旅行者、駐在員に大人気Trader Joe’s (トレジョ)のビジネスモデルをAmazonに買収されたWhole Foodsと比較してみた

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今年創業50周年を迎えた老舗オーガニックスーパー、Trader Joe’s(トレーダージョーズ)。アメリカ帰りの友人に可愛らしいパッケージのお菓子やエコバッグをもらったことのある人もいるはず。日本人駐在員であれば一度は足を運ぶTrader Joe’s、オーガニックスーパーと聞くと敷居の高いイメージだが程よく選別された新鮮な商品が安く手に入る。そのかわりCoca-ColaもHeinzのKetchupも大手メーカーの商品は取り扱いなし。そして、なんとこの会社、未上場企業である。そんな秘密のベールに包まれたTrader Joe’sの歴史、競合The Whole Foodsとの比較、ビジネスモデルを少し調べみた。

Trader Joe’sの歴史

⭐️Trader Joe’sの創業背景

1954 Joe Coulombe スタンフォード大 MBA取得
1957 コンビニPronto Marketsを創業
1966 St. Barts, French West Indiesを旅行中にTrader Joe’sのヒントを得る
1967 Pront MarketsをFranchisor Rexall DrugからBuyout
1967 Trader Joe’sへ社名変更、1号店をPasadena, CAにオープン
1969 Hawaiian Shirtを制服に採用

後のTrader Joe’sの創業者Joe Coulombeが1954年スタンフォード大学でMBAを取得。1966年にカリビアンを旅行中にその開放的な南国スタイルをJoeが気にいり、旅行から帰国後、当時セブンイレブンの脅威にさらされていたコンビニ業態からカリビアンの雰囲気を醸し出すオーガニックスーパー”Trader Joe’s”へ業態を変更。 この時のコンセプトのままに、現在でも店舗では従業員のユニフォームはハワイアンをモチーフにしたTシャツやアロハシャツ、内装は小洒落た港町のおしゃれなスーパーを連想させ、レジには海賊船にありそうな鐘が置かれている。店内にひしめき合うこだわりのPB商品のネーミングは日本食ならTrader Joe-san、メキシカンならTrader Jose’sなどシャレの効いたものが多い。

“現在もオープンしているPasadenaの1号店(左)”と”現在も続くアロハシャツ(右)”

⭐️Trader Joe’s創業当時の成長ドライバーは3つ

創業者JoeのInterviewを読むと、彼が成長ドライバーに挙げたのは:

1. 高学歴人口の増加
2. 海外旅行ブーム
3. 外国食品へのニーズの高まり

1932年にはたった2%だった大学進学率が60年代以降は50%以上になり、高学歴人口がUSの歴史上最も増えたのが戦後20年。また、旅客機のジャンボ化や低価格航空券の普及が後押しし、海外旅行者が一気に増加。海外旅行先で出会った食品を帰国後も求めるニーズが高まっていった。そのニーズに応えたのがTrader Joe’s。今でこそTrader Joe’sの商品の8割以上がPB商品だが、当時は海外輸入食品を多く扱っていた。

🌟カリフォルニア州の規制の穴を突くPB商品戦略

1972 Private Brand(PB)商品を販売開始
1977 キャンバス製のエコバッグを販売開始

今では全商品の80%がPB商品のTrader Joe’sだが、1972年までは違った。当時カリフォルニア州公正取引法は日常商品やアルコール価格に規制をかけていた。メーカーが小売業者に対し商品の小売価格の値段変更を許さないことで、小売価格の競争を避け、メーカー側を保護するための規制だ。提供する小売価格がどの店舗も同じということは、大量により安く商品を仕入れる小売が勝ち続ける構造だ。そこで、Joeは規制の対象外であるPB商品の販売に事業戦略の大きな舵を切った。まずは、シリアルやカリフォルニアワインをPB商品化した。カリフォルニアワインを安く揃えられるトレジョブランドがこの頃確立した。

“TJのみで購入可能、1本$1.99のワイン Charles Shaw(Two Buck Check)(右)”

⭐️独小売大手Aldi Nordに創業12年後に会社を売却したJoe

1979 ドイツの大手ディスカウントAldi NordによるTrader Joe’s買収
1988 Joe CoulombeがCEOを退任、John ShieldがCEOに就任
1993 初めて他州で店舗オープン (Phoenix, Arizona)
1996 www.traderjoes.comロンチ
2002 John Shieldsが引退、Dan BaneがCEOに就任
2002 $1.99ワインで有名な”Charles Shaw(Two Buck Chuck)”を販売開始
2007 全てのPB商品からトランス脂肪酸、人工香料、人工保存料、
GMOを取り除くことを決定
2017 創業50周年を迎える

今でこそ全米に460店舗を構えるTrader Joe’sだが、創業から12年経った79年は30店舗にも満たない事業規模だった。カリフォルニア州以外の進出も創業から26年後の1993年になってから。Trader Joe’sの礎を築いたのは間違いなく創業者のJoeだと思うが、事業成長を加速させたのはJoeの後継者の経営手腕によるところが大きいのではと思う。

Trader Joe’s(TJ)とThe Whole Foods(WFM)の比較

Trader Joe’sの歴史を少しわかったので、現在の実力値をざっくり理解するために、USオーガニックスーパーの覇権を争うThe Whole Foods Market(WFM)と比較してみた。

まず、驚くことに店舗数は両社とも全米約460店舗で肩を並べる
そろそろ店舗展開も頭打ちになってきているのか。

TJの推定売上は$13Bn(約1.5兆円)、WFの推定売上は$15.7Bn(約1.8兆円)
両社とも日本だとユニクロと同じくらいの売上高。

WFのGross Profit(粗利)は34.4%。メーカーからの棚代や協賛金をどのくらい年間もらっているのか気になっていたがCost of Goods Sold(売上原価)に算入されているため詳細はわからず。

WFの粗利マルチプル($9.6Bn/$5.4Bn)は1.7x
小売最大手Walmartの粗利マルチプル($215Bn/$121Bn)は1.7x
小売大手Krogerの粗利マルチプル($32Bn/$24Bn)は1.3x

SKU(商品数)はTJが4,000、WFが35,000
TJとWFのSKU当たり売上は$3.2M、$448KでTJがWFの7.1x
TJとWFのSqft当たり売上は$1,750、$838でTJがWFの2x
TJとWFの従業員当たり売上は$342K、$180KでTJがWFの1.9x
儲ける力についてはTrader Joe’sに軍配

トレジョの実力値がわかったところで、ビジネスモデルも調べてみた。

Trader Joe’sのビジネスモデル

様々なインタビュー記事を参考にしながら、Trader Joe’sの強さを5つ挙げてみた。どんな商売も安く仕入れて高く売るっていうのが基本中の基本だが、それをTrader Joesの戦略がどのように成し遂げているのかを、Network Effect Loop図で簡単に書いてみた。

“Network Effect Loop of Trader Joe’s Platform”

⭐️強さの秘密①棚代や協賛金を一切サプライヤーから徴収しない

一般的にメーカー/サプライヤーは小売の棚スペースを確保するために、多額のお金(棚代やマーケティング協賛金)を小売店舗へ払って、自社製品を棚に置いている。

棚の獲得競争で勝つのはいつも資本力のある大手、どこのお店も置かれている商品は毎度おなじみのパッケージ。男性用の髭剃りコーナーを思い出して欲しい。Gillette(P&G)とSchick(Edgewell Personal Care)以外の製品を言えるだろうか。ポテチコーナーでは”Lays”など気づけばFritoLay社(PepsiCo)に独占されている。シリアルはGeneral MillsとKellogg’sと一騎打ちが何年も続いている。

大手同士の棚獲得戦争が他店で勃発している中、棚代やマーケティング協賛金を徴収しないTrader Joe’sは、USのサプライヤーの間では「棚代はトらレないジョー、トレジョー」が業界の常識になっており、Trader Joe’sの棚を狙ってサプライヤーが殺到している。

“GilleteとSchickに占領された髭剃りコーナー@Safeway(左)”、”FritoLay(PepsiCo)に占領された棚@Safeway(右)”

⭐️強さの秘密②サプライヤーからの商品を直接&早期大量購入

棚代がないため、サプライヤーが殺到しているトレジョ。その結果、サプライヤー間の競争が起き、仕入れ値を下げることができる。そして、サプラヤーと直接交渉、WholesalerやDistributorなど仲介業者を通さないことで中間コストをさらに削減。そしてさらに、そのサプライヤーから他社より早期に大量購入して仕入れ値をさらに下げる。それが消費者向けの低い価格設定ができる要因となっている。

でも、それって結局Trader Joe’sに卸せるメーカーやサプライヤーが勝つ構造になっているのでは?と思ったりもするのだけど、そこまでは調べても情報が出てこなかった。

⭐️強さの秘密③売れない商品は即販売中止”

オーガニック小売業界のSPAとも言えるTrader Joe’sは、商品の回転率や開発のスピードが早いことでも有名。日本人がよくブログで投稿している「Trader Joe’sで買うべき商品Top30!」みたいなブログで書かれている商品は大抵もう販売中止になっている。

棚代をもらってないため、大手メーカーとの関係性を気にせず、売れない商品を販売中止にバシバシできること、常に消費者を向いてConsumer-FirstでビジネスができることがTrader Joe’sの最大の強みだと思う。

Scrum Venturesの”日本人の知らないシリコンバレー:「D2C」というリテールの新潮流”のブログにD2Cが勃興している背景が詳しく書かれているが、D2C勃興の背景には大手メーカーが消費者、特にミレニアル世代の態度変容に対応できないことに起因していることが多い。トレジョはいわば、自社がメーカーであり、自社で企画、製造した商品を自社の店舗で販売、消費者の販売データを即分析できるので、商品へのFeedback Loopが他社より早く、商品の改善スピードや販売中止の判断も早くすることが可能なのだろう。

⭐️強さの秘密④セールス(Discount)をやらない

Every Day Low Price。トレジョは基本的にディスカウントで商品を販売しない。ディスカウントで商品を販売しないということは、商品の実力(価格、パッケージデザイン、中身の見た目、味の良さ)が求められる。そこに、広告宣伝や販促ツールの貢献度などノイズが入ったデータが少なく、クリーンなデータで分析&商品の入れ替え判断ができることにも繋がっているのではと勝手に推測。消費者の目にも毎回違う商品が棚に並ぶことで買い物をする楽しみが増えるだろう。

また、店舗内の業務生産性という観点でも、在庫システム上の価格・更新する手間も省けるし、従業員がわざわざ値引きシールを貼る作業や販促ツールを飾る作業が発生しない。

“黄色い値引きタグが目立つ一般的な小売店舗(左)”、”ケースを置くのではなく、商品を1つ1つ並べるのが特徴でもあるTrader Joe’s(右)”

⭐️強さの秘密⑤やけにフレンドリーな従業員

毎回レジで話しかけられるトレジョ。先日柚子胡椒を購入した際も「君、日本人か?それ初めてみたけど、美味いのか? トレジョの焼売とか試したことある?」と気さくに話しかけてきたり。”Trader Joe’s is a neighborhood grocery store”と言われているように、話す内容も近所の人と話しているような自然な会話なので、結構楽しかったりする。

“商品を運ぶベルトコンベヤーがなく、従業員と顧客の距離が近い(左)”、”ワンピースで出てきそうな鐘(右)”

⭐️強さの秘密⑤“Great Food + Great Prices = Value”

PB商品が全体の8割以上、店に置いてあるのは販売中止を免れた商品なたちなのでハズレは少ない。日本に帰っても恋しくなりそうな商品がいくつかあるのがトレジョ。今年もファンによる人気投票がすでに発表されているので、気になる方はこちら

“私のオススメ、日本の炊き込みご飯の味($2.99)(左)”、”こどもも大好きシリアル(右)”

焼売なら「Trader Ming’s」、コーヒーは「Baker Josef’s」、オリーブ油は「Trader Giotto’s」、天ぷらチキンは「Trader Joe San」などなど各国料理に合わせてTrader Joe’sがちょっとずつイジられている。

おまけ:こどもにやさしいTrader Joe’s

散々The Whole Foodsと比較したり、ビジネスモデルを色々調べてみたのだが、2児の父としてTrader Joe’sにGroceryに行きたい理由は、「こどもが一緒に買い物を楽しんでくれること」が大きい。いつものおままごとの世界から飛び出して、カートを操作しながら、商品を手にとってカートに入れていくのが楽しいよう。そしてレジでは必ず月替わりのステッカーがもらえ、出口付近にはこれまた月替わりの塗り絵がもらえる。

“2種類あるこども向けのショッピングカート(左)”
”レジでもらえる月替わりのステッカー(左)”、”こどもが喜ぶ塗り絵、提出するとPrizeがもらえる(中)(右)”
“店舗内に隠れているトレジョのマスコットこと「JOEJOE」。発見して、カスタマサポートに伝えるとお菓子がもらえる!”

僕の中では、食材を買うというモノ消費よりこどもと楽しめるコト消費に近いのがトレジョ。オーガニックスーパーでは1人勝ちのTrader Joe’sに対して、他の小売店舗やオーガニック系Startup(Good Eggs)などがどう対抗してくるのが目が離せない。

Fin

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蓮沼 貴裕(Takahiro Hasunuma)

Monoful Venture Partners←コマツ←リクルートI 投資先は、Shipbob、Vesta Healthcare、Blacklane、Fishbrain、Dispatch(VEP)、Brickworks (b8ta)