喫茶店とカフェの違いはなんだろう。喫茶店に行くたびに考える。いまのところの私の答えは、店の主体が店主か客かの違いかな、と思ってる。
いい喫茶店は、店主の美学を感じられるお店。そんなお店の入り口は大体ちょっと奥まっているから、知らない人の家に入るようで緊張する。でも少しの勇気を出したら、予想以上の世界が広がっていたことが何度もあるから、そこはちょっと頑張ってみよう、と自分の背中を押す。
いい喫茶店を見つけたときの嬉しさって、好きなカフェを見つけたときとはまたちょっと違う。席を選ぶとき、水をもらうとき、メニューを読み込むとき、本棚を眺めるとき、流れているBGM、ひとつひとつの要素から「このお店の価値観はなんだろう?」と考える。ルール、というとなんだか厳密に聞こえるから、美学っていうのがちょうどいいと思う。店主は、どうしてこんなお店にしたんだろう?頭の中を覗いているみたい。ここではどんな時間を過ごすのがいいかな?と自分も一緒に考えてみる。
久しぶりにこんなことを考えたのが、滅多に来ない内幸町で、コーヒーが美味しいらしい、という情報を得て辿り着いた「草枕」。
店内に足を踏み入れた瞬間、ここは当たりだな、と心臓が高鳴る。
昼なのに薄暗い店内には落ち着いたクラシックがかかっていて、文庫本が並んだバーカウンター(喫茶なのに)の奥にはギャルソンの格好をした店主さんと奥さん。
はにかんだ笑顔で手渡してくれたメニューには「うすいめ」「ふつうめ」「こいめ」というコーヒーの種類。「ふつう」じゃなくて「ふつうめ」。カフェオレじゃなくて「牛乳珈琲」。
昭和風な内装と落ち着いた隠れ家の雰囲気だけでもう素晴らしい気分だっていうのに、コーヒーがまた最高に美味しかった。「ふつうめ」をお願いしたけど、すばらしくマイルドで甘い口当たり。豆の風味はちゃんとあるのになんでこんなに優しいんだろう?一口飲むたびに、緊張が溶けていきそう。
本棚には近代小説や美術・美学本、建築史、文化的な本が並んでいるけど、なぜか下段には美味しんぼの棚もある。美味しんぼ、恐るべし。うしろの席の人たちは、どうやら小説談義をしているみたい。
仕事が溜まっていたけど、ここでパソコンなんて広げるのは野暮かなと思い、次の打ち合わせまでの間はゆっくりすることにして本棚を物色し、見つけた「蕎麦屋酒」という本を読破。うーん、すぐにでも蕎麦屋酒したい。載っていた西早稲田の「もり」に行かなくては。
ここにいたのは1時間程度なのに、、小旅行に行ってきたみたいに気分が変わった。贅沢な時間とはこのことかな。
草枕、またショートトリップしに来よう。