共謀罪法案衆議院通過って日本がショボいだけ

SAKIYAMA Nobuo/崎山伸夫
5 min readMay 23, 2017

衆議院を通った共謀罪法案、3分の2パワーで押し切られている以上、野党が参議院でいくらがんばっても、まぁ、成立しちゃうんでしょう。問題点、懸念点は野党や数々の法学者、法曹実務家が述べているそのままなので、そこに素人が何か足すようなことはないのだけれども、それをそのまま、安倍政権が何か邪悪な企みをしているかのように受け取って叫んでいる人々も中にはいるけど、そういうことではない。民主党政権時代には塩漬けにされていたけれども、自民党中心の政権であれば、誰が総理大臣であれ、いずれはこうなった、という類の話でしかない。

そもそも、なんで共謀罪なのか、といえば、 国連国際組織犯罪条約批准、というお題目のためだ。この批准は、確かにしたいのだろう。こういうのに批准して枠組に入ってないと、「国際組織犯罪」(マフィアとか、国際窃盗団とかが想定される)の情報交換に支障があるのでしょう。多分。ただ、逆に「国連国際組織犯罪条約の批准」のために何が必要か、というと、その選択肢はひとつではなかった。日弁連が声明を出しているように、「国内に影響を与えない範囲で批准する」とでもいうアプローチもあったろうし、また、時々出てくるように、「共謀罪」を選択せず、「参加罪」にする、という手もあった。そもそも、共謀罪は「コモンロー上の共謀罪」という形があった英米法の国のためのもので、日本のような大陸法の国では参加罪のほうが向いている、というのは専門家からもよく出る話ではある。

でも、今から15年ほど前の「 法制審議会第137回会議」での、「諮問第58号」の時点で、既に「共謀罪と参加罪の選択があるけど共謀罪で」と、前提を定めた形で審議会に渡されている。

http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi_020903-5.html

つまり、これを選んだのは有識者ではなく、当時の法務官僚の担当者。これを渡された「 法制審議会刑事法(国連国際組織犯罪条約関係)部会」は、共謀罪という前提は覆さずに答申に至って、そして法案化、途中の廃案や塩漬け期を経て、3分の2を握る安倍政権だから通そうという流れであって、テロ対策がどうの、というのは、あと付けに過ぎない。そして、法務大臣は散々叩かれているように適性に欠け、つまりは政権としては力を入れているポジションではなく、単に官僚いいなりでいいや、という位置付けになっている。

さて、15年ほど前に「共謀罪か参加罪か」の選択にかかわった法務官僚は、いま、どこにいるだろうか。もちろん、当時のトップクラスはとうに退職している。しかし、中堅どころや若手はそこそこの地位に昇進しているのではないだろうか。また、退職していてもトップクラスは一廉の権威を維持したまんまどこかにいるだろうし、審議会で諮問されたものを素直に通した法学者の方々もご健在だろう。結局のところ、彼らの体面を忖度したら、「やっぱり参加罪のほうがイイね!」とはならない。まして、優等生的な検討をやめましたというような、「きれい」ではない現行法のままの批准論には流れられない。そういう、硬直化した官僚主義が、共謀罪のままの強行の原動力なのではないだろうか。

硬直しているのは政治も同じ。まさに共謀罪の審議に関係して、「そもそも=基本的」なる笑い話のような閣議決定があったが、言い間違い、言葉の綾の水準の問題を追及する野党に対して、日本語を曲げるような閣議決定までして「内閣総理大臣の無謬性」で対抗しようという政府の硬直性は、共謀罪そのものなんかよりもある意味よほど恐ろしい状況だ。

一方、共謀罪反対の側も、多分、硬直している要素はある。政府の動きに反対するという形ゆえ、参加罪ベースで「使える対案」を作らなかったというのは確実にあると思う。参加罪のほうは、結社の自由と衝突するという別の自明な弱点があり(日弁連の声明が参加罪に言及しなかったのは多分そのせい)、特に左派市民運動系の反対運動に破防法反対運動からの流れがあることを踏まえれば、彼らはそういう検討の母体になりえないし、実際に政府が参加罪で法案を出していれば間違いなく反対運動をしたとも思う(現実的には、たとえ参加罪という話であっても、新左翼セクトのほとんどやオウム真理教の残党について該当するとは思えないけど、反対運動はそういう話ではなく理念ベースのものだろうから)。そして、15年前の法務官僚が参加罪を敬遠したのも、破防法や暴対法への反対の苦い記憶があったからだろうしね(多分、憲法違反を理由にした弁護や訴訟は共謀罪よりも論理を組み立てやすい)。そういう中で、「組織犯罪対策をめぐる議論」の幅が狭まってしまっていたのだと思う。

釣りのような表題を回収しておくと、結局これって政権が邪悪だとかではなくて、日本の官僚制が、政治の形が、単にイケてないだけなんじゃなかろうか、他の法制度ジャンルでもよくある状況なんじゃないか、というのが個人の感想ということで締めです。救いはあんまりないですね。

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