アプリ、データ、デバイスを繋ぐ統合基盤Mulesoftの上場申請書の分析

Mulesoftが2月18日S-1(上場申請書)を提出した。専門外の領域だが、製品概要や利用シーンを簡単に調べて、他のSaaS企業のS-1提出時とFinancialsを比較、ポイントを書き出してみた。

⭐️製品概要
・Mulesoftが提供するのはアプリ、データ、デバイスを繋ぐ統合基盤
・Anypoint Platformを利用して簡単にSaaS、SOAおよびAPI連携が可能

⭐️競合ApigeeのS-1を参考に、API統合基盤のポジショニングを把握
・CRM、ERP、Database、DWH、Data Lake(GPS、ソーシャルメディア、画像などの非構造化データ)などSystems of Record側のデータを連携
・連携したデータを基盤を通じて、Consumer/Partner/Employee向けアプリを提供したり、Insightsの発見に利用して、人との繋がり強化=System of Engagementのために活用

⭐️競合ApigeeのS-1を参考に、関連する登場人物の整理
1.API Team: APIのイニシアチブのマネタイズ、設計・運用・分析の責任
2.Developer: APIを利用したアプリの開発
3.User: アプリの利用

登場人物を思い浮かべつつMulesoftのS-1を参考に利用シーンを書いてみた

⭐️利用シーン
自社の営業担当から、顧客プロフィールを簡単に閲覧できるウェブアプリの作成依頼を受けたとしよう。営業担当としては顧客との関係深耕のために、様々な社内システムから顧客データを抽出する手間が発生するのが課題。

この課題に対して、Mulessoftは:
1.下記a)-c)からリアルタイムのデータフィードを取得
 a. オンプレミス上のECシステムの注文データ
 b. SAPなどERPからの請求書データ
 c. Salesforceなどクラウド上にある顧客データ
2.これらのデータを”Discoverable&Consumerable”のAPIに仕立てて統合
3.統合されたAPIで”single view of the customer”を構成し、アプリケー
 ションネットワーク上でアクセス可能にする。
4.営業担当はこの”single view of the customer”とAPI連携したウェブアプリから顧客データに簡単にアクセスできるようになる

注文、請求書、顧客データを連携させ、”Single View of the Customer”のAPIとして4つ目のAPIを作成(右)

そして、今度は同じ注文、請求書、顧客データを活用して、新商品レコメンドをモバイルアプリに実装させたいという依頼をマーケティングから受けたとしよう。

この課題に対して、モバイルアプリのデベロッパーは:
4.上記3で作成した”single view of the customer”APIをアクセスし、IT部署との折衝なしに必要データを取得、コードを書くことが可能
5. ”single view of the customer”のAPIがあることで、モバイルアプリに付加価値をつけるための製品カタログAPIやWebのClickstream Data API(Adobeなどから)と連携させることに注力することが可能
6. ”single view of the customer”を活用することで、新商品レコメンドの実装における大幅な時間短縮が可能

“single view of the customer”、”製品カタログ”、”AdobeのWeb Clickstream Data”それぞれのAPIを連携、レコメンドアプリを実装(右)

様々なアプリが作成&追加され、新しい開発プロジェクトが過去の遺産をフル活用できるので、組織のデリバリースピードを飛躍的にあげることができる。一方、IT部署はアプリネットワーク状況の可視化し、パフォーマンスの最適化ができる。

ネットワーク上のアプリはネットワークにアクセス権限があるデベロッパーが誰でもアクセス&再利用することが可能でよりアジャイルな組織へ変革できる。

ぼんやりとだが商品の特長はつかめたので、Financialsも調べる。

FY2016の売上は$187Mn、粗利は$138Mn、粗利率は74%

・FY2014の売上$57Mn、FY2015 $110Mn、FY2016 $187Mn
 成長率は 91%(2014>2015)、70%(2015>2016)とダウン傾向
・売上構成はSubscriptionが81%、Professionalが19%
・粗利率74%
・FY2015にIPOした競合Apigeeの粗利率は60%なので、Muleは優秀

直近では最大級の売上規模でIPO

・S-1提出時の売上が$192MnだったTwilioと同等規模でIPO
・競合ApigeeのS-1提出時の売上は$62M

創業からIPOまでの経過年数は11年、同級生は。。。

・競合Apigeeと同じく11年でIPOに到達
 ・VCのFund運用期間は一般的に10年なので、Fundとしては期限が来るまでにLiquidationしたい。しかし、UberやAirBnBの様にIPOせずにPrivateのまま資金を調達可能なスタートアップや創業10年以上経ってからIPOするスタートアップがいることも事実。そうなると、投資で得たリターンをFollow-onに再投資するEvergreen Fundにするか、または、Follow-on様にGrowth Fundを組成する必要がファンド側はある。今後も気になりますね、このYears to IPOのトレンドは。。。

IPOまでの調達金額は$259Mで、TwilioとHortonworksと並ぶ
ACVは$82K(2014)から$143K(2016)、2年で約1.7倍

※ACV=Annual Contract Value(年間契約額/価値)

・顧客の低い離脱率、新規顧客のACV拡大、既存顧客のアップセルが貢献
新規顧客ACVは$77K (2014)、$117K(2015)、$169K(2016)と順調に推移
・直近のIPOだとServiceNowのS-1時のACVが$131Kだったので、ServiceNowをベンチマークして今後の成長率を占うのが良さそう

顧客数は590(2014)から1,071(2016)、2年で2倍

・顧客数も伸ばしつつ、ACVも上げていて優秀
・顧客数はServiceNowのS-1時と並ぶ

Net Retentionは110%(2014)から117%(2016)で順調に推移

・S-1提出後にCiscoに買収されたAppDynamicsとのNet Retentionと比較すると見劣りするが、それでも優秀。

ミルフィーユ状のStartupの教科書に出てきそうな美しいCohort

・FY 2012のCohortグループ売上は$4.5M(2014)から$11.2M(2016)まで拡大
・FY2016にACVが$1Mn以上の顧客に関しては、FY2012からACVが6xで拡大

競合は、IBM、Oracle, TIBCO、Apigee(Google)

競合は、
a. 自社開発やSIer
b. IBM、Oracle、TIBCOなどのレガシーベンダー
c. Apigee(Google)などのAPI管理ベンダー

Enterprise SaaS Champion Lightspeed Ravi Mhatre

・下記のBoard of DirectorsであるLightspeedのFounder Ravi Mhatre氏
1.Nutanix(2016年に$2.1BnでIPO)
2.AppDynamics(S-1提出後、Ciscoが$3.7Bnで買収)
・雨後の筍のように出てくるB2B SaaSの中で、どのように成功企業をパターン認識して見極めているのか非常に気になります。
・Docker、Gainsight、zscalerなど有望なB2Bスタートアップも控えているのでLightspeed祭りはまだまだ続きそう。Snapchatも8%保有しているし。

⭐️MulesoftのVC株保有率
 Lightspeed (17.1%)
 Hummer Winblad (15.8%): 2014年にIPOしたFive9の主要VC
 NEA (14.3%)
 Morgenthaler (7.5%)
 Sapphire(SAP) Ventures (6.8%) 
 Bay Partners (6.3%)
 Ross Mason (5.9%): Mulesoftの創業者

2009年にCEOを退任した創業者兼元CEOのRoss Masonも5.9%保有

・元々Mulesoftは創業者兼元CEOのRoss Masonが2003年にオープンソースプロジェクトであるMuleを立ち上げたのがきっかけとなり、2006年創業
・創業から3年経った2009年2月に現CEOのGreg Schottにバトンを渡す
・Gregは元Agile Software(Oracle)のSVP Marketing VP BDで、DG SystemsのVP Marketingを歴任したIT業界20年以上のベテラン
Crunchbaseによれば、Series Bまでに$16.5M、Series Cは2010年3月なのでSeries C以降の$243MはGregがCEOとして調達したことになる
・日本のスタートアップ事情は不勉強でわからないが、USの成功したスタートアップの沿革を調べると、特にEnterprise系スタートアップで多いが、途中で創業者からプロ経営者にバトンタッチしてGrowするケースを結構見る。例えば、2006年に創業したCoupa Softwareも、創業者からプロ経営者であるRob Bernshteyn(元VP of SuccessFactors)に2009年にバトンタッチ、2016年にIPOを実施している。
・このように、CEO職にもゼロからイチまで、イチからジュウまで、ターンアラウンドやExitが得意なCEOなど、スタートアップのニーズ毎のCEOプールが潤沢にあることにシリコンバレーではよく驚かされる。
・今回、仮に2,000億円でIPOした場合、創業者のRossにも単純計算で120億円くらい入ってくる。その120億円を使って、スタートアップを支えるサイド(インキューベーションやベンチャーキャピタル)に行くかもしれないし、今度はゼロからIPOまで自分でやる新会社をやるかもしれない。Rossが創業した会社に今回のVCがまた投資し、また新たなテクノロジーが生まれてくるかもしれない。Rossが次に何をするのか目が離せませんね。

IPO時のValuation/Market Capは”$1.5Bn から $3.0Bn”を予想

・各企業のS-1提出時のLTM(Last Twelve Month)RevenueとNTM(Next Twelve Month) Revenueを参考に、LTMとNTM Multipleを算出
・売上構成がSubscriptionとProfessionalの2つ、粗利率/顧客数/ACVが近しい、直近5年でIPOしている企業を比較した
・NTM Multiple 5.7x-11.3xを採用、$1.5Bn ~ $3.0BnでのIPOを予想
・IPO前に買収される場合は、20%Premiumで$1.8Bn~$3.6Bnを予想

Fin

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