新卒でソーシャルセクターに飛び込んで感じること

HLABは創業から8年目に入りました。

久し振りに訪れた雪のニューヨークから帰国し、今日で27歳を迎えました。同じく、HLABもちょうど8年目に入りました。

HLAB」を創業したのは、2011年2月24日のこと。2009年からの2年間に渡る準備期間を含めると、実は10年目の節目になります。

HLAB当初のメンバーでサマースクール構築の議論(2012年 | 京都・三十三間堂にて)

当時、私はマサチューセッツ州ケンブリッジにある、ハーバード大学の学部生で19歳でした。

深夜の寮の食堂で、週末のMIT Media Labの一室で、アジア研究の大家、エズラ・ボーゲル教授の邸宅にピザを持って押しかけて・・・。当時議論した多くの仲間は、今では連日、政治から航空宇宙まで、それぞれの分野で日米のメディアの一面飾る大活躍しています。

一介の学生チームのプロジェクトが多少なりとも社会に貢献できたことは、「創業から5年後は15.0%、10年後は6.3%。20年後は0.3%」とも言われる企業の生存率を考えれば、喜ばしい限りです。

多くの不義理がありながらも、右も左も分からない未熟な私に対して親身に接してくださり、支えてくださった皆様には、一人ひとり御礼差し上げたいです。


スターバックスでのふとした会話は、世界に2000人の卒業生を擁する学びのコミュニティへ。

現在まで続く組織の名称が決まった会議(2011年5月 | 小林の自宅にて)

振り返れば、そこから10年間は純粋に、「あ、あの時こんなものがあったらよかったな」と思う教育環境を、身近なところから一つずつ形にしていく地道な作業でした。非常にシンプルな行動指針です。

裏を返せば、そもそも学者志望だった自分や仲間には、起業する気も、事業化する気も毛頭ありません。

きっかけは一杯のコーヒー。2009年4月に一橋大学に入学した私は、たまたま入った国立のスターバックスで、隣りに座った友人と話し込みました。一杯のコーヒーで、気づけば3時間が過ぎていました。

盛り上がったのは、「高校時代に外の世界に全く触れられず、目隠しされた状態で大学や専攻を選び、入学1ヶ月目で目標を見失ってしまう違和感」について。

「身近な課題で、全く違う学校の子とこれだけ共感するなら、なにか構造的な問題があるのでは?」との思いから、緩やかにチームが発足したのです。

数年前の自分たちが欲しかった教育環境を、自分たちの手で作る。

政策にも、ビジネスにも経験のない18歳の集まりにとって答えは明確、何もなかったのです。唯一有利なのは、課題の当事者に一番近い学生であることのみ。であれば、とくにかく足を動かそう。

世代や国境を越えて学生が集い学び合うレジデンシャル・エジュケーションのモデルは、2016年にGood Deisng賞を受賞

そう思い立ち、まず訪れたのが、大学裏にある母校の桐朋高校。以来、「数年前の自分たちが欲しかった教育環境を作る」ことだけに純粋に取り組んできました。

大学の友人とともに、高校の先生と後輩3人をファミリーレストランに連れ出し話すことから始まったのが、今に続くHLABの教育事業でした。後にサマースクールの形を取り、現在までに世界中の大学と企業に、延べで2000名以上の卒業生が巣立ちました。

サマースクールに至る当時の思考のプロセスは、2年間の議論を経て、初期の企画書(*1)に整理されています。このプロセスが、業界用語で、Theory of Change (ToC | 社会変革の理論)を作る作業だと知ったのは随分後のことです。(笑)

おかげさまで、

・B to Gのモデルで徳島県や長野県との協同事業を5年以上に渡り運営させていただいたり
・2016年には事業運営の仕組みでグッドデザイン賞をいただいたり
・ファーストリテイリングの柳井正さんの財団と後輩の留学を支援する民間最大規模の給付型奨学金の創設と運営(*2)をご一緒させていただいたり
・教育環境を空間からデザインすべく実験的教育寮「The House by HLAB」を設立したり

と、ジェットコースターながら、本当にエキサイティングな日々となりました。


ラッキーだったのは、学生中心でチームを作ったことで、本当に多様なExpertise(専門性)に富んだチームに育ったこと。

創業当時のメンバーの複数名がトビタテ留学奨学金の運営に関わったことは、奨学金の開発と運営で非常に助けになり、首相官邸の国際広報室にいたことは、海外の大学とのプロジェクトを円滑にしました。

ハーバードの1年次のルームメイトが、同大のAlumni Office(卒業生担当事務局:数年に一度の盛大な同窓会や寄付金などを担当)やAdmissions Office(入学選考担当事務局)で働いているのも、HLABの組織運営に活かされています。

2014年に卒業後の進路で「起業」することになったのは、ある意味で成り行きでした。見習える過去の事例、正攻法や定石が全く存在しない中、一つ一つ事業を形にしていくのは、当初の想像よりはるかに過酷。でも、圧倒的な知的興奮を伴う、素晴らしい体験でした。もともと学者志望だった自分には、実は意外と向いていたかもしれません。

2016年に設立した中目黒の「THE HOUSE by HLAB」。1FにはサードウェーブコーヒーのStreamer Coffee Company、2Fには24時間のジムがあり、3Fに学生と社会人が居住。

若手社会起業家のメディア露出という「諸刃の剣」

そんなこんなで意図せずして起業してしまった自分も、10年目の節目に入るにあたり、一つだけ目標を決めました。世の中に向けた「情報発信」です。思考の整理も兼ねて、少しずつアウトプット出来ればと思います。

裏を返せば、この重要な仕事を、私はずっとサボってきたということ。外部向けの講演もメディア露出も必要最小限に避けてきました。

NewsPicks、Forbes、日経BP。日々のメディアには、若く光り輝く「社会起業家」の姿が溢れています。社会変革を目指す上で、メディア露出に伴うメッセージの発信と、認知度の向上は必ず必要なことです。

一方で、この分野に限らず、若手でメディア露出で過度に注目を集めることは、命取りになりかねません。怖いのは、その多くが「若い『のに』すごい!」という相対的な評価である点。

昨春、スタンフォード・ビジネス・スクールの社会起業の経営者プログラムに参加したのですが、平均年齢は50代。参加者は、Googleの非営利部門のリーダーや、売上数千億円企業の経営者を下りて起業した方々です。

アメリカにおいて、財務的な事業の成功に加えて社会性を追求する「ソーシャル・セクター」とは、通常の事業を成功させた人間が次の挑戦として取り組む、「より難しい事業」だと理解されています。

一方で、日本で結果的に私のような学生起業となった多くの場合、事業が事業として回り始める前に、若さで持ち上げられてしまうことがほとんど。

華々しい一流メディアが世間に対して築く「社会起業家としての(成功者の)虚像」は、実績以上に起業家を背伸びさせる大きなプレッシャーとなり、事業を成立させるためにもがき苦しむ現実との間に大きな葛藤を生み出しかねません。

周りの期待の高さと事業の難しさ。水面上に見えるきれいな姿と、溺れまいと必死に足をばたつかせている水面下の姿。この葛藤が、多くの起業家の心を少しずつ、でも確実に蝕んでいく癌なのです。


とはいえ、この10年間は、自分自身の心のうちに留めておくのがもったいないほど非常に刺激的な経験でした。どの切り口を取っても、信じられないほど面白いのです。

それに加え、HLABの教育事業(サマースクール)を回しているのは、創設当時から変わらず、若手の学生・社会人からなるチーム。200名弱まで組織が大きくなる中で、世界で何が起こっているのか「大きな絵」や「ワクワク感」を全員と共有することも難しくなってきました。

また、毎年多くの人が入れ替わる事業の性質上、「世界の教育の現在」「ソーシャル・セクターにおける事業運営」「HLABという一事業の成り立ちとノウハウ」などを、常に透明性を持って共有する必要があります。

であれば、下記のテーマに関して、思考整理も兼ねて、徐々にアウトプットを始めようという目論見です。


(1)転機にある世界の「教育」が面白い!

4年間を過ごした、母校の寮 Currier House。ハーバードは現Provostの元、教育の「Digital」化と「Residential」化を柱に教育改革を進めている。

一つ目は、世界の「教育」分野の変化が半端なく面白いこと。急速なデジタル化の流れにともなって、教育がどこに向かうのか、非常に興味深い議論が行われています。

ハーバード/MIT発のedXやスタンフォードのAndrew Ng教授が主導したCourseraなど、Massive Open Online Courses (MOOCs)は世界中の教育機関の一流の授業を無償化しました。

となると進むのは、限界費用0の時代における教育ビジネスモデルの変化。日本でもスタディサプリが走っていますが、以前(とはいっても我々が受験したわずか数年前)は3–5万円/月した教室ビジネスは、スマホで1,000円弱/月の時代に。

そんな中進むのはアナログな教育の変化。母校のハーバードは、デジタル化を引っ張る一方で、アナログ(物理的な対面を伴う教育)の再定義に多くの力と資金を投下しています。(*3)

そうなってくると、「キャンパス」の定義も根本から変わってきます。世界では、教授とは遠隔でピア(クラスメイト)とは世界中で一緒に暮らし学ぶMinerva School at KGI。日本では、ドワンゴの「N高」。

また、デジタル化は多くのデータへのアクセスを可能とし、教育経済学で扱える研究課題も広がりつつあります。より広範な実証研究が可能になれば、政策にも大きく影響を与えるでしょう。

もちろん、こうした環境の変化と、我々がHLABで取り組んでいることは密接な関わりがあります。教育分野に関わる人間にとって、これ以上に面白い時代はありません。


(2)日本と世界のソーシャル・セクターの「今」

Stanford Business Schoolの経営者向けプログラム。世界から社会起業家50名が集まり、1週間寝食を共にし、お互いの経験からソーシャル・セクターの経営を学ぶ。

二つ目は「ソーシャル・セクター(社会起業)」と呼ばれる分野について、新卒で飛び込んだ等身大の経験から感じたこと。

なにより当初、一番苦労したのが、「さあ、やるぞ!」となっても、参考となる情報がほとんどないことです。ロールモデルがいないわけではありません。しかしメディアの情報は「陽の当たるところ」にばかりバイアスがかかっており、経営上はほとんど参考になりませんでした。

ビジョンや世界観のストーリーが溢れている一方で、お金の話やマーケティング、いかにスケールするかなどの経営実務の話は、実はほとんど表に出てきていません。

・そもそも、営利と非営利組織の違いって何?
・え、NPO/非営利って、お金ってどうやって作るの?
・事業型と寄附型の大きな考え方の違いって何?
・NPOで利益(内部留保)って、どういうこと?
・ボランティアが多い組織中で、給与はどう決めるの?

みたいな根本的な疑問から、経営上の専門的な話まで、意外とまとまっていないことが多いのです。

そんな中、参考になるのが、海外の事例。一口に「NPO」といっても色々あります。

「Acumen」や「Charity Water」のようにスタートアップ感が強いところと、「Human Rights Watch」のような老舗では、企業カルチャーの作り方は全く異なります。

ソーシャル・セクターの会社の役割は一般的に「社会への価値の訴追」ですから、実はマーケティングの会社という側面があります。HLABでも、マルチメディアや動画の使い方は、「Charity Water(*4)」から大きな影響を受けました。

コミュニティ構築でいえば、例えば「Pencil of Promises(*5)」なども面白い。金融の重鎮が寄付者のコネで始めるのではなく、若者がゼロから始めて継続・拡大したことも、NPOの経営、特に財務戦略を検討する上で大きなインスピレーションです。

「Salmon Conservation Center(*6)」の事例は、ミッションと事業の両立性の難しさ、一般社会のNPOに対する先入観が起こしゆる問題について示唆に富んでいます。

また一方で、世の中のメディアに登場するのは明快なヴィジョンとキラキラしたストーリーや美談ばかりであることも、多くの人がこの分野へ足を踏み入れることを躊躇する原因になっていると思うのです。

前述の通り、実際外向きには、「こんな世界出来たら素敵!」と大きなヴィジョンを描きながら、水面下でジタバタと足を動かし続けているわけです。組織と自分の「外向き」と「現実」の姿の間には、大きな葛藤が常に存在します。

10年の経験を踏まえ、日々の葛藤やリアルな面に焦点当てることで、特に後進のこのチャレンジにとって少しでも役に立つことができればと感じています。

(3)え、HLABってそんなことやってたの?笑

最後に、これが一番大切ですが、HLABについてもっと積極的に発信しないといけないと強く感じたことです。(笑)

教育事業のはずが、この半年は導線設計や建築模型作ったり。

なにより、表にはサマースクールの話しか出ないことから、巷では「グローバルなサマースクールを運営してる会社だと勘違いされている。一切の発信を怠ってきたのでいたしかたないですよね。笑

ということで、今年の目標は、少しずつの情報の発信を通じて、この誤解を少しでも解くことです。笑

また、HLABには毎年200名近くの学生・若手社会人がボランティアで事業運営に携わりますが、そんな内側のスタッフや卒業生に対しても、意外と近況が届いていない現状があります。

なぜ、B to Gのモデルを目指したのか。なぜ株式会社を作ったのか。そして、なぜ今、「レジデンシャル・カレッジ」というビジネスに取り組むのか。

本当に面白い、非営利組織の経営の試行錯誤とビジネス開発、海外の教育機関からの学びや提携、教育外分野との協業の可能性など、8年間を振り返りながら、内に対しても、外に対しても、HLABが「いま」考えていることをタイムリーに届けることができればと思います!


まずは「レジデンシャル教育」の最先端を発信します!

4月に運営を開始する158部屋の教育寮、湘南台「Node Growth」の食堂

8年目の節目を迎える今週、まちづくりにつながる事業企画、建築設計を専門とするUDS株式会社と提携を発表しました。以前より、同社の手がけるセンスの良い建築と裏にあるまちづくりのビジョンは個人的にもファンで、ご一緒させていただけるのが本当に楽しみ。

レジデンシャル・カレッジ(学びの場としての教育寮)を東京で実現すべく、4月の湘南台の新築寮を皮切りに、いろいろと仕掛けていきますので、乞うご期待です。

そんなレジデンシャル・カレッジ事業に本格的に取り組むにあたり、この2月、HLABチームは2週間ほど米国のNYにオフィスを移しました。

次回は、訪れた「Choate Rosemary Hall」、「St. Paul’s School」、「Phillips Exeter」といったといった米国の一流ボーディングスクールのレジデンシャル教育や、ハーバード大が取り組んでいる学部教育改革の中身の話から紹介していければと考えています。


《入居者募集》NODE GROWTH 湘南台:新築カレッジを共に創る一期生になりませんか?【湘南台駅徒歩1分/慶應SFC至近】

教育環境デザインでHLABが、CLASKAなどのホテルでのハイセンスな空間デザインやまちづくりで著名なUDS株式会社(http://www.uds-net.co.jp/works)と新たに取り組む、新築レジデンシャル・カレッジ(教育寮)の第一弾が、3月に完成。この度、一期生を募集します。

本場米国の著名ボーディングスクールの協力も得ながら、サマースクールで知られるHLABの「多様な学生が集う知的刺激にあふれる空間/教育プログラム」を日常に落とし込みます。

【場所】湘南台駅徒歩1分
【対象】大学生・高校生
【費用】36,500~ (+ 共益・光熱・食費)/月
【募集】https://goo.gl/forms/wPTucw6Qisq0gfSD2
*入居にご関心がある方は、上記フォームからお問い合わせください。すぐに担当者からご連絡差し上げます。


*1 血気盛んなティーネージャーの手による、HLABの最初期の企画書です。笑 初年度のサマースクールを企画するに辺り、1年ほどかけて改訂が重ねられました。質が高いわけでも無いですが、「この程度ではじめられる!」という意味も込めて、共有させていただきます。

*2 一人あたり、約3,200万円(4年間の総額)を付与する海外留学奨学金。37名を送り出した第一期に続き、現在第二期の選考中。第三期は2018年夏頃募集要項を公開し、2019年1月募集予定。長期的に継続を目指しており、ぜひ小学生や中学生、保護者の皆様にもご周知ください。

*3 興味のある方は、Provost Alan Garverが発行したハーバードの教育白書をご参照ください。
https://blog.edx.org/harvard-provost-issues-white-paper-on-digital-and-residential-education-at-harvard

*4 世界の水問題に取り組む、NY拠点のNPO。もともとはパーティー・プラナーによってはじめらたこともあり、マルチメディアを中心として大衆を巻き込むマーケティングとキャンペーン戦略に定評がある。毎年秋に行われる、“September Campaign”のマルチメディア活用手法は必見。

*5 ベイン出身の若手コンサルタントが$25の小切手からはじめた教育NPO。NYを拠点とし、世界中に学校を建て、教育アクセスの問題に取り組む。ジャスティン・ビーバーなどと協力したメディアキャンペーンが著名。

*6 野生の鮭(ワイルド・サーモン)の保全を目的に設立され、成り行きで行った調査が大規模なエコ・ツーリズムに発展。収益事業(旅行)と非収益事業(調査など)を両立して成長したが、「非営利組織としての収益事業のあり方」が、周囲に誤解を生んだ。


この投稿は、HLABの代表である小林亮介個人の見解であり、いかなる意味でもHLABや関係各者の意見を代表するものではありません。