の中心となったのは『ナイトチューブ』と呼ばれる主要地下鉄の24時間化で、2016年にスタートしたこの取り組みは最初の1年で1億7100万ポンド(約240億円)の経済効果をもたらしました。『ナイトバス』と呼ばれるバスの24時間化では、123路線がすでに運行しており、2000年以降、ナイトバスの利用者は倍増しています。一方で、夜間市場において経済的にも、また文化的にも重要な役割を担うクラブやミュージックヴェニューは、2011年からその数が半減しており、バーやパブなども大幅に減少。ラメ氏はこれに歯止めをかけ、ロンドンの築きあげてきたナイトライフの多様性を守るために、騒音やセキュリティなどの問題解決やディベロッパーと事業者、あるいは住民との調整などに尽力しています。ロンドン市も防音設備の設置費用支援や規制緩和など積極的なサポートを行っています。

タイムアウトロンドンでは”24 hour London”を特集

ロックアウト法で停滞したシドニー

シドニーでも政府によるナイトタイムエコノミー活性化の取り組みが行われています。シドニーでは2014年にロックアウト法が導入されました。ロックアウト法は、パブやナイトクラブなどを対象に、25時30分以降の入店禁止や27時のドリンクのラストオーダーを定めたもので、これにより多くの店舗が閉鎖。ナイトライフの賑わいが消えたとされています。それが原因なのか、2016年のタイムアウトのグローバルシティ調査でシドニーは「最も退屈な都市」のひとつに選出されました。タイムアウト読者のわずか10%しか「シドニーには常に楽しみがある」と回答しなかったのです。この状況を打破するためにクローバー・ムーア市長は『An Open and Creative City -planning for culture and the night time economy』を提案します。その中で市長は、豊かな文化的生活とナイトタイムエコノミーは繁栄するグローバルシティに欠かせないものであり、多様な選択肢がコミュニティの絆を深め、強度を高め、インクルーシブなナイトライフを生み出し、安全や犯罪の減少に寄与すると語っています。具体的には、①営業時間の拡大、②空きスペースの小規模な文化的使用への承認不要化、③ミュージックヴェニューの騒音対応の3点を中心にルールの変更を提案しています。

シドニーでは多様なナイトライフを取り戻すため改革案が提示された

安全面、文化面でも充実したナイトライフを

最後に、シドニーと同じオーストラリアのメルボルンの事例です。メルボルンでもロックアウト法の導入が検討されました。事前にビジネス中心区域でのアルコールによる暴力防止策として早朝2時にロックアウトするというトライアルを実施。ミュージックヴェニューやバー、レストランなどの文化消失の懸念があるとの結果から一転、ロックアウト法の導入を中止。メルボルン24時間化推進を決定しました。当時、ロバート・ドイル市長は「犯罪防止だけでなく、誰にとっても心地よい24時間都市を実現するためには」と考えるようになり、世界トップクラスの24時間都市を目標に、2016年に公約であった『ナイトネットワーク』(交通機関24時間化)のトライアルを実施。安全面では監視カメラの増設や警察の迅速な対応を可能にする体制づくりを進め、文化面ではビクトリア国立美術館のオールナイトイベントや年1回、日没から日の出まで市内で開催される、『ホワイトナイト』(60万人動員)など、ナイトライフが単にアルコールの消費だけにならないような取り組みを行っています。

Time Out Tokyo nightlife survey(Jan 2018)より

日本で進む取り組み

日本では2016年の風営法改正を起点にナイトタイムエコノミーについての議論が広がりましたが、夜遊び活性化的な取り上げ方をされることも多く、文化・ライフスタイルの多様性の重要さやビジター(旅行者)需要における国際都市間競争の高まりを意識したグローバルシティの取り組みと比較すると、若干その志や想定領域の矮小化が懸念されるところではありました。しかし、2017年12月に発表された自民党時間市場創出推進議員連盟の中間提言では、都市の24時間化の重要性や、多様性が最も重要な価値観であり競争力の源泉であることが明記され、夜間経済GDP5兆円を目指す大きな目標が見えてきました。日本でしかできない多様で豊かなナイトライフ体験の実現や夜間の交通や安全、そして労働力確保や働き方支援などの環境面の整備を通じて、日本がナイトタイムエコノミーのグローバルリーダーを目指すことは、まさに、「観光行動を起点とした新しい市場の形成と持続的な発展」を実現できる絶好の機会の到来と言えるのではないでしょうか。

転載元:公益社団法人日本観光振興協会『観光とまちづくり』No 531

参考:ナイトライフ調査レポート2018