過去3年間の売上は590億円! 4/28に上場したCarvanaがわかる10のポイント / S-1分析

“自動販売機で購入者へ車を届けるCarvana”

消費者の嗜好性が高く、購買頻度が低く、高単価なものは、なかなかオンライン購入が進まないと言われています。住宅、結婚などは典型的。しかし、USにおいてオンライン購入比率がじわりじわりと上がってきている市場があります。

自動車市場です。

”TESLAの”MODEL S”は、オンライン注文受付開始後2日間で、1.1兆円の売上を記録”

2010年に上場したTeslaはFordやGeneral Motorsを抜いて、北米の自動車業界では時価総額ではTopで$51Bn(5.6兆円)になりました。

TESLAはディーラー販売ではなく、自動車をオンラインで販売するメーカーですが、中古車をオンラインで販売するディーラーが”Carvana”です。

過去3年間の売上が590億円にも達したCarvanaが先日S-1(目論見書)を提出したので、早速読み込んで、気になったポイントを10個挙げてみました。

1 未だに拡大するUSの自動車市場
2 US Top100社の市場シェアは「7%」
3 既存と新規参入が入り乱れるレッドオーシャン市場
4 なぜ、参入が相次ぐのか?
5 既存事業を守りたければ、自ら脅威となる新規事業を創りだせ!
6 Carvanaとその7つの特長
7 売上T2D1(Triple x 2、Double x 1)を達成
8 売上の3つの柱
9 6つの重要KPI
10 議決権10倍の絶対君主制

1. 未だに拡大するUSの自動車市場”

自販連全軽自協による日本国内の新車販売台数の推移(左)”と”北米の年間新車販売台数の推移(右)”

日本の25倍以上の面積があるUSでは公共交通機関は全土に張り巡らされている訳ではなく、一家に1台の自動車保有はMust。そんなお国事情もあってか、リーマンショックからは完全に回復し、人口増加ともに新車販売台数も増えています。

USの自動車市場は$1.1 Trillion (120兆円)もあり、US小売市場の実に約20%・GDPの3%を占めるのが自動車市場です。

120兆市場の内、中古車が占める割合は65% = 78兆円で、新車市場より中古車市場が大きいことがわかります。

新車販売が年間1,750万台に対して、中古車販売台数は年間3,800万台、平均販売価格も$18,552と高く、USにおける中古車市場は非常に魅力的です。

2. US Top100社の市場シェアは「7%」

USで自動車を買う方法は主に3つあります。
①店舗型ディーラー
②オンラインディーラー
③個人間取引 (Craigslistなど)

この中で、自動車販売の大部分を占める①店舗型ディーラーは全米に63,000あります。内71%の45,000店を独立系、29%の18,000店がフランチャイズ型ディーラーが占めています。全米トップ100のディーラーを全て足し合わせても市場全体の販売シェアの7%と、非常にFragmented(断片化)な市場なのが特徴です。

店舗型ディーラーで最大規模のCarmaxでも全米で150店舗/売上$15Bn(1.7兆円)しかなく、全体市場の1%程度です。

“販売ディーラー最大手Carmax社のFinancials”

3. 既存と新規参入が入り乱れるレッドオーシャン市場

数社による寡占化が進んでおらず魅力的な市場には、様々な既存プレイヤーが存在し、またスタートアップによる新規参入も相次いでいます。

⭐️Establishedなプレイヤー(公開企業)

Carmaxの様に、創業から24年で売上$15Bn(1.7兆円)、時価総額$11Bn(1.2兆円)を達成する企業もあり、USの市場の大きさを物語っています。

⭐️Establishedなプレイヤー(未公開企業)

⭐️スタートアップ

雨後の筍のように、2012年以降スタートアップの起業が相次いだ自動車市場。下記企業だけでも5年以内に$750Mn(850億円)調達しており、VCの注目度が高いことがわかります。

4. なぜ、新規参入が相次ぐのか?

市場の魅力度が高い(大きな市場規模、寡占化されていない)のはもちろんですが、この10年くらいの消費者の態度変容が大きい! と思います。

ほんの15年前までは:

・ディーラーに行くまで自動車価格の詳細情報は入手困難だった
・ディーラーを選択してから車を選んでいた
・複数の車を購入前にテストドライブした

それが今では:

・平均9時間オンラインで情報収集、95%の人はオンラインで購入車を決定後、ディーラーで車を購入する
・その際、ディーラーで購入する前に平均3回オンラインで見積依頼する
・ディーラー選びは、ローカルの雑誌・TV・ラジオ広告で情報を入手し、特にディーラーの違いは見出していない
・70%の人は、1台未満しかテストドライブしない

オンラインの情報が進んだ結果、買い手(消費者)と売り手(ディーラー)の情報の非対称性が縮小し、賢い買い物客が増えた結果、買い手と売り手のパワーバランスが変わったことが大きいと考えています。

実際に、J.D. Powerによると、ディーラーの2017年1–3月の車当たりの平均割引額は$3,900。中古車ディーラーの利益構造も中古車の販売からの利益から、Vin EtchingやTheft Deviceの設置などの車両盗難防止や自動車ローン利率の引き上げなど、自動車販売の周辺サービスから利益の柱を立てるように変化している。自動車の販売だけでは儲けがでなくなってきているようです。

そんな消費者心理や態度変容により、変化が求められているディーラー業界において、商機を見出しているのがオンライン型ディーラー、その代表格がCarvanaです。

5. 既存事業を守りたければ、自ら脅威となる新規事業を創りだせ!

Carvanaの歴史を紐解くと、実は店舗型ディーラーの新規事業として創業しています。Carvanaの創業者は、Ernie Garcia III世。父親のErnie Garcia II世は、店舗型ディーラー”DriveTime”の創業者。自動車業界歴23年で現在も同社のCEO。DriveTimeの2014年の売上は$2Bn(2,100億円)、130店舗を保有していると言われています。

「既存事業を守りたければ、自ら脅威となる新規事業を創りだせ!”」

パパGarciaがそんなことを言ったのかは知る由もないですが、Carvanaは2012年DriveTimeの一事業&完全子会社として自動車ディーラーの申し子である息子Garciaがスタート。

旧態依然のディーラー型モデルを破壊するオンライン型ディーラーとして、2013年にジョージア州アトランタで事業を開始。翌2014年に親会社(パパ)からスピンアウトした。

既存事業の脅威となるような新規事業を自社から生み出すのは難しい。Netflixのように、DVDレンタル事業からStreaming事業にスパッと事業転換できる会社はほとんどない。

Carvanaのケースは、中古車購入における業務プロセスを熟知した業界人が、卵の内側から業界を壊そうとしている点が非常に面白いと思います。

6. Carvanaとその7つの特長

中古車購入のAmazon、”Amazon of Cars”と言われているCarvanaは、中古車購入の体験を新しいものにするために生まれました。

Carvanaの顧客はディーラーに行くことなく、すべての中古車の購買プロセスをオンラインで完結することが可能です。

中古車ディーラーの販売プロセスは、①在庫の獲得 > ②検査 > ③仕入れ > ④修理 > ⑤仕立て > ⑥販売 > ⑦配達 の7つがあると思います。

ディーラーの視点から、中古車販売の各プロセスでCarvanaがユニークな点を(S-1に記載ないため個人的な見解が多く含まれますが)整理したいと思います。

①仕入れ在庫の獲得

・仕入れ可能で、仕入れてもすぐに売れ、利益を最大化できる車は何か?それを実現するために、社内外のデータを獲得&蓄積し、仕入れ可能な車の利益予測決定モデルをCarvanaは保有。
・予測モデルと実際に自社が保有する7,300台の在庫データを掛け合わせMachine Learningを活用ながら、どのエリアで、どのメーカー、モデル、年式、色が売れ筋商品なのか消費者需要をリアルタイムに把握した上で、獲得すべき在庫にあたりをつけることが可能

“Carvanaの利益予測決定モデルは、恐らく日本のガリバーが保有しているものと近しいと思います”

②仕入れ在庫の購入判断

・その車を買い取るか否か?
・Carvanaはほとんどの車をディーラー向けのオークションで仕入れ、消費者からの直接買取、 ディーラー/リース会社/レンタカー会社からの購入はほんの一部
・オークションは州により商慣習が異なりますが、実際に車を見るわけではなく、オークション会場のPC画面に車がどんどん流れてきて、購入判断をバイヤーがくだします。CarvanaがVIN(車両識別番号)や画像認識を駆使して、①で選んだ車をどのように購入判断しているのか?気になります。

日本だとこんな画面をPCで見ながら、オークションで応札します

③仕入れ

・Carvanaはディーラーライセンスがあるため、ディーラー向けオークションに参加することが可能
・店舗型のディーラーと異なるのは、テキサスやノースカロライナ州に仕入れた車を保管する場所を確保しているため、全米から車を仕入れが可能

④修理

・オークションで仕入れた後、修理工場(IRC/Inspection and Reconditioning Centers)へ仕入れた車両を輸送
・この修理工場もDriveTimeが恐らく保有している工場を間借りしているのではないかと仮説
・IRCで150以上の項目で検査実施、修理後に一定基準を満たした車に”Caravan Certified”認定し、販売可能
・独自システムで各修理プロセスを管理、自動車部品サプライヤーとEDIでシームレスにつなぎ、修理部品の調達を自動で実施するソフトを自社開発

⑤仕立て

・IRCにて撮影施設を完備、車両の内装と外装を360度の角度からの画像を撮影
・欠陥がある部分を自動的に識別して、アノテーションしてくれるので、消費者は気になる点をオンラインで認識することが可能

車体をマウスでドラッグしながら、傷が付いているところを確認することが可能

⑥販売

・価格の透明性を担保した、圧力のない購入体験の提供が可能
・”Caravan Care”という、VSC経由(DriveTimeの子会社)による新車保証の終了後の車に対して保証サービスを提供

⑦配達

・販売後、購入者の指定場所までデリバリー、または、自動販売機での引渡しが可能
・自動車購入者へのデリバリールートを最適化する配送エンジンが保有
・自動販売機でピックアップした際に、ソーシャルメディアで拡散してもらうための仕掛けあり

7. T2D1(Triple 2x、Double 1x)を達成

2013年から売上がTriple、Triple、Doubleで成長しており、FY2016の売上は$365Mn(415億円)

販売台数も2,105台(2014)、6,523台(2015)、18,761 (2016)と倍々で成長。

8. 売上の3つの柱

CarvanaのFY2016 $365Mの内訳は下記の通り。

①中古車販売:$342Mn (売上の94%)
②下取りした車の卸売:$10.2Mn (売上の3%)
③その他(自動車ローンや保証の販売):$13.0Mn(売上の3%)

売上の内容は下記の通り。

①:中古車の販売
②:下取りした車で、Carvana Certify認定を受けられなかった車をオークションで卸売
③:①で販売した顧客へのアップセルとしてローンや保証など金融商品などの販売

9. 重要なKPIは6つ

OperationalなKPIもS-1に記載していたので、メモ。

1 Retail Units Sold: 販売台数
2 # of markets: 進出市場数:サービス提供する大都市圏エリア
3 Monthly Unique Visitors: ユニークなサイト月間訪問者数
4 Inventory units available: Q末の販売可能な在庫掲載数
5 Average days to sale: 在庫獲得から車両が配達されるまでの平均経過日数
6 Total gross profit: 車両販売によるGross Profit(粗利)

10. 議決権10倍の絶対君主制

今回Carvanaは普通A株を販売する予定です。普通B株は普通A株の10倍の議決権を保有し、Ernest Garcia II(パパ)とErnie Garcia III(息子)の”Garcia Parties”が保有しています。

Snapchatが上場した際にも書きましたが、今後創業家系経営陣の支配力維持がどのようにCarvanaの経営に影響を及ぼすのが注視していきたいと思います。

11. 余談

このブログをだらだらと準備している間にCarvanaが上場してしまいました。上場日のMarket Capは$2.1Bn(2,400億円)でした。

Fin

蓮沼 貴裕(Takahiro Hasunuma)

Monoful Venture Partners←コマツ←リクルートI 投資先は、Shipbob、Vesta Healthcare、Blacklane、Fishbrain、Dispatch(VEP)、Brickworks (b8ta)