IndieBioのDemoDayに見るバイオテックスタートアップのポテンシャル

「バイオベンチャー」と言うと創薬ベンチャーを思い浮かべる人が多いかもしれないが、ここ1〜2年で新しいタイプのバイオテックスタートアップが登場しつつある。

彼らの目指すものは創薬に留まらない。バイオとIT、deeplearningや3Dプリンタなどを組み合わせて、まったく新しい価値を作り出そうとしている。最近は、遺伝子操作した細菌を使って○○を作る、といった合成生物学的なスタートアップが増えてきた印象がある。

そんな新しいバイオテックスタートアップ専門のアクセラレーターIndieBioの初DemoDay(動画)が2015/6/11に行われた。TechCrunchの記事(日本語)にもなってたけど、より詳細に各社を紹介してみる。

1. Clara Foods

遺伝子操作したイースト菌で(=合成生物学的アプローチにより)、安全・安価かつ、より優れた機能性を持つ「卵白」を作る。

卵白は最初のステップであって、最終的には卵全てを作ることを目標としてるようだ。

CEO曰く「想像してごらん、世界でもっともふわふわしたメレンゲを!」(すべってたw)

鶏を育てるのと比べて水の使用量は1/5。原理的にサルモネラ菌などは混入しない。コストは$7/kgで、既存最大手の大量生産コストの約半分。もちろん動物保護的な意義もある。

卵白の90%は水で残り10%がタンパク質。様々なタンパク質が含まれるが、7種類で9割がカバーされる。この7種のタンパク質の混ぜ方を調整することで、より泡立ちやすくしたり、コレステロールやアレルゲンを除去した卵白を作ることも目指す。

New Harvestという、合成生物学的アプローチで肉やミルクを作ることを目指すNPO発の支援を受けてるっぽい。food techやcultured meat(培養肉)と呼ばれる領域とのこと。

2. Arcturus BioCloud

バイオ研究を、ロボット×クラウドで加速する。

バイオ実験において、複数の業者に発注したり自分で手を動かさないといけない様々なステップを、クラウドから一括で手配できる。

@Synbiota と似てるのかなと思ったけど、プレゼンを見るとロボット(bio serverと呼んでる)を作ったりして、より自動化にフォーカスしてるっぽい。

1.5ヶ月前にリリース。ノンプロモで165カ国から370人以上が登録(ニッチなので多いのか少ないのか分からん。。)その多くはバイオ研究者ではなく、学生やソフトウェアエンジニア。

このサービスによって、研究におけるリモートコラボレーションを加速したり、研究のスケールアウトが可能になるポテンシャルがある。かなり意義深いプロジェクトと言える。

3. Pembient

バイオ技術と3Dプリンタでサイの角を再現する。

サイの角を構成するケラチンを合成生物学的に生成し、それを(無機)化学的に架橋させた後、サイのDNAを加えて(これが比喩なのか本気なのかよく分からない。。。)、サイのツノと全く同じ組成の粉末を作る。それを3Dプリンタで積み重ねて角を作る。

YC出身の最適化支援のスタートアップSigOptの技術で、この製造過程を最適化してるらしい。

粉末のFTIRスペクトルはかなり本物に近い。3Dプリンタで作った角は、プレゼンで見えた感じでは白かった。本物との違いが問題になるかは用途によりそうだ。

サイの角の粉末の他分野への応用として、スキンケア(すでにTVCMができてた)、飲料、タバコ、耐久消費財?、医薬品への応用をパートナーと進めてるとのこと。今後は他の絶滅危惧種、象牙や虎の骨(虎骨酒という漢方薬に使われるらしい)にも対象を広げる計画。

こういうプレゼンでは珍しいけど、利益率や将来の時価総額について言及してるスライドもあった。「(計画通りいけば$1Bも見えてくるので、)将来はユニコーンの角とも言われるだろう」(これもスベったw)

ここもNew Harvestと提携してるとのこと。

4. Ranomics

既存の遺伝子検査がカバーしていない遺伝子変異の情報を集めたVariantOncoというデータベースを作る。

特定の疾患、例えば乳ガンに関連する遺伝子BRCA1がコードするアミノ酸は1,863個。これに対して起こりうるアミノ酸の変異は3万以上。そのうち1%しかどうなるかが分かっていない。だから既存の遺伝子検査は不正確だと主張する。

(ここにいくつかツッコミどころがあると僕は思ってて、エクソン以外の変異はどうすんだとか、in vitroでどこまで判定できるんだとか、そもそも複数変異やナンセンス変異やフレームシフト変異の可能性も考えたら数万どころじゃなくねとか、そもそもヒトの遺伝子なんてほとんど同じだからSNPを調べてるんであってこんな総当たりで調べる必要なくねとか、やるとしたら膨大な実験が必要になるんじゃとか、ちょっと実現性に疑問が残る。)

現在はBRCA1だけだが、2015/9までに20の遺伝性ガンに拡充する。VariantOnco自体のリリースは2016/6を予定。

ビジネスモデルとしては、遺伝子検査業者から課金することを考えている。ちなみにUSの遺伝子検査マーケットは2015年で$15Bで、CAGR10%で成長中。

創業者はトロント大学の1年生!アカデミアよりもスタートアップの方がスケールするための資金を集めやすいから起業したとか。

5. Zymochem

合成生物学的アプローチで、再生可能な資源(例:砂糖)から、ナイロンなどの化学素材を合成する。

近年、合成生物学的にいくつかの化学製品を作れるようになったが、いずれも効率が悪い。その理由は原料となる有機物の炭素のうち、かなりの部分を二酸化炭素として排出してしまうから。Zymochemはこれを解決するため特別な合成経路を設計し、細菌に組み込んだ。

砂糖をいったんピルビン酸塩にしてから、特殊な合成経路(特許申請中)に放り込んでるらしい。

まずは1-ヘキサノールとアジピン酸の合成から始める。2年後くらいには石油由来のものよりも安価に生成できる見通し。

チーム紹介にLinkedInとGoogle Scholarを載っけてるのがこの分野っぽくて面白い。CEOは酵素の専門家、CSOは細菌を使った化学製品の合成経路設計の専門家とのこと。

ユーグレナとかが欲しがりそうな技術。(ってかこういう技術がないと、とてもじゃないが航空機燃料なんてまともなコストでは作れなそう。)

6. Sensa.io

バイオリアクター(発酵槽)を、より安価でオープンなものにする。

「ビールは人類史と同じくらい昔からある」(いいセリフだ。。。)

誰でもKombuchaやチーズを簡単に作れるようになるバイオリアクターを開発している。(Kombuchaは昆布茶じゃなくて、アメリカで流行ってる紅茶キノコのことらしい!)

現在の製品「ARK REACTOR」は$888で販売中。3ガロン(約11リットル)の液体を発酵させられる。なかなかMakerらしくて良い感じ。ハードもソフトもオープンソース

夏頃にKickstarterでクラウドファンディングを開始する予定とのこと。

7. Affinity

抗体医薬の製造コストを90%削減する。

抗体医薬は今後10年の製薬業界市場の35%以上を占める一大セグメントになると予想されている。ただし、非常に高価。$50k/g (Rixutan)〜$500k/g (Soliris)と一般人が使うには不可能な価格となっている。

製造コストの内訳をみると、抽出と純化のプロセスが約95%を占めている。ここを独自の技術で効率化するらしい。(が、このスライドだけじゃよく分からん。。。)

8. Bioloom

合成生物学的アプローチで作ったセルロースベースの特殊なシートにより、傷の治りを早くする。

糖尿病患者などは傷の治りが遅く、慢性創傷になりがち。米国だけで$13Bもこの治療に使われている。

Bioloomの開発したセルロースシートは、既存のガーゼと比べて早く傷を治すことができる。(プレゼン資料には詳細が書いてないのでどこまで確たるエビデンスがあるのかは不明だけど。。)

バンドエイド的なものなので、FDA承認が要らないらしい。来年量産予定。その後、皮膚を成長させる土台となる構造や、医薬品が患部に届きやすい構造などを開発する。

このプロダクトにたどり着く前は、環境に優しい布「Bioloop」を開発していて、5月くらいにピボットしたようだ。

9. abiobot

ピペッティングの自動化ロボット!バイオ系研究者は歓喜するかも。

バイオ系の実験において何度も何度も何度も行うことになるピペット作業を自動化することで、研究を加速する。

日本だとMolecureが近いことをやってた記憶がある。個人的には培地作りもピペッティングも嫌いじゃなかったが、自動化されればラボの生産性は数倍以上に跳ね上がるはず。

10. Blue Turtle Bio

酵素を作る遺伝子を組み込んだ細菌を使って、先天性の酵素欠乏症患者を治療する。

先天性の酵素欠乏症に対して、工場で作った酵素を定期的に投与する治療法があるが、高価だし、月に2回ほどの通院が必須だったりと不便が多い。

これに替わる治療法として、不足してる酵素を作るように遺伝子操作した細菌を錠剤(スライドではカプセル)に入れて投与することで治療することを目指している。

希少疾患に対するFDAの補助もあるし、十分な市場規模があることから、まずはゴーシェ病をターゲットにする。

11. extem

様々な人種・性別・年齢のドナー1万人から採取した世界最大の幹細胞バンクを作る。

幹細胞の研究は盛んだが、研究に用いる幹細胞の種類は非常に限られている。様々なドナーから集めた幹細胞バンクを作ることで、再生医療や個別化医療の研究を加速する。

幹細胞を採取し、選別し、培養するプロセスに独自の技術を持っており、特許申請中とのこと。すでにUCSFに提供中で高評価を受けているとのこと。

日本でも山中教授がiPS細胞バンクを作ろうとしてたり、似た動きはあるけど、ビジネスにしてしまおうというところがさすがアメリカか。。

12. Orphidia

自分の生体情報を安価・簡便に把握できる

1滴の血液で50の検査を実施可能なチップを開発。微細流体や表面化学など5つの特許申請中。

リーダーを無料で提供し、使い捨てのチップでお金を取るモデルを想定している。

リーダーの小型化にはまだ課題が多そうだけど、チップはもはや未来技術みたいなレベル。FiNCの溝口さんが以前語ってたような、検査にかかるコストが限りなくゼロに近づく時代が到来しつつあるようだ。

ちなみにIndieBioの次のバッチは2015/9から。Early application deadlineは6月末。アクセラレータのスキームとしては、株8%に対して$50kキャッシュ+$50kサポート(実験室の諸費用とか)、追加で任意だが$150kのconvertible note(20%discount、$2.5Mキャップ)を受ける権利があるとのこと

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