自己組織化する組織Tealとは何者なのか?

Kunitake Saso
10 min readMay 9, 2017

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四月末に、ギリシャのロードス島にて行われたNext Stage World Gatheringという国際会議(というよりワークショップ)に参加してきました。

これは、知る人ぞ知るビジョナリーな思想書とも言えるReinventing Organizationという本に書かれている、LinuxやTEDのような、組織の使命に共感した人々が地理を超えてゆるく繋がり、自律分散型で組織を運営していくTeal型組織の実現を実践する人々が知見を交換し合う場でした。

Tealという組織は、まだ日本では(多分世界でも)新しい組織の考え方ですが、自律分散型の組織作りとしてザッポスが導入するホラクラシーなどの仕組みがその一つの実践例として知られています。

biotopeは、チームや会社などの組織が、自分たちが持つ創造性を最大限に発揮し、具体化し続ける環境づくりやプロセスの支援を行なうことで、自律的で持続可能な組織づくり。

新たなものを生み続ける組織にすることは、変化が激しい環境の中、組織が強くなっていく上ではとても大事な営み。組織のミッションを定めて世界観とともに体現しながら発信することと並んで、経営者にとってもっとも大事なテーマの一つだと思っています。

いわば、その研究ということで、テクノロジー起点で等比級数的な組織作りにアプローチしているSingularity大学のExponential Organization(去年書いた記事はこちら)と、組織開発起点で自己組織化する組織作りにアプローチしているTeal Organizationは、同じ世界観を別々に語っているようで、それらを今年の研究領域として深掘りしてみようと思っているのです。

Teal型組織とは?

Teal型組織で提唱されている自己組織化する組織とは、インターネットによって可能になった自律分散型の世界観に応じて可能になった、組織という人間の集団での動き方のイノベーションの試みと言えるでしょう。インターネットによって、リナックスやMozillaなどのオープンソースが哲学になったコミュニティ型の組織が生まれ、そこでは中央で強いガバナンスを持たずに、明確な目的やミッションの元に、場のルールや環境、組織文化をデザインすることで、その場・プラットフォームを繁栄させるという、新たな組織のあり方が可能になってきました。このような組織においては、顔の見えるビジョナリーなリーダーは必要ありません。中空構造の組織というところが、今までの組織と一線を画す部分です。

このような概念を会社やNPOなどの組織に取り込む動きも、かれこれ30年近く、色々な形で取り組まれてきたそうです。特に10年間は色々なパイオニアによって様々な取り組み事例が出てきています。

いずれも共通のテーマは、どのようにして20世紀の産業革命の遺物である力のヒエラルキーを(一部)なくす組織構造にするかということ。その一事例として、2000年代の初め、ソフトウェア会社の社長だったブライアンロバートソンが自分の組織をPrototyping labにすると決め、方法論を確立したのが彼の会社の名前をとってつけられた、ホラクラシー経営という考え方です。(http://www.holacracy.org/holacracyone)

前述のラルーの本には、ホラクラシーもその一つとして紹介されています。

http://www.businessinsider.com/tony-hsieh-zappos-holacracy-management-experiment-2015-5

ホラクラシーは、会社組織の意思決定の仕組みを分解して、役割を自由にすることで分散化する取り組みで、組織内におけるタスクマネジメントと意思決定の仕組みの部分だけを切り取ってパッケージで導入したものですが、方法論に寄りすぎてその導入だけで、結果的にうまく行かないというケースも見受けられるようです。実際にカンファレンスでも、その難しさを語る人も見受けられました。

一方で、そこまで形式的な決まりを導入しなくても、ヒエラルキーの無い自律分散型の組織を実現できている例が増えてきていてその例をまとめたものがReinventing Organizationで言われているTeal組織というものです。

この本では、人類の歴史を振り返り、人が集団行動を滞りなく行えるために発明された組織というものの進化の過程を以下のようにまとめています。この内容は、teal型組織の研究の国内の第一人者の一人Home’s viの嘉村賢州さんとのおしゃべりをまとめたものです。(話は横道にそれますが、彼は今回のツアー1週間一緒の部屋に泊まっていたのですが、人格も知見も本当に素晴らしい・・・本当に楽しい時間になりました。賢州くん、本当にありがとう!)

フェーズ1: Red:型組織: ジャイアニズム

脅しによるガバナンス。 物事をスピーディーに動かすために脅しと恐怖で動かす

フェーズ2: Amber型組織:身分制度型ヒエラルキー

身分の上下によるガバナンス。 古くはエジプトでピラミッドを作るために身分制による分業という概念が発明された

フェーズ3: Orange型組織:アメとムチの能力主義

科学的マネジメント・アメとムチの能力主義によるガバナンス。 企業と雇用関係という契約

フェーズ4:Green型組織:家族型組織

家族や仲間意識によるガバナンス。話し合いによる合意形成を元に、 関係性、ステークホルダー全体を大事に

従業員をパートナーキャストなどと呼ぶのが典型的な組織。合宿、ワークショップなどを頻繁に行っていく。集合知が集まりやすいので、いい商品ができやすい。CSRなどの責任が果たしやすい。

フェーズ5: Teal型組織: 生命体的組織

組織と個人の目的の摺り合わせと内発的動機によるガバナンス?

ボスがいない自律分散型の組織。一応法律上会社の社長は存在するが、意思決定は必要な構成員がその場その場で判断する。

Teal型の組織は、Self management/Wholeness/Evolutionary purposeの三つを大事にしているのが

1.Evolunationary Purpose:集まっている人が変われば、役割も変わる中で、刻々と自分と自分たちの役割を問い直して、柔軟的にやって行くこと。

子供が生まれたら、親が子供の人生を決められないのと同じように、創業者も一度組織を産んだ後は、組織に対するコントロールはできないという考え方。この組織の、社会にとっての存在意義(ギフト)は何かというのを問いかけていく姿勢が特徴的。

2.Wholeness:全体性:

組織の構成員の、スピリチュアリティ、包容力、自我、超自我など、人間のすべての特質を生かしあった組織が素晴らしいという原則。Diversityの延長にある。複数役職が多く、人間としてのいろんな面を生かすやり方が良いよね。やりたいことによってやることを変える。(社内の秩序より、人生を大事にする)結果的に、メンバーのWell-beingが高苦なる。

3.Self management:

個人個人が自分なりの目的意識を持ち、組織の目的と摺り合わせた上で、自立して動く。経験や知見の違いによって自然に生まれる影響力の違いはある。

4.Advice Process:

意思決定の仕方を、上長が決める、もしくは、会議体で決めるというオーソドックスなやり方から、自分で決める代わりに経験や知見のある人にアドバイスをもらうことを義務付けるプロセスを通るという意思決定のオルタナティブな仕組み。専門性がある人にはアドバイスを求めなければいけないが、最終的に自分で決めていい。一人一人の意思決定に覚悟が求められ、かつ助け合いが生んでいく信頼を醸成する仕組み。一人一人が自然により良いことを求めて行動して行くという信頼が前提になっている。

個人的な学び

カンファレンスに参加して感じた僕なりの学びは以下の通りです。

  1. 今の会社組織にとっては、組織のミッションをベースに共感した人を集め、その中で、やりがいを感じてもらいながら強いガバナンスでリードしていくGreen型組織をまずは土壌として作る必要がある。そういう意味で、組織のミッションを再定義し、常に、一人一人と再定義してすり合わせる作業をしていくことが大事。
  2. ミッションベースで集まったスタートアップが、組織がある程度大きくなってきてスケール化する際に、ガバナンスを強くして強いリーダーシップで大きくしていくオレンジ型になるか、逆にガバナンスを弱くして中心の無いネットワークで大きくしていくかという二択が迫られるタイミングが来る。スケールする上での、トップダウンのガバナンスが必要になっていく問題を解決するときの一つの進化の方法がTealでは無いかと思う
  3. Teal型組織は、あまりルールでガチガチに縛らないし、常にルールもアップデートして変わっていくので、個人個人に自律性が求められる。公共性の高い、かつ、プロボノの集まるNPOなどはとても相性がいい組織の考え方といえそう。
  4. 採用はすごく大事。組織のミッションをしっかり定め、発信することでミッション共感度の高い人が自然に集まってくるのが理想の採用で、スペックベースでの採用と概念が変わる。
  5. Teal化していく組織というのは、創業者の自我を手放していくプロセスとも捉えられる。創業者自身の成長無くして、組織構造だけいじろうとするとおそらく大失敗する。
  6. 意思決定→アドバイス、給料→分配、雇用→パートナー契約、というような組織内のガバナンスの概念が変わるため、法律や、給与分配等の考え方をもう一度見直すことをセットで考えないと実現は難しい。オーストリアのホラクラシー経営を提唱しているEncode.orgはこの雇用契約や、報酬分配の仕組みに踏み込んだ実験をしていて面白い。
  7. GlassFrogZoom、プロジェクトのタスクチームに紐づいたGoogle Driveの設定の仕方、360度フィードバックなどのツールをうまく使って日常の業務に落としていくこともセットで考える必要がある。
  8. biotopeでは、今の所はTealというよりはGreenの組織を志向している。ただWholenessや、Purpose drivenのような思想が入った打ち合わせの仕方はあちこちにすでに無意識に実践してた内容もあって、勇気が湧いた。

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Kunitake Saso

Founder of biotope. CEO. Strategic Designer. Researcher on creativity. Author of "The Non-Designer Guide to Design ". https://amzn.to/2MIs9sW