老後のリスク

よく、お客さんに、老後のリスクを考えろという有り難いご指摘を受ける。

「兄ちゃん、こんな所でヘラヘラしてても、年とるんだよ。大丈夫か?」

「オマエ、病気になったらどうするんだ?年金入ってるのか?」

「今は食えているかもしれないが、いつか日本に帰るんだろ?どうするつもりなんだ?いつまでも若いと思ってるなよ」

有り難い話である。僕は他人の老後の心配なんかできる余裕は無いし、想像力も持たない。

で、最近読んだコラムからも考えさせられたんだが、老後のリスクとは何か?という事なんです。言いたいことは。

老後の成功者とは、今の世間の価値観で言えば、多くの金や権力を持っていて、配偶者、家族に認められて、子供の家族が皆うまくいっていて、親戚一同から尊敬されて、街に繰り出しても若い人がチヤホヤしてくれる人であろう。

で、まずは原理的に言えば、成功者と認められるような金や権力というのは相対的なものだから、実際には世の中どうなろうが、このポジションはごくごく少数の人しか手に入れられない。

皆が金や権力をもっていたら、皆嬉しくない。自慢もできない。希少な金と権力だから、偉そうにできるし嬉しい。藤子不二雄A先生は、好々爺を絵に描いたような僕の憧れる老人だが、10年前のインタビューを見た限りでは、謙虚で礼儀正しく、品行方正を絵に描いたような爺さんの癖に、困ったことに、毎日六本木のクラブで酒を飲む事を楽しみにしているとの事だ。しかも、なんか話を聞いていると、大体、有名女優と呑んでいるみたいだ。好きな食べものは?と聞かれて、

「うーん。たけのこですね。2番め?贅沢と言われるかもしれないですが・・・松茸なんですよ。申し訳ないです。肉?魚?いや、僕は寺で育ったから、野菜しか食べないんですよ。でもね、料理雑誌見て、ステーキがジュワッとしている写真とか見るのがすごく好きなんですよ。美味しそうだな。と思うだけ(笑)実際は食べると気持ち悪くなっちゃって(笑)」

こんな、おちゃめな事言う人がですよ。

「この間、リエちゃん(宮沢リエだと思う)と呑んだ時は楽しかったなー」とか言っている。

素直な人だからみのもんたみたいに自慢するような語り口じゃなくて、あけっぴろげに語ってしまわれていた。それで、飲みたい女優は既に全員飲んだから、特別希望はないそうだ。寝るのが勿体無いから、今でも毎日ほとんど寝ていないらしい。

希少な人物だけが、老人になってそういう事するから、大衆は羨ましいと思える。

でも、ほとんど全ての人は、老後、権力は剥奪され、金は好きなときに好きなだけ使うような事は無い。むしろ、多くの金があろうが、若者からも眉を背けられるぐらいに、ケチな使い方をするようになる。大きな家を持とうが、管理人以下の扱いをされる。草むしりだ、雪かきだ、色々頭を悩ます。

大学卒業してから、40年間、作業着なり、スーツなりを鎧として身にまとったのが、ある日病院に行って、ヨレヨレの浴衣を渡され、個性の無い番号管理され、「入院老人」になる。

そして、その後は、介護施設でお遊戯をする事になる。

その中で、女性というのは、意外とそういうふうになったら、そういうふうで、コミュニティーを作り、自分を失わず、周りの環境に適応していける人が多い。若い時から子供を産んだり、育てたりして、年齢を経ても、社会の肩書が全ての生き方をするような人は少数派だからだ。

しかし、男はおそらく、その病院浴衣を着せられ、なんかの冗談だろと思ってから2日も経った時に、社会的地位があった人ほどこう思うんじゃないか。

「なんで、この隣のジジイと俺が同等な扱いで、こんな亡者みたいな格好で管理されてるんだ?ここはどこか?もしかして、地獄に行く前の待合室って事なのか?」

それで、ある人は手に負えないほど暴れだし、ある人は、自我を押し殺して、寡黙を貫き、耐え難きを耐える人生が始まる。すぐ死ねればいいが、そこから下手すると、20年ぐらいあったりする。

金があるにはあるが、将来何が起こるか分からないから、使えない。退職した会社に久々に行ったら

「え?なんで来たの?」

みたいな顔されながらも、お茶だけ出してもらい、30分で追い返される。

肩書、金、こういうものを取っ払われた後に、どうたち振る舞えばよいか、まるで分からないのだ。

そして、定年前はあれほど生き生きと、部下に檄を飛ばし、会社の未来を割烹料理屋で熱く語り、面接官として若者と向き合い、退職時には多くの送別会で涙を受け、花束をもらった栄光の歴史を持つ、若い時から強烈な個性を持ったオッサンは、10年も立たないうちに、コモディティ化された、要介護な老人となっていく。

コンビニで中国人相手にわめく。ファミレスでミャンマー人の若い女の子を困らせる。

こういう人を目の前にし本当に、情けないと思っていたが、中国人にもミャンマー人にも金はないかもしれないが、明日がある。未来があり希望があり、仲間がいて個性があるだけいい。この老人は怒る事しか、コモディティ化された殻を破る方法を与えられていないのだ。だから、これからはこういう人を見たら、爺さんを注意しようなんて殊勝な考えは捨てて、黙ってうつむくのみだ。

僕は小さな店をやっていると、基本は、日本人のお客さんの50代以上からは、いきなりタメ口だ。このコミュ力とやらには恐れ入る。ぼくはそんなにスルッとタメ口ゾーンには入っていけない。まぁ、常識的なのはあっちで、こっちじゃない。だから、別にいい。下手すると、年下からもタメ口なこともあるけど笑。

別に、嫌じゃないし、むしろ気楽だ。文句言っているわけでもない。

僕個人は、飯屋の店員であろうと、若い人にも敬語を使う。これは、僕が理由なく論理破綻すると、思考停止するアスペルガー的な要素があるからであり、礼儀正しいからではない。

初対面の人には敬語をつかったほうがいい、というシンプルなルールがあるよね。で、居酒屋のウェイターにはタメ語でよくて、ファミレスは?寿司屋は?料亭は?ファミレスでも若い店長ならタメ語OK?ファミレスに営業にきてる零細卸の社長さんには?だって、店長さんにその社長さんペコペコしてたよ。店長の後輩は年下だけど本部のエリートエリアマネージャーらしいよ。だったら敬語?イヤーーーー

となり、思考停止する事が目に見えている。

でも金とか年齢とか、権力とか、そういうのに依存せずに立ち振る舞えなくならないようにするには、日常から、なるべく自分の社会的地位や高齢に頼らずにおくのは結構いいんじゃないかと思えてきた。

僕にとっての最大のリスクは、病院で浴衣を着た後、どうしていいか分からず、押し黙るか切れるかを繰り返すことだ。

ホームレスになるほうが、よほど極楽だと思う。

ただ、ホームレスにはなりたくないので、そういう事が無いように、何かしらで一発当てて、藤子不二雄A先生のような老後を迎えるつもりですが•̀.̫•́✧

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