アソシエーターとしてのMedium あるいは潮目の発生

倉下 忠憲
6 min readJun 4, 2016

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以下の放送を聞いてちょっと考えたこと。

ライフハックLiveshow #187「Writer / Blogger」はライターとブロガーの違いについてのあまり聞けない話 | Lifehacking.jp

まず、率直に書きましょう。私はいくつかMediumに記事を投下していましたが、そんなに楽しくありませんでした。

いや、「楽しくない」というと語弊がありそうなので、もう少し詳しく書いてみます。

ほとんど同じくらいから取り組んでいたHonkureという「本」の紹介メディアがあります。そのメディアの運営は非常に楽しいのです。体感的に言えば、一つ記事を投下するたびに「メディアが育っていく」ような感覚があります。それが大げさに聞こえるなら、砂場で大きな山を作っていたり、レゴブロックで彦根城を組み立てているような、そんな感覚に置き換えてもらってもよいでしょう。

ともかく、「自分の場所」が少しずつ大きくなっているような感覚がそこにはありました。

それと比較すると、Mediumにいくら記事を投下しても、そのような感覚はほとんど生まれてきません。簡単に言えば、「ここは自分の場所ではない」という気持ちがぬぐえないのです。

私の中では、「自分のブログを持つ」というのは、ウェブに自分の場所を作ることです。その場所は、人によっては「庭」のようなものになるかもしれませんし、「会議室」のようになるかもしれませんし、「ショップ」になるのかもしれません。ともかく、そこには「場所」の感覚が強くリンクするのです。

その視点で見れば、Mediumというのはフリーマーケットに出店しているようなものです。たしかにそこには自分のスペースがあるのですが、やはり借り物です。もちろん、それ以外の場所だって、ある意味では借り物です(地球の所有権を誰が主張できるでしょうか)。が、ここではそうした定義的な話ではなく、あくまで「どう感じるのか」の感覚の話に絞っています。

ブログは、「俺の話を聞け〜」を大声で叫んでも良い場所なのです。それが絶対的に肯定される場所なのです。そして、それを自分で(デザインやファンクションを含めて)作り上げる場所なのです。

私という隠れ家ブロガーの心意気をブロガー一般にまで敷衍するのはだいたいにして無理がありますが、それでも似たような感覚を覚えているブロガーさんはちらほらいるのではないでしょうか(おそらく古いブロガーさんでしょう)。そういう人は「自分の場所」から出ることに、あまり良い気持ちを覚えません。PVが分散するとかではなく、場所の感覚的に違和感があるからです。

という話と共に、動画ではライターさんが自分のメディアを持つことにあまり積極的ではないというお話が紹介されていました。

もう、びっくりするくらい(私のような)ブロガーとは逆です。ですので、基本的にこの二つのタイプは交わることがありません。理念というより嗜好がまるで違うからです。

でも、と私は思いました。Mediumがその交差点になるのではないか、と。

ライターさんからすれば、(いろいろな意味で)面倒なブログを立ち上げる必要がありません。更新頻度を気にする必要はありませんし、Mediumには「書くことに必要なもの」がだいたい揃っています。アクセス→テキストを打つ→写真を添える→公開。これだけです。ややこしい操作は少なく、だいたい見たとおりに記事を書けます。ブログのデザインなりプラグインを考慮する必要もありません。ただ書けばいいのです(もちろん、良い記事を)。

ブロガー的な「ここは俺の場所なんだよ」といったことを意識しなくても記事をウェブに向けて放出できます。これはメリットでしょう。

では、ブロガーはどうでしょうか。

私はMediumのimportに魅力を感じています。自分のブログで書いた記事を、そのまま取り込むことができる機能です。URLを指定すれば、本文と画像を取得してMediumのエディタに反映してくれるのです(画像はたまに失敗しますが)。あとは微調整して、PublishすればOK。非常に簡単です。

このimportと、記事本文をコピペして貼り付けるのと何が違うのかと言えば、記事末にその記事が転記されたものであるということが自動的に記入されることです。これは小さいながらも大きなことで、Mediumが「ここを本拠地にしなくたって構わないんですよ」とアピールしていることとイコールなのです。

※importすると、こうした表記が追加される。

どういうことかと言えば、ブロガーは別に自分の場所から立ち去る必要がないのです。単に記事を「出張」させれば済むのです。自分のブログは自分のブログで運営して、必要に応じてMediumに記事をimportさせればMediumというフリーマーケットに出店できます。

そう考えると、Mediumという場所は、潮目になりうる可能性を秘めています。

(場所にこだわる)ブロガーと、(場所にあまりこだわりたくない)ライターが接する海域です。もしかしたら、そこは新しいコンテンツの好漁場となるかもしれません。

だいたいにしてタコツボ化に進みがちなウェブにおいて、潮目を発生させる場(プラットフォーム)は、新しいものを生み出す可能性を秘めている、はずです。Publicationはそれを加速させるでしょうが、その話はまた別の機会にでも。

Originally published at rashita.net on June 4, 2016.

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倉下 忠憲

物書きです。R-styleというブログを運営しています。ビジネス、経済、政治、投資、為替、麻雀、アニメ、ゲーム、ガンダム、iPhone、ライフハックなどに反応しやすい性質をもっています。