Apple Musicにするか?それともSpotifyを待つか? SpotifyとGoogle Play Musicを使って感じた音楽ストリーミング・サービスを選ぶ決め手

Ray Yamazaki
7 min readJun 8, 2015

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「人と音楽には長い付き合いの歴史がある。そして、音楽は常に変化してきたのであり、私たちはその変化の幾つかで大切な役割を果たしてきた」とティム・クック氏は壇上で語りかけた。すべてのiPhoneにあらかじめ組み込まれたひとつのアプリで「音楽のダウンロード」と「ストリーミング」、そして「ラジオ」を楽しめるApple Musicの紹介だ。

日本ではサブスクリプション型の音楽ストリーミング・サービスはまだ浸透していない。しかし、世界に目を向けると、パーソナルな音楽ステーションを作れるPandora、見事なフリーミアム・モデルで大成功したSpotifyを筆頭に、GoogleやAmazonといった大企業はGoogle Play MusicやAmazon Prime Musicといったサービスを立ち上げ、さらにJay Zのようなアーティストが中心となるTIDALのようなサービスも本格化するなど音楽ストリーミング・サービス業界は混戦が続いている。

初期の頃は、視聴できる曲数の多寡、曲を最後まで聴かずに「スキップ」できるか、「プレイリスト」や「パーソナライズ・ステーション」を利用できるか、1曲ずつではなく「アルバム」単位で聴けるか等で各サービスがしのぎを削ってきた。しかし、今ではどのサービスも数百万曲以上を聴けるのは当たり前だし、その他についてもむしろない機能を探す方が難しく、要するにどこも似たり寄ったりで差別化が極めて難しい。そのため、先行者の優位性を現在まで維持し、無料で利用できるSpotifyが頭一つ抜きん出たままというのが現状だ。

そこにBeats Musicを買収したAppleがiTunesのセカンド・ウェーブを起こすべく、iTunes RadioとBeats Musicの進化バージョンを投入してきた。言うまでもなくAppleのブランド力は絶大だ。それによって日本でいままで音楽ストリーミングにそれほど関心がなかった層も今回の発表で興味を持って導入を検討しているかもしれない。そこでSpotifyとGoogle Play Musicを数年使ってみた筆者が感じた音楽ストリーミング・サービスのメリットとサービスを選ぶポイントを簡単にまとめたい。

まず、結論から言うと音楽ストリーミング・サービスを導入する最大のメリットは「自分の音楽の世界を広げてくれる」という点につきる。

リリースされたばかりの曲だろうがアルバムだろうが、次から次に聴きまくれる。定額もしくは無料なので、いちいち財布と相談しながら迷うという瞬間が全くない。そのため、ジャケットを見ただけでは絶対聴くことはなかっただろうなというような曲も聴くことが多く、「おお!」という発見があったりもする。しかも、YouTubeで音楽を聴く場合と異なり、サービスによってはニューリリースのアルバムのジャケットがズラッと並んでそこからアルバム単位で次々聴けたり、曲やアルバムのランキングが表示されて流行っている曲をその場でチェックしてすぐに聴くことが出来る。

これらは「自分で音楽を発見する」場合に威力を発揮するのだが、実は「自分の音楽の世界を広げてくれる」のにより一層大きな役割を果たすのは、昔も今も変わらず友人から借りたCDであったり、好きな映画でかかっていた曲であったりする。きっと誰もがカセットテープやCD、MDを友人と交換したり、オススメ曲のリンクをシェアした経験があるだろう。そして、友人から勧めてもらった曲やアーティストを聴いてみて、「あれ?けっこういいなぁ」と感じた瞬間があったはずだ。曲やアーティストへの共感を通して、相手と少しだけ深くつながった気がするし、全く別のジャンルは自分ではなかなか踏み込めないものだけに新鮮な体験だ。そして現在、音楽ストリーミング・サービスの様々なソーシャルな機能は、昔、私たちがやった「CDの貸し借り」をもっと壁の低いものにしてくれる。

この点、Spotifyでは自分が聴いている曲をfacebookでシェアできたり、友達の聴いた曲がお勧めとして表示されたりする(この機能は良かった。「あいつが聴いてるこの曲はどんな曲だろう?」と気になって聴いてみたり)。さらに面白いのは、プレイリストを仲間とコラボレーションで作成できたりもする。誰でも曲を追加できるので、例えばバーベキューの前に「BBQソングリスト」をみんなで作れば、バーベキューを楽しみながら「あ、これ俺の曲だ」と盛り上がるはず。

「自分で音楽を発見する」楽しさと「友人とシェアする」楽しさ、これらが相まって自分の音楽の世界を広げてくれる。そこに音楽ストリーミング・サービスを利用するメリットがある。

一方、どのサービスにするかの選択は難しい。Apple Musicにすべきか?それともSpotifyにするか?それとも他のサービスにするか?今日の発表を見るとApple Musicのサービスとしての最大の売りは「キュレーション」にあるようだ。

BeatsOneという最初のラジオステーションではZane LoweやEbro Darden、Julie AdenugaといったDJたちがロンドン、ニューヨーク、ロサンゼルスから24時間「こんな曲はどう?」とユーザーに提案してくれるし、Appleの音楽エキスパートたちはすべてのジャンルでそれぞれのプレイリストを通してユーザーに新しい音楽を見せてくれる。それはAppleのエディー・キュー氏、曰く「単なるアルゴリズムではなくエキスパートによる提案」とのことだ。

考えてみるとニュースについて私たちはすでにスマートフォンでキュレーションの魅力と便利さを体験している。ニュース・キュレーション・アプリをひとつはスマートフォンに入れていて、毎日それをチェックしているという人も多いだろう。膨大なニュースから読むべきものを選んでくれるアプリによるキュレーションに慣れたユーザーにとっては、AppleがApple Musicで提供しようとしている一番のウリである「キュレーション」はひょっとするとアルゴリズムで最適化されたものとは違う視点の新たな音楽的発見を与えてくれるかもしれない。

あとは、どういう類のソーシャル機能を好むかだ。Apple Musicの「Connect」はアーティストとユーザーをラフなバックステージ・スナップ、手書きの歌詞、編集前のビデオで結び付けようとする。他方、Spotifyはユーザー同士を結び付けようとする。ソーシャルな機能が豊富で無料ユーザーのプランがある方が良いならSpotifyだろう。

Netflixが今秋日本に上陸する。さらに、Apple Musicに刺激されSpotifyの国内サービス提供開始も加速するかもしれない。いずれにせよ日本にとって今年は「ストリーミング元年」になるはず。膨大な音楽や映画・ドラマといったコンテンツを「消費」するのではなく、そこから「自分の世界を広げる」。そのきっかけにApple MusicやSpotifyがなるのなら始めてみるのも良いかもしれない。

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