中国社会信用スコア最前線

〜芝麻信用の現在地〜

電子決済やシェアリングエコノミーの世界では、個人がプラットフォーム上の他のユーザーをどれだけ信用できるかが鍵になります。中国では、個人の社会的信用力を可視化する取り組みとして電子決済サービスのアリペイを運営するアリババのグループ会社のアントフィナンシャルが2015年に芝麻信用(ジーマ信用/セサミクレジット)と呼ばれるサービスを導入しました。

そもそも芝麻信用とは?

このサービスは、ユーザーである個人や法人の社会活動の履歴をもとに、人工知能が毎月ユーザーあたりのスコアを算出します。ユーザーひとりひとりに紐付いた大量のデータを人工知能が処理し、350〜950点の点数が付けられます。芝麻信用のユーザーはこのスコアを高く保つことで様々なサービスを受けられます。具体的には、

旅行時に、

  • デポジット無しでホテルを予約したりWifiやレンタカーを借りれる。
  • 北京空港で専用レーンが利用できる。
  • 日本やルクセンブルクへの旅行ビザが取得しやすくなる。

シェアリングエコノミー使用時に、

  • シェアサイクルや電気自動車レンタルの保証金がいらない。
  • 傘が無料でレンタルできる。

金融系サービス利用時に、

  • 自動車ローンの融資条件がよくなる。
  • アントフィナンシャル傘下の金融系サービス利用時に好待遇を受けられる。(クレジットカードサービスの限度額があがる。消費者金融サービスで無利息の期間が長くなるのに加え、キャッシングの限度があがり、利率も低くなる。)

他にも、

  • 賃貸物件の保証金が安くなる。
  • 病院で診察料のデポジットが不要になる。
  • アリペイの口座と車のナンバープレートを紐づけ、高速道路などでキャッシュレスに移動できる。
  • 無人の飲食店サービスが使える。
  • マッチングアプリ上で信頼度を高くしたり、優れた案件を受けやすくなる。

などがあげられます。

芝麻信用のインターフェイス

スコアの算出基準は?

高スコアのユーザーがこれほどの優遇を受けられるというのは、芝麻スコアのシステム自体に高い信用が与えらていることの裏返しと考えることができます。ここで重要なのが、ユーザーのスコアが毎月どう算出されているか、すなわちどう与信が行われているかです。芝麻信用のスコア算出に使われているアルゴリズム自体は企業秘密となっていますが、大まかなスコア算出の基準は公表されています。基準は5つのカテゴリーに分かれていて、年齢や学歴や職業などの身分、支払能力、クレジットカードの返済履歴などの信用履歴、SNSなどでの交流関係、普段の生活での行動傾向、で構成されています。具体的には、

  • 保有する資産の状況
  • 公共料金の支払状況
  • 電子決済の支払いデータ
  • 購入した商品のデータ
  • SNS(アリペイ)上での友達の数や質(アリペイ上の「友達」のスコアもかなり重要)
  • シェアリングエコノミーの使用状況
  • 裁判記録や交通違反記録

などもスコアの算出に使われていると言われています。

社会信用スコアシステム上の情報フロウ

例えば、アリペイユーザーがいつどこでofoのシェアサイクルを使いどのルートを取ってどこに行ったか(アントフィナンシャルはofoに戦略投資をしています)、いつどこでライドシェアのDidiを呼んでどの車両でどこに行ったか、いつスーパーを使って(もしそれがアリババ系列のスーパーならば)そこでなにを買ったのかなど毎日の生活データはほとんどアントフィナンシャルの管理下にあることになります。また、例えば毎日9時から10時の間に2つの決まった場所間を移動している位置情報の記録があれば、そのユーザーは定職についているという推測ができます。そのような点も含め、かなり広い範囲のデータを蓄積しサービスに還元してると考えられます。

芝麻信用の高スコアは前述のようなサービスが受けられる他にも、就職活動の場面などでも使われることが増えているようで、結果としてユーザーひとりひとりの交通マナーやシェアサイクルの利用マナーがよくなるという社会的効果がみられているようです。一方で、芝麻信用のスコアを上げる目的でスコアの低い「友達」を「切る」、というような行為も考えられ、格差を助長することにもなりかねません。


一筋縄ではいかない

さて、一見順調にも見える芝麻信用ですが、一筋縄ではいかない課題もあるようです。その一つが競合の登場です。去年の1月にはアリババのライバルであるテンセントがテンセント信用という芝麻信用に類似のサービスの提供を開始しました。もともと両者とも2014年に中国人民銀行に社会信用システム構築の権限を与えらていたこともあり、テンセントがサービスを展開するのは時間の問題と考えられていました。テンセントの強みとしては、ユーザーの微信(WeChat)やQQのようなチャットサービスやSNSサービス利用に関する膨大な量のデータを使用できる点にあるでしょう。また、自社が運営する「テンセント遊戯」というゲームプラットフォーム上で他のユーザーとプレイする際に不正行為を防ぐ目的で「テンセント遊戯信用」を展開することも発表しています。中国には、MMOと呼ばれる大規模協力型ゲームだけで1億3千万人近いユーザーがいると言われており、テンセント遊戯信用がオンラインゲーム上でのユーザー評価指数としての地位を確保できればテンセント信用も相乗効果的にパイを広げられる可能性もあります。芝麻信用としては対抗策を考えなくてはいけない状況に映ります。

テンセント遊戯信用のイメージ

また今月の1月には、中国政府の国家インターネット情報弁公室がアリペイ・芝麻信用のデータ採取方法を去年6月に施行されたサイバーセキュリティ法違反として認めるという出来事がありました。アリペイのアプリでアカウントを登録する際、ユーザーは芝麻信用での使用を目的としてユーザーの個人情報をアリペイが収集することへの同意確認が行われます。この同意確認は、ユーザーがアプリ上でチェックボックスにチェックをいれることで行われるのですが、デフォルトだとこのチェックボックスにはすでにチェックが入っている状態なのです。つまり、このチェックボックスに注意を払っていない大多数のユーザーは、知らぬ間に自分たちの信用情報がアリペイに収集されていたということです。これには、アリペイユーザーの一部が大反発し、アントフィナンシャル側もプライバシー保護基準を見直しする旨の声明を発表しましたが、アリペイ・芝麻信用への不信感は強まったと考えられます。

さらに、最近では芝麻信用が本当に信頼できる信用度スコアなのかという疑問も出てきているようです。というのも、芝麻信用のスコアの低いユーザーを対象に、彼らのスコアを抜け道的な方法で上げるビジネスを展開する業者も登場しているというのです。例えば、先述の通り芝麻信用のアルゴリズムでは、アリペイ上の「友達」の芝麻スコアが高ければユーザー自身のスコアも高くなります。その性質を利用して、スコアの高いユーザーを紹介し「友達登録」させる代わりに対価を払わせる、といったようなグレーなビジネスが行われているのが現状です。このような不正が横行し始めると、芝麻信用のシステムを信頼して芝麻スコアの高いユーザーなどを対象に、例えばレンタル用品のデポジットを無料にしている事業者は大きな被害を被ることになります。実際に中国メディア36Krの記事でも、深センで芝麻スコアが700点以上の顧客のデポジットを無償にしていたカーシェアリングの会社で、デポジットが無償の顧客が車を傷つける確立が最も高くなってしまっている現状が紹介されています。本当に信頼できる社会信用スコアを提供するために、今後芝麻信用がどんな手を打つのでしょうか。

日本でもメルペイが信用スコアを提供するサービスを開始する予定があるようで、芝麻信用が今後どんな道をたどるのかも大事なマイルストーンになりそうです。そのような点も含めて今後も芝麻信用から目が離せません。

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参照URL(2018年7月27日現在)