はじまりの町

チェックアウト時間にホテルを追い出され、打ち合わせまで1時間ほど余裕があったので目黒駅からぶらりと目黒川へ。

僕が最初に就職したのは目黒川沿いにあるアルコタワーに入っていた会社だった。右も左もわからぬどころか敬語すら、語尾に「っす!」とつければ通用すると思っていたほぼ不良品新卒だった僕を育ててくれた会社。

もう10年も前の話だ。駅前の立ち食い蕎麦屋はまだ現役で、いつもの天ぷらそばを頼む。あぁーなんて普通な味。前と変わらない。美味しさの大半は思い出できてるのかもしれない。

目黒らしい急な坂をくだり、あの店美味しかったなぁとか、あの古本屋もうないのか、とか、このファミレスでアイデア考えたなぁとか、この町には色んな思い出が詰まっている。これを読む誰もが必ずはじまりの場所があると思う。もがき苦しみ生き抜く様を無言で支えてくれた町。それが僕は目黒だ。

急な坂道が緩やかになるころ、道は目黒川に至る。見渡す限り満開の桜。入社したとき、卒業して東京を離れる時、どちらも春だった。僕にとって、目黒川を覆う桜の風景は、いつも始まりの風景だ。

目黒川沿いを歩くと、酔っ払って眠りこけた河原のベンチがまだあった。そこに座ってタバコを吸いながら、もう誰もここにはいないのだなぁと感慨深くなった。先輩も同期たちも愉快でハチャメチャで破天荒であったかい人たちだった。彼らのおかげで今の僕がいると言い切れる。豊潤な大人としてのスタートを僕は迎えることができていた。

みんな、それぞれこの町ではない場所で生きている。僕もそうだ。それぞれの道に綺麗に分岐している。ひとりひとりいろいろあったんだろうなぁと想像した。シンプルバカな僕ですらいろいろあるのだから、各々の決断があり、スタートは同じでもみんなバラバラな場所にいるんだ。

ちょうど僕も人生で何度目かの大きな分岐点にいた。悩んでいたわけじゃない。自分の中では決めていたし、たまたまといえばたまたま東京出張が重なって、時間があまって、目黒川を眺めている。そうか、またはじまりなんだなと、思わずにはいられなかった。

ぼうっとベンチでしんみりしてると、うっかり打ち合わせに遅れそうになった。いってきます、がんばります、もう誰もいないけど、思い出いっぱいの目黒に別れを告げて新しいスタートをきったのでした。

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