CyCon2018の備忘録(2)

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2018年5月29日から6月1日に開催されたCyCon2018の備忘録シリーズです.

キーノート: Information Operations, Elections and Facebook より

講演者:Alex Stamos(Chief Security Officer of Facebook)

Facebook 社(以降,FB社)は,この2年間,「情報操作や扇動行為」の一環としてFacebookを使用している人や組織への対応について多くのことを学んだとのことでした.

ここで言う「情報操作や扇動行為」とは,たとえば,アメリカ国内の選挙への某国からの世論操作行為や,フェイクニュースの拡散,個人的な信念を他人に強制するような行為を指しています.

このキーノートでは,「情報操作や扇動行為」の分類と,FB社の取り組みについての紹介がありました.

まず,情報操作や扇動行為についての簡単な分類が示されました.

  1. 商業的動機に基づくフェイクニュース(Commercially Motivated Fake News)
  2. 国外からの扇動行為(Foreign Influence Operations)
  3. 国内からの扇動行為(Domestic Influence Operations)
  4. 個人参加(Indivisual Participants)

以下では,それぞれの簡単な説明とFB社の対応の概要をまとめます.

  1. 商業的動機に基づくフェイクニュース

このケースが,偽情報の発信源のほとんどだそうです.行為者の目的としては,「トラフィックを増やすことによる金銭(revenue)獲得」と「政治的信念に基づく扇動」とされます.これらの目的を達成するために,テンプレート化されたサイトを大量に作成したり,偽アカウントを用いた物語の捏造とページを拡散や,広告詐欺(Ad arbitrage)の手法を用います.

FB社の対応としては,コンテンツの削除,露出度合いを下げるなどをしているそうです.また,論争を招くコンテンツであることを通知していることも紹介されました.

2. 国外からの扇動行為

このケースは,物語のでっちあげや誇張をメディアで行うことを目的に,攻撃的な情報操作チームにより実施しているとのことでした.手法としては,プライベートな材料の収集による物語の誇張する攻撃的活動,世論誘導のためにジャーナリストへの選択的な情報リークや,偽アカウントを利用してストーリーを補強・増強する行為などとのことです.また,いわゆるトローリングや扇動活動を目的とする場合,対立を生むような素材(ミーム)の作成,選択的に投稿などにより聴衆を集め,拡散を促し,SNS上での話題を維持することを行うそうです.

FB社の対応としては,広告とコンテンツページの透明性を高めることをし,専門チームによる(扇動行為の)調査などに加え,偽アカウント検知システムを導入したことが紹介されました.

3. 国内からの扇動行為

このケースは,国内の人々や政府与党への扇動行為を目的として,国内メディアによる誇張,反対勢力への脅迫的・攻撃的抑圧行為などにより行うそうです.実施しているグループとしては,政府与党,国家連携のメディア,政治的動機を持つ勢力,商業的動機を持つプロもしくは海外勢力などだそうです.

FB社の対応としては,広告やページの透明性を高めることなどをしているそうです.また,人権NGOなどとの関係を構築し支援を受けているとのことでした.

4. 個人参加

このケースは,行為者の識別が困難であり,行為者自身の信念の強制もしくは,他者に苦痛を与えることを目的としているとのことです.主に,クリックベイトの積極的な再配布や押し付け,トローリングや脅迫などにより,目的を達成します.

FB社の対応としては,ニュースフィードの強制によるクリックベイトの削減,論争を招く記事であることを通知するなどが紹介されました.また,個人の権利への配慮しながら実施しているとのことでした.

以上,キーノートの内容は,FB社の宣伝という面も若干ありますが,ソーシャルメディアの影とその対策の現状を知ることができます.
「情報操作や扇動行為」に対しては,いわゆるセキュリティ対策では効果が見込めないですし,言論の自由との兼ね合いもあり,対策は技術論に収まらない大変デリケートな課題であると言えます.

しかし,CyConの他の登壇者からも何度か指摘がありましたが,ソーシャルメディアを用いた「情報操作や扇動行為」は自由民主主義への挑戦とも言え,様々な立場の方が懸念を示していたように感じます.
特に,ハッキングを伴う行為や,他国により組織化された攻撃的活動は一線を超えており,欧米のリーダーたちにはある種の武器として認識されている印象でした.

2018/06/10 st, ver.1

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