デザインとプロダクト開発における「割れ窓理論」

Ray Yamazaki
6 min readJun 21, 2016

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by Tobias van Schneider
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私が「割れ窓理論」に出会ったのは、数年前、当時働いていたSpotifyの同僚が勧めてくれたのがきっかけでした。

「割れ窓理論」とは、地下鉄の落書きを消したりすることで都市の環境をきちんと整備すると、破壊行為や路上飲酒といった小さな犯罪の発生率が下がり、街に秩序を好む雰囲気が生まれるというものです。そして、それがより深刻な犯罪の発生を減少させるというのが最大のポイントです。

比較的最近のニューヨークの例を紹介しましょう。

1990年代にニューヨークの犯罪発生率は劇的に下がりました。重大犯罪がこの期間アメリカ全土で28%減少したのに対し、ニューヨークは56%以上も減少しました。どうして短い間にニューヨークの犯罪発生率はこれ程大きく落ち込んだのでしょう?

一般的に、こういう変化が起きるとニューヨーク市警が相当厳しい取り締まりを行ったのだろうと思われがちです。市民への規制や統制を一層厳格に実施したのだろうと。でも現実はずっとシンプルなのです。多くの人は元市長のルドルフ・ジュリアーニ氏の政策が、この変化のきっかけになったと考えています。彼の優れた政策のうちジュリアーニ氏自身が最も重視しているのは軽犯罪の取り締まりで、その手法は「割れ窓理論アプローチ」として知られています。

この手法は基本的に、地下鉄のラクガキを除去したり「割れた窓」を直したりして街を綺麗にすることが街全体の安全に繋がり、それによって犯罪が減少するというものです。ですが議論もあります。凶悪犯罪にフォーカスする代わりに重要度の低そうな問題ばかり真っ先に取り組もうとしているかのように見えるからです。

元市長のジュリアーニ氏は次のように言っています:

確かに殺人と落書きの間には大きな差があります。ですが両方とも犯罪であるという意味では同じです。そして、軽微な犯罪を許容する風潮は、より重大な犯罪をも許容することに繋がりうるのです。

周りの環境のあり方が、あなたや他の人たちの行動に大きな影響を与えるというのがここでの本質です。窓が割れた家を見かければ、たとえ犯意を持っていなくても自分だって窓を壊していいだろう、さらにそんな家には押し入ってもいいかもしれないと思いがちなのです。

さてここで「割れ窓理論」の別の実例もご紹介します。

1969年、スタンフォード大学の心理学者であるフィリップ・ジンバルドー氏はある実験を行いました。彼はナンバープレートを付けず、ボンネットを上げたままの車をブロンクスとパロアルトの通りに停めておきました。

すると、ブロンクスの車は、駐車してから10分以内に荒らされました。一方でパロアルトの車は手つかずのまま1週間もそのままでした。そこでジンバルドー氏自身がパロアルトの車の窓を叩き割ってみたところ、見たところ品の良さそうな白人の通行人がすぐに一緒になって車を壊しにかかったのです。

デザインとプロダクト開発にも役立つ「割れ窓理論」

最近あるプロジェクトに取り組むうちに私はある事に気付きました。ごく些細な事柄を数多く後回しにしていたのです。「後でやろう」と言いますが、これは古典的な間違いなのです。

結果的に、チームとしての私たちはこのプロジェクトそのものへのやる気をどんどん無くしてしまったのです。あたかも全てがバラバラになるかのような感じがして嫌な気分でしたが、一体何が問題なのかはさっぱり分かりませんでした。

ここで「割れ窓理論」に思い当たった私は、1日かけて全ての割れ窓を修理しました。細部に特に気を遣い、幾つかの要らないコードを捨て、小さく瑣末に見えたディテールを全て修正したのです。

後日、私はそのプロジェクトをもう一度振り返ってみました。すると、本当の意味で大きな変化は何も起きていないにも関わらず、そのプロジェクトは殆ど別物になったかのようでした。

全ての「割れ窓」を修理することによって、急に優れたデザインを再び選び取ることが出来るようになったのです。仕事にもっと集中し、やる気が出てきました。何より「割れ窓」がそれ以上増えることがなくなったのです。

大体のところ周りの環境をデザインし整えることによって、私たちはそれへの態度をあっさりと変えます。たくさんの割れ窓のある廃屋を見ると、自分も一緒になって面白半分に石で窓を割っても悪くないだろうと思ってしまいがちです。悪意があるわけでも、自分を犯罪者と認めているわけでもないのにです。

周りの環境がこのような行動を促し、時には転換点の役割すら果たすのです。そしてこれらは私たちの潜在意識下で気付きもせずに起きます。

プロジェクトに取り組んでいるとき、私はいつも私の心の奥で「割れ窓理論」を意識しようとしています。プロジェクトがうまく行かなくて辛い時はいつも、1〜2日かけて全ての瑣末な事柄を片付けるのです。

この事を心に留めて、やる気に満ちた月曜を迎えて下さい!
トビアス

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TobiasSemplice(デザイナーのための新しいポートフォリオ・プラットフォーム)のデザイナーでありメイカー、そしてCo-Founderです。また、NTMYというショーのホストをしています。ー また、かつてSpotifyのデザイン・リードとAIGA New Yorkの重役でもありました。

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