都市の「住む」の未来についてのプロジェクト(前編)
先週、無事にIAAC+ELISAVAの共同マスターであるMaster in Design for Emergent Futures (MDEF)を卒業することが出来ました👏🏻
まだまだマスター期間中に学んだことをここで振り返っていきたいと思ってるのですが、忘れないうちに提出したばかりの自身のファイナルプロジェクト: Futures of Living — Sharing Is Not Scary についてシェアしたいと思います。
このプロジェクトは、人口増加や地球温暖化と言った事象が可視化されつつある都市で、これからどのように共同的な「住む」を実践できるのかをCo-livingやShared livingという視点から紐解いたデザイン&リサーチプロジェクトです。
まず、はじめにこのマスターの目的は「Intervention=介入のデザイン」なんだと、この10ヶ月間ひたすら言われてきました。未来への「介入」としてのデザインです。
「MDEF流Interventionデザインとは」、筆者なりの理解をまとめたいと思います。
これはFab City構想で使われているダイヤグラムですが、MDEFでのインターベンション・デザインでもよく活躍したものです。
縦軸がスケールの大小:地球→国→都市→地区→家→個人
横軸が時間軸
曲線がプロジェクトのワークフロー
まずはじめに、コンテクストやプロジェクト動機は地球レベルから始めることが望ましいので曲線はPlanetから始まっています。この時点では、現代社会・地球での問題点をMDEFでは「Weak Signals」と題し、自分の関心エリアの問題点を他のコンテクストの問題点と比較することで、プロジェクトのストーリーの土台となるものを作ります。
筆者が一番最初に作った「住む」の未来に関するWeak Signalsマップです。
クラスメイトや講師の方々と議論していく中で、このマップを肉付けしていきます。このパートは主に一学期に週替わりで来る講師と一緒にデザイン・スタジオの時間で議論を通して、またリサーチを元にプロジェクトの肝になるところを作っていきます。この段階で大事なのは、「どうして今このテーマのプロジェクトをやる必要があるのか」を自分以外の人間にも、きちんと伝えられるようなストーリー作りをすることです。
ストーリーテリングの一環として、ビデオ提出が毎セメスターありました。また、こうしたリサーチの結果はGitlabのようなオープンソースで、常にシェアします。Interventionデザインは、到底一人では出来ないような大きなテーマを扱うことが多いので、出来るだけ仲間=コミュニティを作る必要があるからです。ツールとして、オープンソースのハード・ソフトウェアを使うのはこういった理由からです。
Weak Signalsマップで、都市における「住む」の未来を考えた時に筆者が関心エリアに設定したのは、プライバシーやコレクティビズムと言ったテーマでした。多くの建築・デザイン事務所が未来の都市生活の代替モデルとしてCo-livingを試行錯誤する中で、居住環境でのプライバシーの保護やコモンスペースの利用が常に大きな壁になっているというレポートがたくさんあったからです。ですので、この段階では、「Extreme Individualism・Co-living・建築と家族構成」などを下敷きにリサーチを進めました。
例えば、SPACE10とAnton&IreneのOne Shared House2030では、Web上の参加型デザインリサーチという形で、どのようなCo-livingが理想的であるかの調査を行いました。ここでも、どこまでが守られるべきプライバシーかそうでないのかが議論の中心になっています。本当の意味で、共同的に生活するCo-livingモデルをデザインするのは、まずどのように個人主義が生活空間に表現されてきたか・使われてきたかを徹底的にリサーチする必要を感じたので、社会学・ジェンダーといった分野の文献をリサーチのベースにしました。
順番が前後しますが、次はスペキュレーションです。
2050年の居住環境におけるプライバシーやコレクティビズムを想像するスペキュレーションをします。ここでは予測ではなく、あくまで自分の感覚や直感を大事にした想像 (=今日の常識から外れていても全く問題ないということ)です。その中(Future visionの円)から、一つの状況(目)を切り取り、「モノ・技術・画」の3つを中心に想像します。
ここで大事なのは、未来は複数形=Futuresであるということです。一つの状況の中から複数の未来を思索します。Futures as tools, not as destinationsです。
筆者はリビングルームの在り方に注目しました。今日の「家」という空間にあるコレクティビズムのラストピースであるリビングルームの使用は、家の中でのExtreme Individualismが如実に表れていることもリサーチの結果分かったからです。特に戦後の日本の家族構成とリビングルームへのアクセスは、まさにそれに当ります。逆に、こうした共同スペースの使い方のデザインなしでは、Co-livingはただ多くの人を入れる「箱」になってしまうのです。例)香港のCage houses。
そこで、2050年のリビングルームの使い方をスペキュレーションしました。
左上:自分でリビングをデザインするMaker's Living Room | 右上:より多くの人を受け入れるためのリビングルーム | 左下:AR/VRでエンターテイメントを楽しむ超個人主義リビング | 右下:サブスクリプション式レンタルリビングルーム
2050年を舞台にしたスペキュレーションから、今日の文脈でどのようにデザインによって「介入」することができるか。未来→今日を見てみるこのような手法をMDEFではRetrocastingと呼んでいました。Retrocastingを繰り返し行うことで、自分のInterventionは何なのか?を探します。
個人的に、Interventionを探すこのフェーズが一番大変でした…。大きなコンセプトから、個人レベルで実験可能なプロトタイプに落とし込むまでに、だいぶ苦労しました。
Intervention(介入)のプロセスについては、次回のブログ「都市の「住む」の未来についてのプロジェクト(後編)」で書いていきたいと思います。