バニラエア車椅子拒否事件はバリアフリー施策強化の銅鑼を鳴らす

SAKIYAMA Nobuo/崎山伸夫
3 min readJun 29, 2017

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「バニラエア炎上事件」ってタイトル書こうと一瞬思ったのだけど、航空会社について「炎上」ってよくないよねってことでちょっとひねりました。無理矢理乗ったゆえの事件だけど、それまで当該路線で拒否していたのは事実だし。

本件、ネットで話題沸騰していて、かの車椅子の木島英登氏(専門家であり一般人ではないので実名を書く)を叩く声も多い。ノイジーマイノリティかも分からんけど。しかし、騒げば騒ぐほど、バリアフリーの現状の問題点にみんなが関心をもつ、そういう構造になっていると思う。

さて、ここで話題にしたいのはこの事件のタイミングだ。本件、奄美大島での事件発生は6月の最初のほうであり、6月の半ばにはバニラエア側から謝罪と善後策が出ていたことは既に報道されている。でも、報道は6月28日だ。木島氏が自サイトを更新したのも前日のようだ。そして、ちょうど前日、6月27日、国土交通省では「 バリアフリー法及び関連施策の見直しの方向性について~国土交通省2020年オリンピック・パラリンピック東京大会準備本部バリアフリーワーキンググループとりまとめ~」という文書が発表されている。
http://www.mlit.go.jp/report/press/sogo09_hh_000157.html

オリンピック・パラリンピックの準備という文脈ではあるのだが、バリアフリー法制と諸施策を見直して、バリアフリー水準の底上げをしていこう、という方向性になっている。そして、ワーキンググループ自体は純粋に国交省官僚で構成されているのだけれども、このとりまとめは「バリアフリー法及び関連施策のあり方に関する検討会」という有識者会議の報告書をそのまま参考資料として含んでいる。検討会のメンバーは、学識経験者、各種障害者団体代表、関係事業者団体代表となっている。

検討会の議論サマリをみれば、もちろん障害者団体は高い水準へとバリアフリー施策が強化されることを望んでいる一方、事業者団体の中には、率直にいって逃げ腰のところもある。それでも、報告書全体としては、事業法立て付けの既存のバリアフリー法の限界を克服して障害者権利条約、障害者基本法、障害者差別解消法の理念を取り込んでいく方向ではあるし、間違いなくバリアフリー基準の底上げは行われるだろう。

そういう方向性が固まり、今後具体化していく、その翌日の一斉報道からの話題沸騰である。もちろん偶然かもしれない。が、木島氏はバリアフリー問題の専門家だ。当然、検討会メンバーではなくても検討会(第1回は3月)が行われていることは知っているはずだし、最初から6月末に結論を出すことを予定していたことも知っているはずだし、検討詳細リークがあったかどうかはともかく、障害者団体内部での方針検討にもアクセスしうる立場だった可能性はある。そして6月に奄美大島旅行を設定した。仮にそこまで考慮しての仕掛けであれば、報道含め木島氏一人の仕事ではない、一大メディアキャンペーンだった可能性もある。もしそうならこれは大成功だし、素晴らしい仕事だ。素直にバリアフリー施策強化の必要性を感じる人が増えればそれは障害者団体にとってプラスだし、既に方向性が固まっている以上、ネットの障害者叩きすら「心のバリアフリー」施策強化の必要性を立証する材料にすらなるので、実によくできている。

もちろん、全ては単なる偶然かもしれない。でも、こう考えると楽しいよね。

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