米国住宅業界のGame-Changer “Redfin”を理解するための7つのポイント

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結婚、自動車、住宅業界のユーザに共通するものは何でしょうか?

・結構なお金がかかる
・人生に数回しか経験しない

人生に数回しか経験しないことから、「買い手」が情報を持ち合わせていることは少なく、「売り手」が専門知識や情報を蓄積しており、情報の非対称性が大きいのがこれらの業界の共通点だと思います。

今回紹介するRedfinは、情報の非対称性がまだまだ大きい米国住宅業界において、ユーザ視点に立脚したサービス提供で住宅業界の”Game-Changer” ”Disruptor”とよく呼ばれるスタートアップです。SuumoやHome’sの様に不動産メディアの顔を持ち、一方で住宅売買のブローカーとしての顔を持つRedfin。そんなRedfinが2017年6月30日にS-1(上場申請書)を提出したので早速S-1を読んで、ポイントを7つ書いてみました。

住宅メディアの業界最大手大 “Zillow”

Redfinの話をする前に、2011年に上場した住宅メディアの最大手であるZillowについても少し触れたいと思います。

Zillowはスタートアップを買収しながら、上場から5年で売上は約13倍(2011: $66Mn > 2016: $846Mn)に拡大。時価総額は$6Bn(6,700億円)を超えています。

Zillowの年間売上の推移

Zillowの売上の柱は広告掲載料。FY2016の売上$846Mnの内、71%の売上が”Marketplace Revenue: Real Estate”です。その内容は、大手不動産会社や独立系不動産会社に所属する”個人エージェント”が自らのポケットマネーで広告掲載料金で構成されます。

ZillowのFY2016の売上構成

そうです、米国では会社ではなく個人エージェントが広告掲載料を支払います。米国では日本と雇用形態が異なり、不動産ブローカー(例えば、Century21)に在籍するエージェントはCentury21からベースの給与をもらえる訳ではありません。自らが締結した住宅売買契約による報酬コミッションをCentury21と自分でその取り分を分けあいます。個人エージェントは会社に雇用されているというよりは、独立した個人の不動産エージェントがブランド力・集客力のある不動産会社に集まっていると表現した方が正しいかもしれません。個人で稼いだ報酬コミッションの取り分の中から、Zillowなどメディア出稿する広告掲載料を捻出しています。

Zillowの物件情報の横にあるエージェントの広告掲載枠、全面的にエージェントの顔写真が出てますね!

FY2015にZillowに広告掲載しているエージェントは92,366名いることから、このカテゴリーの年間売上$457Mn($644Mn x 71%)から92,366名で割ると、エージェント1人当たり年間約$4,947(78万円)をZillowに支払っている計算になります。米国には、ライセンスを保有するエージェントが200万人、86,000社のフランチャイズや独立系ブローカーがあるため、売上成長の白地はまだまだありそうです。

Zillowに広告掲載する個人エージェントの年間推移

①Redfinとは

少しZillowに触れたところで、Redfinにも迫っていきたいと思います。

S-1の企業概要を読むと、Redfinは:
・テクノロジーを最大限に活用した住居用不動産のブローカー
・全米80市場で住宅を売却/購入者のエージェント業を運営 とあります。

Zillowの様に住宅の物件情報を掲載して、Webやアプリ経由で住宅の購入や売却検討ユーザを獲得、そのユーザを自社が抱えるRedfinエージェントに繋ぎ、売買契約に繋げることを生業としています。

Missionは:
・“Our mission is to redefine real estate in the consumer’s favor”
・“Our strategy is simple. In a commission-driven industry, we put the customer first. “

住宅業界を住宅購入や売却するユーザ視点で再定義する。Commission-driven、つまり、情報優位にあるブローカーやエージェントファーストな業界から「ユーザファースト」へ移行させることがミッションとあります。

米国の住宅売買において、通常住宅購入者=買い手は「買いエージェント」、住宅売却者=売り手は「売りエージェント」と契約します。私が1億円の家を売却した場合、私は売りエージェントに6% = 600万円を支払い、売りエージェントが3% = 300万円を取り分として、残りの3% = 300万円を買いエージェントへコミッションとして支払います。このコミッションが占める割合が住宅業界は非常に大きく、全体の市場規模$1.5Trillionの内、実に$75Bnがコミッション市場です。それは住宅の売り手がエージェントに支払っている金額です。

Redfinは、Redfinエージェントが売りエージェントとなる場合、売り手に求めるコミッションは3%としています。業界平均は6%なので半分です。買い手を代表する買いエージェントの場合は2–3%を取りしますが、買い手に$3,500を返金する仕組みになっています。2016年の返金額は$62Mn(70億円)でした。

テクノロジーを最大限活用しながら、集客や自社エージェントの業務効率を改善し、コミッション割合を下げて業界で勝負しようとしているのがRedfinであり、業界の商習慣であるコミッション割合をDisruptする先鋒であることが”Game-Changer”たる所以です。

②創業から上場まで13年、FY2016の売上$267Mn(300億円)のRedfin

Zillowより早く2004年にシアトルで創業したRedfinですが、創業から上場まで13年経過しており、Zillow(2006年創業で上場は創業5年後の2011年)と比べると長い道のりだったようです。売上は年率43%前後で過去2年成長しています。

広告掲載課金のZillowと成約ベースの手数料を柱とするRedfinでは、キャッシュフローの観点で大きくビジネスモデルが異なります。住宅売買が成約するまでは平均90日~120日かかるため、入金まで時間がかかるのがRedfinのビジネスです。Zillowは広告掲載時点で売上をRealizeしてnet30–60で入金されるビジネスです。VCから調達したお金や自社で稼いだお金を再投資するスタートアップにおいて、このキャッシュフローモデルの違いが成長に及ぼす影響がある程度あったのではと思います。

③Zillowにオンライン集客で追いつけるかが鍵

RedfinはZillowの様な不動産メディアの顔(下左図)を持ちつつ、不動産を売買できるエージェントを保有するブローカー(下右図)であることが特長です。

不動産を売買するには、各州でブローカーライセンスを保有する必要があります。このブローカーライセンスを保有することで、Redfinが持つことができ、ZillowやTruliaなどライセンスを保有しないメディアが絶対持てないものが1つあります。それは、全米の各地域に800以上あるMLS(Multiple Listing Service)の「直接アクセス権」です。

MLSは、不動産物件情報が掲載されたDBで日本でいうレインズです。どの家が売り出し中か、成約済みかなど物件の更新情報をリアルタイムに知りたいエージェントは、MLSに会費を支払うことで物件情報にアクセスできます。それはRedfinも同様に直接アクセス権を保有しています。

物件情報の質(物件情報の更新頻度や鮮度)という観点で「MLSへの直接アクセス権」を保有することがZillowに対しての競争優位な点でした。ちょっと前までは。。。この記事によると、ZillowはMLSの物件情報をシンジケートするListhubからデータフィードを受けていましたが、Listhubを運営するMove.comがNews Corpに2015年1月買収されたことにより、Listhubからデータフィードを受けるための契約更新ができなかったとあります。そのため、Listhubを介さず、BrokerやMLSに対してZillowに直接Feedしてもらえるよう戦略を変更しました。今では550のMLSがZillowにFeedできる状態にあるようです。。つまり、「MLSへの直接アクセス権」を保有することによる物件情報の質に関してはZillowと同質化してきたことになります。

物件情報の量に関しては、”For Sale By Owner(エージェントを介さず物件オーナーによる直接取引物件)”などMLSには掲載されていない物件情報を保有するZillowに分があります。

2017 Q1のZillowのUnique User数は166Mn、Redfinの月間ビジター数が20Mnです。両社ユーザカウントの定義が異なりますが、集客観点では物件の質では同質化、量ではZillowに分があるため、今後Zillowとの差が縮まるのか開くのか注目していきたいと思います。

④売上の91%がBrokerage事業

Zillowなど住宅メディアと異なるのは、Redfinがブローカー事業ができることです。Zillowの場合、購入検討したい物件情報に問い合わせしたユーザ情報を広告掲載しているエージェントに渡します。Redfinの場合は、ユーザ情報を自社が保有するRedfin エージェント、または、Redfinが展開していないエリアの物件への問い合わせの場合はPartnerエージェントを紹介します。

FY2016の売上構成を見ると、売上の91%がRedfinのエージェントが住宅の売買契約をするBrokerage事業、6%がPartnerエージェント紹介における紹介手数料売上。Zillowの様な広告掲載課金は実施していません。

⑤物件情報の閲覧から内見予約が可能なRedfin

Opentableの様に物件の内見予約がリアルタイムに可能なのがRedfin(左図)です。Zillow(右図)の場合、物件に対してはエージェントに問い合わせのみを提供しています。ビジネスモデルの差が透けて見える、UIの差ですね。

⑥Machine LearningやAIを活用した、物件の更新情報のPush通知

自社サイトのClosedデータ(物件情報へのアクセス履歴、内見予約履歴、Offerの提供履歴)とMLSの物件更新データ(直近の売買履歴データ、価格変更履歴、Closing Dateなど)を掛け合わせ、Machine LearningやAIを活用して、「今後売却することを踏まえてどこに住宅を購入すべきか、売却の相場を踏まえていつ売却&引っ越すべきか」などをRedfinはユーザへ提供しています。

今まで人力で不動産エージェントが作成してユーザーへ提供してきた情報(Comparative Market Analysis(CMA))を、Redfinは自動生成して自社のエージェント経由で瞬時に手軽にユーザへPush通知することが可能です。

⑦住宅の買い付けを行う”Redfin Now”

「今後売却することを踏まえてどこに住宅を購入すべきか、売却の相場を踏まえていつ売却&引っ越すべきか」を通知できると前述しましたが、そんな情報がわかるんだったら、Redfinが住宅買って販売したら?と思った方もいるかもしれません。

実は2017年1月にRDFN Ventures, Incという子会社を設立、“Redfin Now”という売却目的で住宅を買い付ける事業をスタートさせたようです。B/Sを読むと、2015年末時点で$1.8Mn分しか住宅アセットを購入していないようなのでまだまだテスト段階のよう。ZillowがInstant Offerというサービスを始めたり、OpendoorやOfferPadのスタートアップが出てきたり、今後中古住宅を売却するユーザを獲得するビジネスの争いが激しさを増しそうです。

以上、Redfinを7つのポイントでざっくり書いてみました。今後、Redfinの住宅買付事業がどのくらい成長するのか楽しみです。

Fin

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蓮沼 貴裕(Takahiro Hasunuma)

Monoful Venture Partners←コマツ←リクルートI 投資先は、Shipbob、Vesta Healthcare、Blacklane、Fishbrain、Dispatch(VEP)、Brickworks (b8ta)