ハッシュタグエコノミーの幕開けは「文脈価値経済」の幕開けでもある

Ryo Takahashi
6 min readDec 18, 2017

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Instagramのハッシュタグフォロー機能の実装について、社長のブログエントリーに感化されて、僕も久しぶりにブログを書いてみることにしました。

先週、インスタのハッシュタグフォロー機能が発表されました。

Instagram、ハッシュタグのフォローが可能に (CNET Japan)

これまでハッシュタグは、自分がその時見たいと思ったコト(つまりニーズが顕在化したコト)をハッシュタグ検索で探して出会うものだったのが、探さなくても自分のフィードに流れてくるものになったということです。一度気になったコトを調べて終わりではなく、長期的な関心ゴトとしてストックし、定期的にフィードに流れてくれるのはユーザーにとってもベネフィットは大きい気がします。

これにより、企業のマーケティングはどのように変わるのでしょう。

まずひとつは、ハッシュタグがよりトライブ(Tribe)と親和性の高いものになっていくことが予想されます。つまり、ハッシュタグそのものが、ユーザーの「好き」が集約された表現になると考えられます。正確にはすでにそのようなハッシュタグは存在していますが、それがもっと強まっていくと考えられます。実際に「#〇〇とつながりたい」「#〇〇派」「#〇〇大好き」「#〇〇のある暮らし」など、ハッシュタグがユーザーの「好き」な感情と結びついている例は数えきれないほどあります。

ソーシャルメディアがユーザーの公園だとすると、ハッシュタグは公園に敷かれたユーザーのレジャーシートと言っていいかもしれません。ユーザーが自分の好きなレジャーシートに集まっている中で、企業はどのレジャーシートにご一緒するかを考えていくことが、マーケティング戦略全体を考えるうえでもとても重要になってくると思います。これはソーシャルメディアマーケティングだけの話ではなく、企業のブランドそのものがコントロール不能になっている中で、ユーザーのブランドに対する意味づけこそ、ブランドの輪郭をかたちづくっている時代になっているからです。

そして、公園のレジャーシートには、広いシートもあれば狭いシートもあります。ただ、ひとつ重要なことは、このシートの広さは言葉の意味の広さではなく、人が集まる”文脈”の関心の高さによって決まるということです。

たとえば「旅行」という公園を見てみましょう。

旅行自体のハッシュタグ「#旅行」の投稿数は約730万件。とても多くの投稿がされています。次に旅行に関連するハッシュタグの一部を見てみると次のようなかんじになります。

この中で、フォローされるハッシュタグはどのようなハッシュタグになってくるでしょう。僕個人的には「#旅行」そのものよりも、「#旅行写真」「#旅行コーデ」「#旅行記録」などのハッシュタグの方が、結果的にそのハッシュタグに関心の高いユーザーが多く集まるのではないかと思っています。

つまり、投稿されるハッシュタグの数と、そのハッシュタグのフォロワー数はかなり差が出てくるのではないかと思っています。現在、ハッシュタグをフォローしても、そのハッシュタグをフォローしているユーザーの数を知ることはできません。つまり、そのレジャーシートにどれだけの人が集まっているかはInstagram上では可視化されていないのです。(ちなみにこれは絶対可視化すべきだし、してほしいと願っています。)

「#旅行」そのものよりも、「#旅行写真」「#旅行コーデ」「#旅行記録」などのハッシュタグのフォロワーが多くなると思うのは、これらのハッシュタグが人の「好き」が集まる、トライブを具体的に表現しているハッシュタグだからです。もちろん一般的に旅行というテーマ自体の関心が高いのは疑いようもないですが、漠然と「#旅行」というハッシュタグをフォローしていても、なんとなくリア充な写真しかフィードに流れてこず、かつ投稿数も多いので途中でフォロー解除してしまうのを想像してしまいます。

それよりも「#旅行写真」「#旅行コーデ」「#旅行記録」など、ユーザーによって特定の文脈で意味づけされているハッシュタグの方が、ユーザーの関心が具体的に表現されているため、マイクロトライブを形成しやすいのではないでしょうか。これらのハッシュタグの方が、フォローすることによってフィードに流れてくるユーザーの期待値と投稿内容のマッチング度合いが高いと考えられます。

つまり、ハッシュタグの投稿数とそのハッシュタグのフォロワー数にはおそらく大きなかい離が生まれること。また、フォローされるハッシュタグは投稿内容がユーザーの期待値と合っているかどうか、つまりはマイクロトライブを形成しやすいかどうかがポイントになってきそうです。

これらのハッシュタグはユーザーの経験やストーリー、感情を表現した「文脈価値」そのものといえます。今回は旅行を例にとりあげましたが、旅行に関して特徴的なのは、旅行というイベントそのものよりも、それと同じぐらい旅行前の出来事をどう楽しんでいるかを表現するハッシュタグが多いこと。ユーザーの文脈価値表現は旅行に行く前の段階でかなり多くのトライブに分かれて表現されていると考えられます。

このように考えていくと、旅行に関連する企業は「#旅行」というハッシュタグだけを追いかけているだけでは、ユーザーの関心ゴトを置き去りにしたマーケティングをしてしまう危険性があります。

これまで、ソーシャルメディア上のコンテンツは「WHO(誰が言ったか)」もしくは「WHAT(何を言ったか)」が重要とされる世界でした。これに加え、身の回りのモノやコトをどのように楽しんでいるのか、「HOW(どんな文脈で)」の表現が重要になる世界が加わったといえるのではないでしょうか。

ユーザーの意味づけられた文脈によってブランドがかたちづくられていく時代において、これらのマイクロトライブに凝縮されたユーザーの熱量を大きな規模から小さな規模まで網羅的に把握していくことが求められると思います。また、それらのハッシュタグがブランドとどれぐらい近い距離にあるのかを測っていくことも不可欠になるはずです。

ハッシュタグに表現されたこれらの熱量にレバレッジを効かせ、マーケティングに活かせる企業が、文脈価値経済にシフトした環境で、競合優位を築いていくのではないかと思います。

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Ryo Takahashi

トライバルメディアハウス/チーフコミュニケーションデザイナー